ヒヨル そのほかのはなし 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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部活中のささいなミスに課される罰則はいくつかある。プレイ中のときはだいたいがグラウンドをぐるりと五周走らされる罰走だが、それ以外のこと、たとえばむだ口だったりもめ事だったり、そういうときは部室のまわりの清掃をさせられる。日当たりがわるく、手入れなどほとんどされていない部室のまわりはじめついてきたない。空き缶やパンの包みなんかが無造作に捨てられていることが日常茶飯事である部室のうらに、今日は目金と少林寺がいた。
少林寺がまげた腰をぐうっと伸ばして、先輩そっちどうですか、と問いかけると、まあまあですねと目金が肩ごしに振り返る。ジャージのそでが泥でくろく汚れていて、陽はしずみかけていた。つい一時間ほど前のことだった。そういえば、と少林寺が目金に話しかけたとたん、監督の怒声が飛んできたのだ。今日だけで十周はしらされた半田が疲れきった顔ですこしわらう。ふたりは盛大に怒鳴られて、練習が終わってからも着替えることさえできない。まったく君が話しかけるから。目金が雑草のつまったごみ袋の口をしばりながら言う。だからごめんなさいって。少林寺もおなじく、雑草以外のごみが入ったふたつの袋の口をしばる。まぁいいんですよ。目金がしろい手の甲であごのしたをぬぐった。半田くんよりましでしょう。ひひっと少林寺はわらい、ほじくりかえされた地面を靴底ですこしならした。まるでキャタピラでかえしたかのように、ふたりは雑草もごみもすべてなくした。ほとんど腹いせだった。
目金はひとつ、少林寺はふたつ、ごみ袋を下げてテニスコートのわきをあるく。なんの話だったんですか。つまんない話です。言ってくださいよ。チョコのことです。少林寺がそう言うと、目金は口をつぐんだ。あの中身はやっぱりチョコでした。トリュフっぽいし、手づくりですね。メッセージカードが入ってたんですけど。焼却炉にごみ袋を投げ入れ、不燃物は観音開きの倉庫に無理やりつめこんで少林寺は続ける。破って捨てました。中は見てません。あと、チョコも食べてません。目金のしろい手からごみ袋を受け取って、少林寺はそれを焼却炉に入れてやる。そうですか。両手をぱんぱんとはらって目金は言った。つらいことをさせてしまいましたか。
メガネのふちがかすかにひかっていた。先輩あのときないてましたか。そこから目をそらすように少林寺は問いかける。目金はそれには答えなかった。きびすを返したうなじがしろい。少林寺くんはすきなひとはいるんですか。目金のしろい指さきが泥によごれてかわいていた。爪のあいだに入りこんだ泥を、神経質な目金はきっと許せない。います。その言葉に目金はすこしわらった。じゃあつらかったでしょう。先輩はすきなひといるんですかと、少林寺は聞きたくて聞けなかった。しろい横顔がさびしくわらっていた。少林寺はてのひらをひろげてじっと見おろす。目金とおなじように、そこはよごれていて、かわきかけたそれを一刻もはやく、落としてしまいたかった。立ち寄った水道の水はきれるほどつめたかったけれど、目金はいつまでも手をあらっていた。あきれるほどいつまでもあらっていた。つらいことをさせてしまいましたねと目金が繰り返したが、あの日の部室でのことならもう忘れてしまったことだと、少林寺はその言葉に首をふる。目金がぬぐってしまいたいものを、少林寺は見てみぬふりがしたかったのだ。夕暮れの川岸には鴫がこうこうと鳴いていた。少林寺の手をとった、目金の手があきれるほどつめたい。
(部室にはあのひとがいる)






鴫の野にて
目金と少林寺。ふたりなのにひとりぼっち。
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ああわらうんだろうな、と土門は思って、だけど予想に反して、あのしろいすべらかなほほはにこりともしなかった。こわばった顔をしていたので、土門はさっさときびすを返してしまう。あの言葉にあきらかに、少林寺のまとう空気の重みが変わったことに、土門はすこしだけ満足した。ああそう、とかかとを地面にこすって土門はあるく。わらうんじゃなくて、なくんだ。あのときの少林寺の目のいろを、土門はすきだと思った。自分の冗談めいたやすい挑発を、あのちいさなからだで少林寺はこらえる。言葉にならないものを、そのほかのもので少林寺はひろげて見せたのだ。
