ヒヨル いちねんせいのはなし 忍者ブログ
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二百三十円の分厚いマンガ雑誌をひざの上でひらいて読んでいると、右肩がすこしだけ重くなった。壁山は視線だけ動かしてそちらを見る。少林寺が乾きかけた洗濯物みたいに、右肩にだらりとぶら下がっていた。ねーなに読んでるのといかにも興味なさそうに問いかけるものだから、その気のない口調に壁山はわらってしまう。ぱたぱたとうごくつま先が、リズミカルにやわらかく背中にふれている。わらうなよーと少林寺はくちびるをとがらせた。今日の機嫌は上々だな、と思いながら、ジャンプだよと壁山は答える。の、ナルト。ナルト。少林寺はつまらなそうにくり返す。少林寺はマンガやゲームをよく知らない。知らないというより興味がないらしく、サブカルブームの昨今では珍しくすきなゲームもマンガもアニメもバラエティ番組も、空白のままおいてある。今日ラーメンたべ行く?というのはナルトからの単純な連想なのだろうなぁと壁山はうなづく。いいよ。行こう。
壁山の顔のすぐそばに、ふわふわのポニーテールが波うっている。嬉しそうににーとわらう少林寺の横顔は、同性だけどかわいいなぁと壁山は思った。思っているだけで口には出さない。不用意なことを口に出そうものなら、少林寺は烈火のごとく激怒する。きれいな髪の毛も小柄できゃしゃなからだもすべらかなしろいひふもジェンダーフリーな名前も、なにもかも少林寺にとってはコムプレクスであり地雷なのだった。ふれられたくないそれらのことに、あえてふれるほど壁山は勇敢ではない。栗松も宍戸もさぁ。壁山はインクのかおりも新鮮なページをめくりながら考える。もうちょっと考えればいいのに。少林寺は黙って、たぶんナルトを読んでいる。思いっきり途中だけどおもしろい?わりと。よくわからないけどと少林寺はだらんと下げたてのひらを振った。次、ということらしい。壁山はページをめくる。
思っていることをそのまま口に出すことが美徳である人間は、そう多くない。そういう人間はおおむね煙たがられてしまいだ。なんでもかんでも口に出す少林寺でさえ、たぶんそのいちばん大切な部分は、誰にも言わずにちゃんと隠してある。口に出さなすぎてそれをうとましがられる栗松。口に出しすぎてそれを軽蔑される宍戸。ふたりとももっと考えればいいのに。壁山。ん?なに考えてんの。いろいろ。ふーんと少林寺はやはり気のない返事をして、ずるりと後ろに壁山のからだをすべり落ちた。そのまま前に回って、壁山のひざとジャンプの間にすわる。あそこじゃ見えにくかったんだよなと無邪気に言う少林寺を、壁山は実は誰よりもこわいと思っている。すきなことでもきらいなことでも、自分を語らない少林寺。空白だらけの思想をしながら、それを埋めずにいられる少林寺。栗松が黙ることで埋めて宍戸がしゃべることで埋めて壁山が考えることで埋めるその場所を、少林寺は誰はばかることなくまっさらに空けておく。
栗松や宍戸が踏み抜く少林寺の急所を、壁山は決して踏まない。だけど壁山はちゃんと知っている。壁山が踏み抜く急所を少林寺は決して怒らないのだった。それを少林寺は誰にも言わずに隠してある。まったくひどいやつだ。まったく怖くて手におえない。しょうりんはかわいいな。壁山の言葉に少林寺は振り向き、くもりない顔でにーとわらった。あんがと。ずっとそうしてればいいよと言う壁山の言葉に、ふわふわでやわらかなポニーテールがうなづく。壁山ってさぁ、実はおれのことあんますきじゃないでしょ。壁山はそれには答えずに、てのひらで少林寺のちいさなあたまをそっとなぜた。指先にはインクがくろくにじんでいる。少林寺のすきなたべものさえ壁山はいまだに知らない。まっさらな少林寺のあたまのなかに、いずれ詰まるであろうものを壁山は羨む。壁山だけでなく、栗松も、宍戸も。ジャンプあげよっか。あまりにも真剣に読んでいるのでそう切り出すと、少林寺は首を振る。いらない。興味ない。これだなと壁山は思う。これだから少林寺は。
はやくラーメンくいたいねと寄りかかってきたからだがちいさくて、驚いた。壁山はやわらかくわらう。これだから少林寺は怖くて。こわくて。可憐な少女のような顔でわらいながら、少林寺は燃えるような牙をいつでも磨いて隠してある。







