ヒヨル ヨルオ化ケノ夏 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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夏の終わりを感じるのはいつも夏のただ中だ。不意に吹いた風の奥に涼やかさを感じてしまった、その瞬間から夏はゆるゆると老衰のように終わり始める。死に始めた夏に寂しいのは道路に暮れなずむ蝉の死骸や、赤すぎる夕陽が産み出す羊のなり損ないのような雲たちではなかった。ただただ楽しいだけの夏休みはこの先絶対に来ないだろうと確信できてしまうことでも、もちろん、ない。うつ向いた拍子に汗がぱたぱたとグラウンドに染み込む。鼻の奥まで燻し抜かれたように暑く苦しい。死にゆく夏の断末魔はいつも煮え立つような熱をこれでもかと撒き散らす。いつか去らねばならぬ場所にずるずると居残り、そのまま座を占めてしまった自分のように、夏は未練たらしく、図々しく、わがままで、寂しい。首の後ろが日焼けに剥けて、強く撫でた指が滑った。夏は繰り返す。二度と来ないのではないかと思わせるほどのはかなさは不気味にも思える。そのはかなさに、ほっとしてしまうことがまた、寂しくも思えたのであった。
影野は夏のゆうれいのようだ。真夏の盛りにも焼けぬ皮膚をして、あんなに暑苦しい髪の毛をしながら、ちりつく熱風にもどこか涼やかに毛先をなぶらせたりもする。かと言って、その涼やかさを誰とも分け合おうとはしない。ひとりだけおいてけ堀の柳の下にいるような影野の涼やかさは、なんとも言えずうそ寒い。ベンチにぽつんと座ってどことも知れぬ場所を眺めている影野には、土門が感じている夏の苦しさやなんかは、全く感じられないのかもしれない、と思わせるほどだった。誰も彼もが日に焼けててらてらと光る顔をしている中、どこ吹く風で遠くを見ている。よそ見をしていたらうしろ頭にどすんとボールを当てられた。しっかりしろ。目の下を真っ赤に焼いた円堂が、これもグラウンドからの照り返しで真っ赤になった目を細めて土門を睨んだ。すまない。少し笑うと円堂はなんとも言えないような顔をして踵を返した。死にゆく夏はどうにも狂暴で、あちこちで死に物狂いに荒れ狂う。寂しい、と、言って欲しがるみたいに。
影野の背中は夏の影ぼうしだ。ゆらゆらと手を招き、赤い夕焼けに逆らうように沈んでいく。
「でも」
「安心してるくせに」
土門は少し笑う。そうだ。そうだよ。影野は涼やかに、土門を惹き付ける。寂しい、と、口に出した。負けたような気持ちで。影ぼうしは振り向きもしない。死に始めるのはこういう瞬間からだ。理解してしまった、その瞬間から。
「おれがいてよかったって思ってるくせに」
いつか去らねばならぬ場所にずるずると居残り、そのまま座を占めてしまった自分も、いつか、夏のように去っていかれればいいと願っていた。たくさんのものを蹴落とし、踏み台に伸び上がり、わざとらしく侘びながら、その反面でその日が来ないよう来ないよう願ってしまう、こすい自分の二枚舌が、寂しいのだ。






ヨルオ化ケノ夏
土門と影野。
曲を交換してカップリングを書く。
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