少林寺が影野のことを思っているということは、土門はだいぶ前から気づいていた。自分が寄せる思いと、それがあまりにも似ていたから。土門はすこしわらう。あの子はずるいと、そんなことさえ思った自分がおかしくて間抜けだった。少林寺はいつも影野を見ていた。土門とおなじくらい。だからそうしたのだ。先輩先輩と影野をしたう少林寺の、その奥にあるものをむき出しにしてやりたかったのだ。土門には。うすいまぶたをとおして、沈みかけた夕日がもうくらい。にじむような光の中で、あのとき確かにふたりは孤独だったのに。土門にはなにもないのに。
ふたたび土門はきびすを返した。もと来た道をざくざくとかける。泣きじゃくりながらあるく、少林寺の背中が近くなっていく。ちいさなちいさな背中だった。かなしいくらい遠かった。その肩を土門はつかんだ。ほそく頼りない肩だった。少林寺が顔をあげる。涙にぬれたほほが、何度もこすられてかすかにあかい。少林寺がくちびるをひらきかけ、それを待たずに土門は少林寺の腕をつかんだ。そのからだを強引にだきよせる。制服のひざが地面にこすれて、もう離すまいと土門は手に力をこめた。てのひらにやわらかな髪がふれる。少林寺がもがいた。土門を突きのけようと手を伸ばす。
あゆむちゃん。腿を蹴られながら土門はささやく。あゆむちゃんはおれとおんなじだよ。どんなに嫌でも、それは絶対におんなじなんだよ。少林寺はないていた。離してよ離せよとなきわめいた。おれはあゆむちゃんがわらうんだと思ってたよ。少林寺のちいさな手が、土門のからだを何度も押した。ちがうちがうと訴えるようだった。おなじだろうと土門はわらう。おまえだっておれとおなじだろう。どうせおなじ舟をこいでいるだけだろう。むき出しにした下心はいたいたしくないていた。力なく土門の肩に額をあずけて、少林寺はないていた。まぶたがいたくて、土門は目をとじた。こんな風になくことができたなら。なにも持たない土門に、言葉のほかのもので少林寺は見せつけた。言葉にならないものものを、かなしいと惜しんだのは最初で最後だった。
土門の部屋のまるい紅茶の缶には、パッケージに虹色のクモが描かれた香がなんぼんも刺さっている。以前影野はそれをよい香りだといった。うれしくなって影野の部屋にたくさんそれを置いてきた。からだを離した少林寺は、先輩くさいと眉をしかめる。





フレグランスレインボゥスパイダー
土門と少林寺。
りんご追分と手紙の雨のあいだのおはなしです。
あるはれた授業中、椅子をきしきしと揺らしながらチュッパチャップスをなめている松野の手元の携帯がふるえた。
『めがねきめぇ!!鞄の中にアニメ雑誌持ってる!!』
「くそきめええええ!!つーかいちいち俺にいわなくていいから!俺あいつきらいだから!!」
驚くほどはやく動く松野の親指を、もう教師は注意しない。松野の手の中で、大量のストラップがじゃらじゃらと鳴る。おもしろくもなさそうにイチゴのあまいにおいのふかいため息をつき、チャイムが鳴る前に、松野は空っぽの鞄をつかんで席をたった。ホームルームも清掃もすっ飛ばして、松野はひとり部室へとむかう。通学かばんと兼用のぺたんこのスポーツバッグには携帯と財布と私服が一着だけ入っていて、教科書だのふでばこだのを松野は持たない。もちろん、松野のきらうアニメ雑誌も。
松野は目金がすきではない。オタクという人種がすきではない。きたない、くさい、ばかなやつらだ。すきではない、だいきらいで、だから清掃当番のために部室にはいってきた目金をつかまえて、有無を言わさず一発なぐった。お前、まじきめーよな。突然のことに、コンクリの床にへたりこんで松野を見上げている目金を、松野は足を伸ばして思いきりけとばした。つかなんなのお前。サッカーとかできないくせにさ。お前がいるとおれらまでそーゆー風に思われるじゃん。きもいんだよ。しねよ。せき込む目金の胸ぐらをつかんで松野はひっぱり起こす。さわるのも、本当は嫌だ。まつのくん。くぐもった声を聞きおわる前に、松野はつめたいコンクリに目金をつっぱなし、スニーカーでその痩せたわき腹を踏んづける。驚くほどかるいからだに、少しだけ動揺した。
