女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。
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ああわらうんだろうな、と土門は思って、だけど予想に反して、あのしろいすべらかなほほはにこりともしなかった。こわばった顔をしていたので、土門はさっさときびすを返してしまう。あの言葉にあきらかに、少林寺のまとう空気の重みが変わったことに、土門はすこしだけ満足した。ああそう、とかかとを地面にこすって土門はあるく。わらうんじゃなくて、なくんだ。あのときの少林寺の目のいろを、土門はすきだと思った。自分の冗談めいたやすい挑発を、あのちいさなからだで少林寺はこらえる。言葉にならないものを、そのほかのもので少林寺はひろげて見せたのだ。
少林寺が影野のことを思っているということは、土門はだいぶ前から気づいていた。自分が寄せる思いと、それがあまりにも似ていたから。土門はすこしわらう。あの子はずるいと、そんなことさえ思った自分がおかしくて間抜けだった。少林寺はいつも影野を見ていた。土門とおなじくらい。だからそうしたのだ。先輩先輩と影野をしたう少林寺の、その奥にあるものをむき出しにしてやりたかったのだ。土門には。うすいまぶたをとおして、沈みかけた夕日がもうくらい。にじむような光の中で、あのとき確かにふたりは孤独だったのに。土門にはなにもないのに。
ふたたび土門はきびすを返した。もと来た道をざくざくとかける。泣きじゃくりながらあるく、少林寺の背中が近くなっていく。ちいさなちいさな背中だった。かなしいくらい遠かった。その肩を土門はつかんだ。ほそく頼りない肩だった。少林寺が顔をあげる。涙にぬれたほほが、何度もこすられてかすかにあかい。少林寺がくちびるをひらきかけ、それを待たずに土門は少林寺の腕をつかんだ。そのからだを強引にだきよせる。制服のひざが地面にこすれて、もう離すまいと土門は手に力をこめた。てのひらにやわらかな髪がふれる。少林寺がもがいた。土門を突きのけようと手を伸ばす。
あゆむちゃん。腿を蹴られながら土門はささやく。あゆむちゃんはおれとおんなじだよ。どんなに嫌でも、それは絶対におんなじなんだよ。少林寺はないていた。離してよ離せよとなきわめいた。おれはあゆむちゃんがわらうんだと思ってたよ。少林寺のちいさな手が、土門のからだを何度も押した。ちがうちがうと訴えるようだった。おなじだろうと土門はわらう。おまえだっておれとおなじだろう。どうせおなじ舟をこいでいるだけだろう。むき出しにした下心はいたいたしくないていた。力なく土門の肩に額をあずけて、少林寺はないていた。まぶたがいたくて、土門は目をとじた。こんな風になくことができたなら。なにも持たない土門に、言葉のほかのもので少林寺は見せつけた。言葉にならないものものを、かなしいと惜しんだのは最初で最後だった。
土門の部屋のまるい紅茶の缶には、パッケージに虹色のクモが描かれた香がなんぼんも刺さっている。以前影野はそれをよい香りだといった。うれしくなって影野の部屋にたくさんそれを置いてきた。からだを離した少林寺は、先輩くさいと眉をしかめる。
フレグランスレインボゥスパイダー
土門と少林寺。
りんご追分と手紙の雨のあいだのおはなしです。
少林寺が影野のことを思っているということは、土門はだいぶ前から気づいていた。自分が寄せる思いと、それがあまりにも似ていたから。土門はすこしわらう。あの子はずるいと、そんなことさえ思った自分がおかしくて間抜けだった。少林寺はいつも影野を見ていた。土門とおなじくらい。だからそうしたのだ。先輩先輩と影野をしたう少林寺の、その奥にあるものをむき出しにしてやりたかったのだ。土門には。うすいまぶたをとおして、沈みかけた夕日がもうくらい。にじむような光の中で、あのとき確かにふたりは孤独だったのに。土門にはなにもないのに。
ふたたび土門はきびすを返した。もと来た道をざくざくとかける。泣きじゃくりながらあるく、少林寺の背中が近くなっていく。ちいさなちいさな背中だった。かなしいくらい遠かった。その肩を土門はつかんだ。ほそく頼りない肩だった。少林寺が顔をあげる。涙にぬれたほほが、何度もこすられてかすかにあかい。少林寺がくちびるをひらきかけ、それを待たずに土門は少林寺の腕をつかんだ。そのからだを強引にだきよせる。制服のひざが地面にこすれて、もう離すまいと土門は手に力をこめた。てのひらにやわらかな髪がふれる。少林寺がもがいた。土門を突きのけようと手を伸ばす。
あゆむちゃん。腿を蹴られながら土門はささやく。あゆむちゃんはおれとおんなじだよ。どんなに嫌でも、それは絶対におんなじなんだよ。少林寺はないていた。離してよ離せよとなきわめいた。おれはあゆむちゃんがわらうんだと思ってたよ。少林寺のちいさな手が、土門のからだを何度も押した。ちがうちがうと訴えるようだった。おなじだろうと土門はわらう。おまえだっておれとおなじだろう。どうせおなじ舟をこいでいるだけだろう。むき出しにした下心はいたいたしくないていた。力なく土門の肩に額をあずけて、少林寺はないていた。まぶたがいたくて、土門は目をとじた。こんな風になくことができたなら。なにも持たない土門に、言葉のほかのもので少林寺は見せつけた。言葉にならないものものを、かなしいと惜しんだのは最初で最後だった。
土門の部屋のまるい紅茶の缶には、パッケージに虹色のクモが描かれた香がなんぼんも刺さっている。以前影野はそれをよい香りだといった。うれしくなって影野の部屋にたくさんそれを置いてきた。からだを離した少林寺は、先輩くさいと眉をしかめる。
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土門と少林寺。
りんご追分と手紙の雨のあいだのおはなしです。
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