燃え落ちてエンドロール
壁山と少林寺。
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徹ゲーか、いや違うな。あー、わかった、映画だ。感動してないて寝れなかった。まっかにまぶたを腫らしてげっそりと隈を浮かせた目をして、机にぼうっと眠そうに頬杖をついている栗松に向かい合って、音無はひとさし指を立てる。あたり。栗松はだるそうにうあーとあくびまじりのため息をついた。あからさまに眉をしかめるが、音無はそれを無視してにやにやわらう。なに観たの。なんでもいーじゃん。緩慢なしぐさで栗松が目をこすった。まるい目があかく血走っている。あたしも観たいから教えて。つかなんでおまえここにいるのー。栗松はべたりと机に伏せる。もーさー眠いからねかして。えーいいじゃんおはなししよーよ。音無は手を伸ばして栗松の肩をゆさぶった。学ランがだいぶ余っている栗松の肩は痩せている。
昼休みの図書室は海の中のようにひんやりとしている。ほこりをかぶった革の背表紙がずらりと並ぶ専門書の一角は、その中でもひときわ静かに沈んでいた。ごわごわのかたい絨毯は、足の指先をすべらせるとまるで板のようにすべる。冬場はすこしつらいだろうなと栗松は思った。流氷の図書室。あ、なんかいいかも。そんなくだらないことを考えながら栗松はうーんといかにも不機嫌に呻き、肩に音無の手を乗せたままのろのろと顔をあげた。なんか用事あるんじゃねーの。ん、ないよ。なんなのもーと栗松はぐたりと頬杖をつく。おれ音無の暇つぶしにつきあう元気ないんだけど。徹夜で映画なんか観なきゃいいじゃん。次からそうするわと栗松はがくんとあたまを垂れた。なんだかんだで栗松がまじめでやさしいということを、音無はたぶん部員の誰よりもよく知っている。
それでなに観たのと音無は蒸し返す。栗松は眠そうにしょぼしょぼとまばたきしながら、グラディエーターと投げやりに答えた。どんなはなしなの。それ言ったらおもしろくなくね?栗松が苦笑する。まー観ればいいよ。おもしろいから。へーと音無は肩に乗せたままだったてのひらを栗松のあたまにぽんと乗せる。おーいとけだるく栗松はそれをとがめた。あんなに映画のタイトルが聞きたかったのにいざ聞いてしまうとあっという間に興味が失せてしまって、そのことに音無は驚いていた。すこしだけ。さわんなって。えーなんで。いやーこれはどう見てもおかしいでしょ、いろいろと。やわらかな色と質感をした栗松の髪を(文句を言われるだろうなーと予想しながら/そしてそうなればいいなと思いながら)ぐしゃぐしゃにまぜる。栗松はあたまを垂れたまま、んーとうなった。なにも言わない。てっちゃん。ん?ごめん。栗松はもそりと顔をあげて、別にいいんだけどと言った。いいんだけど、つらくね?そういうの。音無はくちびるをほころばせてにやにやとわらった。ついでにむふふーと満足な声もつけ加える。
音無は指先に力をすこしだけこめた。ほら見たことか。栗松はこんなにもやさしい。こんなにもやさしくていとおしくてばかで間抜けだ。そのやさしさを誰が見てくれるの。それを誰が感じてくれるの。つらいだなんてどの口が言うの。誰を棚にあげて、どの口が言うの。ねぇ。音無は目をほそめてわらったまま言う。あたしね、てっちゃんのことけっこうすきだよ。今度は栗松がわらう。あーあー聞こえなーい。なんも聞こえない。うわぁうざぁぁぁと音無は栗松の後頭部をぱふぱふとたたく。そうしながらどんどんとかなしくなった。どんどんこころが落ちていく。八つ当たりしかできない音無。そしてそれを流すこともできない栗松。昼休みの図書室は海に似ている。あとは沈んでいくことしかできない、ふかいふかい眠りの海に。