いたい?きもめがねくん。うずくまる目金を松野は上からのぞきこむ。くせーから息とかしないでくれる?くちびるをゆがめてわらうと、目金の肩がふるえてゆっくりとからだが持ち上がった。なぐったほほがとっくにまっかに腫れている。いたいたしいほどあかく。こめかみをつま先でつくようにかるく蹴ると、メガネがかしゃんとすべり落ちた。落ちたそれをとおくにけとばしてやる。まつのくん。目金のほそい指が、松野の足首をよわよわしくつかんだ。さわんなよと足首をゆらしても、目金のしろいその手ははなれない。さわんなよ。きたねーんだよ。お前きめぇんだよ。おれはお前が。まつのくん。目金のむき出しの、切れ長のほそい目が松野を見上げた。まっかになった目には、うすい涙のまくがはられている。かげのくんはまつのくんにやさしいですか。松野の顔がこわばる。足首をつかんだ指がつめたい。あかぐろく腫れたほほで、目金はうっすらとわらった。松野の背中をうそさむいものが、ざわりと這い上がる。
目金が言わんとしていることを松野は察した。なによりもはやく。喉の奥から叫び声をこぼしながら、松野は指を振りほどいて思いきり目金をけりつけた。何度も何度も、けりつけた。顔をかばう手を踏みつけて、持ったままのスポーツバッグを振り上げてめった打ちにした。しねしねしねしねと何度も繰り返し、そのつもりで松野は目金をなぐりつづけた。目金の血の気の引いてあおざめた顔の下半分が鼻血であかく染まり、きたねーんだよまじで!と松野は目金をロッカーに投げ飛ばした。ひどい音がして、コンクリにくずれ落ちた目金は動かなくなった。松野の息はひどく上がっていて、喉をおさえてひゅうひゅうと呼吸をした。あたまがあつくてめまいがした。帽子をむきすてて目金の前に松野はひざをつく。お前しねよ。しんでくれよ。きもいんだよ。お前なんかきらいなんだよ。目金のしろい指が投げ出されたまま動かない。まるで時間が止まってしまったようだった。
かしゃんとかすかな音がして、松野は涙にぬれたほほで振り返る。傷だらけのメガネを拾い上げて、そこには影野が立っていた。たったひとりで、音もなく。松野はわらった。意味もないのにわらった。
このあとどうするかなんて、松野にはわかりきっていた。影野は目金をかかえ起こす。傷にふれて、声をかける。乾きかけた鼻血を、その手でぬぐう。やさしくやさしく、目金をなでる。いつものように。そう、いつものように。松野はわらった。わらうことしかできなかった。松野は目金がきらいだった。だいきらいだった。松野が望んでも手に入らないものを、望まぬ目金がもっているのだから。
影野は目金にやさしい。影野は松野にやさしくない。目金はきたなくて、だいきらいだった。泣けどわめけど影野はわらわない。






わらうかれの倒錯
松野と目金。その葛藤。
素敵なお題ありがとうございました。
がらりと少林寺がさむさにあからんだ指で部室の扉をひいたとき、その中には机に向かって突っ伏した目金ひとりだけしかいなかった。先輩。つんつんと指さきでひらいたわき腹をつつくと、目金の手のひらがその指を上からやわらかくつつむ。やめてください。目金は顔をあげない。先輩どうしたんですか。目金のからだに自分のそれをよせて少林寺はたずねた。椅子に腰かけたスニーカーのつま先が、じゃりじゃりと地面をやわらかくこすっている。
突っ伏した目金のあたまの先には、きれいにラッピングされた箱がおいてあった。それチョコですか。さあ、開けてないのでわかりません。今日は一年でいちばんチョコレートの消費量がおおい日で、少林寺の肩にかけられた鞄にもいくつかそれは入っている。しかしどうひいき目に見ても、女の子からチョコをもらえるようなタイプの人間では、目金はないのだった。目金が机に突っ伏したまま手を伸ばして、少林寺の髪の毛をかるくなでる。考えてることなんてもうわかっている、とでも言いたげなそのしぐさに、だったらなぜ、と少林寺は思う。なぜ、このひとはそれを受け取らない。
