ヒヨル 花落つること知る多少 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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徹ゲーか、いや違うな。あー、わかった、映画だ。感動してないて寝れなかった。まっかにまぶたを腫らしてげっそりと隈を浮かせた目をして、机にぼうっと眠そうに頬杖をついている栗松に向かい合って、音無はひとさし指を立てる。あたり。栗松はだるそうにうあーとあくびまじりのため息をついた。あからさまに眉をしかめるが、音無はそれを無視してにやにやわらう。なに観たの。なんでもいーじゃん。緩慢なしぐさで栗松が目をこすった。まるい目があかく血走っている。あたしも観たいから教えて。つかなんでおまえここにいるのー。栗松はべたりと机に伏せる。もーさー眠いからねかして。えーいいじゃんおはなししよーよ。音無は手を伸ばして栗松の肩をゆさぶった。学ランがだいぶ余っている栗松の肩は痩せている。
昼休みの図書室は海の中のようにひんやりとしている。ほこりをかぶった革の背表紙がずらりと並ぶ専門書の一角は、その中でもひときわ静かに沈んでいた。ごわごわのかたい絨毯は、足の指先をすべらせるとまるで板のようにすべる。冬場はすこしつらいだろうなと栗松は思った。流氷の図書室。あ、なんかいいかも。そんなくだらないことを考えながら栗松はうーんといかにも不機嫌に呻き、肩に音無の手を乗せたままのろのろと顔をあげた。なんか用事あるんじゃねーの。ん、ないよ。なんなのもーと栗松はぐたりと頬杖をつく。おれ音無の暇つぶしにつきあう元気ないんだけど。徹夜で映画なんか観なきゃいいじゃん。次からそうするわと栗松はがくんとあたまを垂れた。なんだかんだで栗松がまじめでやさしいということを、音無はたぶん部員の誰よりもよく知っている。
それでなに観たのと音無は蒸し返す。栗松は眠そうにしょぼしょぼとまばたきしながら、グラディエーターと投げやりに答えた。どんなはなしなの。それ言ったらおもしろくなくね?栗松が苦笑する。まー観ればいいよ。おもしろいから。へーと音無は肩に乗せたままだったてのひらを栗松のあたまにぽんと乗せる。おーいとけだるく栗松はそれをとがめた。あんなに映画のタイトルが聞きたかったのにいざ聞いてしまうとあっという間に興味が失せてしまって、そのことに音無は驚いていた。すこしだけ。さわんなって。えーなんで。いやーこれはどう見てもおかしいでしょ、いろいろと。やわらかな色と質感をした栗松の髪を(文句を言われるだろうなーと予想しながら/そしてそうなればいいなと思いながら)ぐしゃぐしゃにまぜる。栗松はあたまを垂れたまま、んーとうなった。なにも言わない。てっちゃん。ん?ごめん。栗松はもそりと顔をあげて、別にいいんだけどと言った。いいんだけど、つらくね?そういうの。音無はくちびるをほころばせてにやにやとわらった。ついでにむふふーと満足な声もつけ加える。
音無は指先に力をすこしだけこめた。ほら見たことか。栗松はこんなにもやさしい。こんなにもやさしくていとおしくてばかで間抜けだ。そのやさしさを誰が見てくれるの。それを誰が感じてくれるの。つらいだなんてどの口が言うの。誰を棚にあげて、どの口が言うの。ねぇ。音無は目をほそめてわらったまま言う。あたしね、てっちゃんのことけっこうすきだよ。今度は栗松がわらう。あーあー聞こえなーい。なんも聞こえない。うわぁうざぁぁぁと音無は栗松の後頭部をぱふぱふとたたく。そうしながらどんどんとかなしくなった。どんどんこころが落ちていく。八つ当たりしかできない音無。そしてそれを流すこともできない栗松。昼休みの図書室は海に似ている。あとは沈んでいくことしかできない、ふかいふかい眠りの海に。
ないたらおれ音無に本気で告白するよ。栗松はうなだれたまま言った。できないこと言わないのと音無はわらった。できないとちゃんとわかっている。音無はこんなにも信じている。ふたりの間にあるものは、言葉になんかならないのだった。ほんのすこしを共有して、音無はもう栗松になる。できないなぁと栗松は力なくつぶやいた。半ば眠りに浸かった栗松の声。栗松は春のようだと音無はいつも思う。まじめでやさしくて、やさしすぎていつだってなきたい。本気で告白してもいいよと音無は言った。やわらかな髪にてのひらをうずめたまま。あたしは本気で断るから、そんでふたりでなこうよ。栗松はそれには答えずに、最初にあおい空と麦畑の映像が流れるんだと言った。麦をてのひらでさあっと撫でていくんだけど、それがきれいでおれは一晩中ないてた。ないたよと栗松は力なく繰り返した。あんなきれいなもの見たら、案外もうどうだっていいんだ。音無は栗松の後頭部をぱしんとはたいた。今日はツタヤだなと思った。つつじが山のように咲いている通学路をさかのぼって、徹夜で映画を観てなきたい。
音無はてのひらをすべらせて、投げ出された栗松のそれにそっと重ねた。栗松の指は痩せている。感情を余らせるロマンチストの痩せた指。海のように終わりのないすこしを共有して、音無はもう栗松になれる。






花落つること知る多少
栗松と音無。
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