ないたらおれ音無に本気で告白するよ。栗松はうなだれたまま言った。できないこと言わないのと音無はわらった。できないとちゃんとわかっている。音無はこんなにも信じている。ふたりの間にあるものは、言葉になんかならないのだった。ほんのすこしを共有して、音無はもう栗松になる。できないなぁと栗松は力なくつぶやいた。半ば眠りに浸かった栗松の声。栗松は春のようだと音無はいつも思う。まじめでやさしくて、やさしすぎていつだってなきたい。本気で告白してもいいよと音無は言った。やわらかな髪にてのひらをうずめたまま。あたしは本気で断るから、そんでふたりでなこうよ。栗松はそれには答えずに、最初にあおい空と麦畑の映像が流れるんだと言った。麦をてのひらでさあっと撫でていくんだけど、それがきれいでおれは一晩中ないてた。ないたよと栗松は力なく繰り返した。あんなきれいなもの見たら、案外もうどうだっていいんだ。音無は栗松の後頭部をぱしんとはたいた。今日はツタヤだなと思った。つつじが山のように咲いている通学路をさかのぼって、徹夜で映画を観てなきたい。
音無はてのひらをすべらせて、投げ出された栗松のそれにそっと重ねた。栗松の指は痩せている。感情を余らせるロマンチストの痩せた指。海のように終わりのないすこしを共有して、音無はもう栗松になれる。






花落つること知る多少
栗松と音無。
授業中にメールが来た。休み時間に開くと三通来ていて、一通目は半田先輩から。タイトルは『☆お知らせ☆』内容は『やべータバコ騒ぎになった!(汗)学年集会とかありえねー(下向き矢印)(下向き矢印)つーわけでおれら部活遅れるから(笑顔)(キラキラ)』デコメがうねうね動いている。なにが笑顔だ。二通目はキャプテンからで、タイトルは『今日』内容は『二年全員部活遅れるから、アップして監督に伝えといて!』これは一斉送信で一年全員に送られている。まめなひとだ。三通目は染岡先輩からで、タイトルはなし。内容は『昨日ボール当ててクーラーボックス壊したから謝っといて』いやいや自分でやれよ。それ怒られんのおれじゃん。とりあえず三通目は音無に転送したらすぐに返信が来た。『ゆるさん』だからやったのおれじゃねーし。
そのメールたちを見たのは、もう五時間目も終わってあとは清掃してホームルームして部活行くだけ、ってときだった。えーとちょっと思って、そのあとに今日PSP忘れたなーと思った。少林寺は飼育委員だから、清掃場所は鶏小屋のあたりだ。おれは便所。男子便の個室ってあんま汚れてねぇなぁといつも思う。だから三人もいらないんじゃね、って思うけど楽だからわりといい。ゴム手袋はめて手洗い台の水垢をみかん石鹸で落としていたら、横から水ぶっかけられた。あーもーって言ったらふたりともモップとブラシ持ってびっくりしていた。なに?いや栗松さー。あーやっぱなんでもねーわ。わりー。えっなになに?おれなんかやった?思わず周りを見回しても特になんもなかった。上履きまでひたひたになってしまった左足だけものすごくつめたい。ふたりともそのあとなんもはなしかけてこなかった。もしかしておれマジ切れしたって思われた?そりゃちょっとイラッとはしたけどさー。
掃除道具入れにモップとブラシとホースとゴム手袋と便所たわしとすっぽんを適当に押し込んで、じゃばじゃば手を洗って外に出たら音無がいた。あーいたいた。なに?用事?クーラーボックス壊れたってゆってたからさー確認してきたの!掃除中になにやってんのおまえ。もうさぁばっくりだよ、ばっくり!ってわけで用事じゃないんだけどちょーむかついたの!先輩に言えば。絶対逆ギレされるからやだ。正直言えてる。しかもきれいな方壊れてたしーもう最悪!必殺技禁止!音無はぷりぷり怒りながら行ってしまった。どうせ経費で落ちるって言うか、夏未さんに言ったら解決するような気がする。教室に戻る途中、音無は壁山をつかまえて文句たれてた。あーあーもー。チャイム鳴るよって言ってやったら、じゃまたあとでねって音無は教室に帰ってしまった。あれまだ文句言い足りないの?そうなの?壁山はやれやれみたいな顔して、おれを見てちょっとわらった。気持ちはよくわかる。