目金の手はものうげにひるがえり、あおいリボンを人差し指で引っかけて持ち上げると、それを少林寺にさし出した。これはきみにあげます。え?いいんです。でも。ぼくはあまいものがきらいなんです、こんなもの。目金は顔をあげない。こんなものもらっても、ぼくにはどうしようもないんです。きれいにラッピングされた箱が、目金のしろい指さきでゆれる。少林寺はそれを両手でていねいに受け取った。そうして目金のまるくなった背中に、腕をひろげてぺたりとはりつく。先輩なかないで。先輩。ないてませんよと目金の声がやわらかくひびく。もう暗くなりますし、きみは帰った方がいいでしょうね。ぼくはもう少しここにいます。その言葉に少林寺はいちど、ぎゅうと力をこめてその背中をだいてからマフラーを巻きなおした。じゃ、先に帰りますね。扉をしめるときに見た目金は、あたまを抱えて突っ伏していた。もうすこし、なんて言うけれど。もう出てこないつもりなのかもしれない。
あおいリボンは帰りがけに河川敷でほどいた。メッセージカードを中身も見ずに破って川に流し、箱を水面の上でひっくり返した。ぽちゃんぽちゃんと音をたてて、思いがひとつずつ沈んでゆく。最後に箱を踏みつぶして川へ蹴り込み、もういちど学校へ戻ってもいいかもしれないと少林寺は思った。リボンを持つひえた指さきをそっとひらくと、それは音もなくどこかへ飛んでいってしまう。
(あいつにはひどいことをしたけど)(こんなものたべられるわけないじゃないか)(あのひとが食べてくれないなら)(もうそれは)
水面は夕焼けをうつしてあかあかと燃えていた。それを見つめる少林寺の胸にはかたちのないものが去来して、かたちのないなにかをずたずたにしていった。これがかなしみに限りなく近いものだということに気づいた瞬間、少林寺はそこから動けなくなった。足を地面にぬいとめる底のない感情は、確かにあのひとのものだった。あのふたりのものだった。地図にまるをつけたコートジボワールという地名を帰ったら塗りつぶしてしまおうと少林寺はまばたきをした。(あのひとは一生受け取ることなんてない)(あのひとはおまえを受け止めたりなんか、絶対にしない)。鞄をひらいて残りのかなしみもすべて川に投げ入れてしまうまで、胸をかきむしるなにかが消えなくてすこしわらった。後悔はしなかったし、そんなものは、できるはずもなかった。手放した指さきはつめたくて、冬だった。なく場所さえ奪われたあのひとがないていませんようにと願った。







コートジボワールきみの手とゆく
目金と少林寺。
目金のこの感情をいちばん近い場所で汲んであげられるのは、少林寺しかいないと思います。
目金のほほはサッカー部の誰よりもしろい。連絡網とデータベースをつくりたいからと入部早々、メモを持ってはしりまわった音無が最後にたどり着いたのが目金だった。住所氏名年齢連絡先血液型生年月日家族構成。矢継ぎ早に質問をくりだす音無を冷ややかにながめて、で、それ必要なんですか、とひとことだけ言った。必要なら答えますけどね。言葉につまってへらっとわらった音無に、そのしろいほほはわらいかけることもしない。住所氏名年齢連絡先血液型生年月日家族構成、を、つらつらと音無にまけない早口で並べて、用がないならもう帰ってくださいねと、目金は文庫本をひらく。フレームのないレンズのふちにほそく光がたまっていて、その奥でながいまつ毛がまたたいた。
先輩は本すきなんですか。その質問を音無が言い切る前に、ぼくに関わると嫌われますよと目金がその言葉をぶち切る。さわさわと波のように押し寄せるひそやかな話し声やわらい声に、音無はようやく気づくのだった。早く戻ってくださいわからないひとですねと目金がすこしいらだったように言った。メモを持って失礼しましたと教室を出ると、爆発するようなわらい声がした。あああのひとがわらわれているのかと音無は肩ごしに振り向いた。背中があつくなったりつめたくなったりした。目金欠流、という文字を、指でゆっくりとなでる。それでなにが消えるわけでもない、けれど。
(あのひとは嫌われているのか)
それ以来、目金のつるりとしたしろいほほが音無から消えない。角がよれた文庫本をめくるほそい指が消えない。光のたまったレンズの奥のまつ毛のながい目が消えない。いつまでもあのひとを追えども、消えることがない。音無の思考は海のようだった。波のように押し寄せるものはわらい声でもなんでもなかった。ふかいふかい海だった。そのいちばん底にあのひとを落とした。







深海夜想曲
目金と春奈。
最初からイバラの道だったのです。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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