ホームルームが終わったら、いつも少林寺と一緒に教室を出る。だいたい階段のあたりで壁山と合流して、げた箱ぐらいで宍戸と音無と合流する。ふたりは教室がおれらより一階したにある。しゃべり続ける音無の横で、宍戸がめちゃくちゃうんざりした顔でスニーカーを履いていたので、まだあの話題継続してんの?って聞いたら、今度は別の文句だった。もーいーじゃんって壁山が言うと、それとこれとは違うって力説された。声がでかい。少林寺だけがよくわからんみたいな顔で、おれらのやり取りを黙って見ている。つまんね?って言ってみたらやー別にーとか言って、言葉どおりちょっとおもしろがってる感じだったからこいつまじすげぇと思った。少林寺は変わってる。なんか物事の着眼点みたいなのが、おれらと九十度ぐらいは違うんじゃないかなってたまに思う。でももう飽きたーって少林寺がすたすた歩いていって、そういうとこも変わってる。素でそんなことをするからおれは微妙にどきどきしてしまう。全然やさしくないからびびってしまうし、なんでも正直に言うからそれはそれでちびっと怖い。
部室で着替えてアップをしたらもうすることがなくなった。音無が洗濯機をめっちゃ回していたから、なんか手伝おうかって聞いてみたらタオルを山ほどたたまされた。いいにおいのする柔軟剤で洗ったーとか言ってるけど、使い込みすぎて生地ががびがびになっている。あんまりにもひどいやつは、木野さんがたったーっと雑巾にしてくれる。壊れたクーラーボックスを台にして、タオルをじゃんじゃんたたみながら音無の文句とか世間話とかを聞いていると、これはわりとおもしろい。視界の横っちょのほうでは宍戸がひまそうにでもものすごくはやく親指を動かしてモンハンをしていて、壁山と少林寺はやっぱりひまそうにちょうくだらないネガティブしりとりをしていた。ねーねーどっちが五秒止めれるかやろうよ。音無がタオルを片付けてストップウォッチを出してくる。もうこんくらいしかすることないし。アキレス腱ももうのびのびだし。監督もまだこないし。はやく先輩っちくればいいのに。






ほうかごのはなし
一年生。
音無。おとなし。おーとなーしさーん。なに。そんな足立てるとぱんつ見えるよ。見えないよ。うわちょめくるなって。短パンぐらいはくでしょ普通。びびったートラウマ残るとこだった。ねーそのゲームおもしろいの。んー。っていうかトラウマってなによ意味わかんないんだけど。いやいや言葉どおりの意味だし。残らないでしょーあたしのなんだから。その自信がもう意味わかんね。それひとくちちょーだい。いーよ。ねーこれまずくない?普通だろ。あたし梅味あんますきじゃないんだよね。たべなきゃいいはなしじゃん。つかくさくね?なにこのにおい。リムーバ。はぁぁ?ペディキュアなおしてんの。ペディキュアとか家でやるもんだろ。だって今ひまだし。そんなもんさわった手でものくうなよ。ねーみてみてこの色ちょーかわいいでしょ。はいはい。みーてーよーもーばか。くえないものに興味ないんだごめん。てか靴下そんなとこにほっとくなよ。音無ちょっと揺らさないでおれ今クエストしてるから、ってあああちょっちょっちょっやめてやめてほんとやめて音無ごめんごめんごめんあああああ、あー、あーーーーイヤーーーー。あ。おわた。しんだ。しんだね。えっしんだの?もーせっかく弱ってたのにーなにしてくれてんだよやかまし。このばか。あーばかって言ったー。ばかって言った方がばかなんですー。音無さっきばかって言ってたじゃん。うるさい。あああああもう気力なえたわ。あとで先輩と行こ。ねーねーそれ目金先輩もやってるやつだよね。そーだけど。あたしもやりたいんだけどどこで売ってる?えー音無できる?難しいしやめとけば?難しいの?そんなに?そんなに。今おれクエスト失敗してたじゃんおまえのせいだけど。がんばればあたしもできるんじゃない?がんばればって。いっかいやらしてあげたら。やらしてやらして。えーでもおれだいぶいい装備してるけど。さいしょっからとかできるだろ。音無データ上書きしそうでこえーよ。しないしない。いやいや今までゲームしたことないだろ。じゃあ上書きしてもいい感じにしといて。できねーよ。とりあえず最初の方のやつみしてあげれば。うわあああこんなに血ぃ出るの?ムリムリムリムリあたしグロいのだめ。やっぱやめるーあーでも先輩とゲームしたいー。どうすんの。だいたい全部こんな感じだけど。げー悪趣味。うーでもやる。先輩とゲームする。ちょっと貸して。ほんと適当にいじんなよアイテムとか。あああ勝手に捨てんなし。えっこれどうやって動かすの。教えて教えてはやく。ちょっ勝手にあーもー。ねえねえこれこのあかいやつでいいの。ダメダメダメまだはえーよ。じゃあどれよ。音無ペディキュアもういいの。いい!じゃ片づけて靴下はきなよ。あとで!






アメノウズメは誘惑を捨てた
栗松と壁山と音無。
シチュはみなさんのご想像におまかせ。
ちなみにモンハンは据え置きGのクック先生で挫折しました。
宍戸の指が伸びて、びーと少林寺のみじかいまつ毛を引っぱった。うつらうつらとしていた少林寺は、それで一気に覚醒する。なに、きもいんだけど。周りからはいくつものひそやかな寝息がたちのぼる、深い夜の底、眠りの時間。ねむれねー。あゆむ、かまって。ねろ早く。少林寺は目をとじて宍戸に背を向けるが、痩せたてのひらが髪の毛をかきわけて背中を這う。あゆむ。ねーあゆむ。つかほんとうざいんですけど。寝間着のすそからそれが侵入してきそうだったので、とりあえず思いきり寝返りを打ってその手をつぶしてやった。あいて。宍戸が手を引く。少林寺は用意された布団にすっぽりくるまって、眉をしかめてささやく。みんなねてんだから早くねろし。だからねれねっつってんじゃん。おれ環境変わるとねれないのまじで。しらねーよおれ眠いんだけど。じゃー一緒にねよ。おれの布団おいで。やだよ絶対なんかするだろ。宍戸は笑顔で手を広げている。不気味だ。少林寺はハムみたいな格好のまま転がって、逆隣の栗松の布団の方に避難した。栗松の掛け布団はつつましくまるくふくらんで、規則正しいおだやかな寝息が聞こえる。
栗松のそばにぴったりと少林寺がくっつくと、宍戸がのっそりと自分の布団から這い出して、少林寺の布団を占拠してしまった。あーちょ。狭いスペースにす巻き状態ではさまれ、少林寺は宍戸を蹴る。かえれって。やーだ。あゆむが一緒にねてくれるまで帰らねーしねれねー。てめーモジャモジャ大概にしろよ。宍戸はくるくるっと少林寺の布団をはぎ取ってしまい、それを三人(栗松含む)の上からかぶせた。あゆむちょーいいにおいすんだけど。くえるの。くえるわけねーだろ。逃げ場を封じて宍戸がもうありとあらゆる場所をさわってくるので、少林寺は思いっきり股間を蹴りつけた、ら、寸前に膝でガードされた。うわうぜえ。いやいやまじしゃれにならねぇいたかったんすけど。ちんこ潰す気かよ。だまれモジャ。宍戸が反論しかけた言葉を切った。少林寺の背中で栗松が身じろぎする。んーとひくくうめき、またちいさな寝息を立てはじめるのを、ふたりは息を詰めて待った。あゆむが騒ぐと栗松起きちゃう。誰のせいだよ誰の。
つーかほんとねろ、と、少林寺は思いきり宍戸のひたいを突っ放した。そのすきに立ち上がると、元の宍戸の布団にすべり込み、その隣の壁山のそばに避難した。低反発枕も一緒に。壁山の寝返りに巻き込まれたら大惨事なので、ある程度の距離は保ってある。おやすみ、と一方的に宣言して、少林寺は低反発枕にあたまを預けた。もぐった布団がひやりとする。あゆむ。宍戸が呼ぶ。おれさーまじでおまえとひっついてねたいんだけど。あゆむ。少林寺は目をあけない。まぶたをあけるとたぶんもうずるずると言うとおりにしてしまうのは目に見えていた。宍戸はそういうとこがすこしこわい。あゆむ。あゆむ。呼びかけばかり耳に届くが、宍戸がそばに寄ってくる気配はない。はやくねなくては。明日も練習がある。少林寺はひたすら目をとじる。あゆむ。宍戸の声は延々と続いた。おれおまえのことすきなんだけど。あゆむ。
枕から宍戸のにおいがする。ねられない。








でも次の日の朝はなんでもない顔をするんだからやめとけばいいのに
宍戸と少林寺。
例によって矢印でも掛け算でもないふたり。
合宿です。正確な並びなんかしらん。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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