女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。
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がらりと少林寺がさむさにあからんだ指で部室の扉をひいたとき、その中には机に向かって突っ伏した目金ひとりだけしかいなかった。先輩。つんつんと指さきでひらいたわき腹をつつくと、目金の手のひらがその指を上からやわらかくつつむ。やめてください。目金は顔をあげない。先輩どうしたんですか。目金のからだに自分のそれをよせて少林寺はたずねた。椅子に腰かけたスニーカーのつま先が、じゃりじゃりと地面をやわらかくこすっている。
突っ伏した目金のあたまの先には、きれいにラッピングされた箱がおいてあった。それチョコですか。さあ、開けてないのでわかりません。今日は一年でいちばんチョコレートの消費量がおおい日で、少林寺の肩にかけられた鞄にもいくつかそれは入っている。しかしどうひいき目に見ても、女の子からチョコをもらえるようなタイプの人間では、目金はないのだった。目金が机に突っ伏したまま手を伸ばして、少林寺の髪の毛をかるくなでる。考えてることなんてもうわかっている、とでも言いたげなそのしぐさに、だったらなぜ、と少林寺は思う。なぜ、このひとはそれを受け取らない。
目金の手はものうげにひるがえり、あおいリボンを人差し指で引っかけて持ち上げると、それを少林寺にさし出した。これはきみにあげます。え?いいんです。でも。ぼくはあまいものがきらいなんです、こんなもの。目金は顔をあげない。こんなものもらっても、ぼくにはどうしようもないんです。きれいにラッピングされた箱が、目金のしろい指さきでゆれる。少林寺はそれを両手でていねいに受け取った。そうして目金のまるくなった背中に、腕をひろげてぺたりとはりつく。先輩なかないで。先輩。ないてませんよと目金の声がやわらかくひびく。もう暗くなりますし、きみは帰った方がいいでしょうね。ぼくはもう少しここにいます。その言葉に少林寺はいちど、ぎゅうと力をこめてその背中をだいてからマフラーを巻きなおした。じゃ、先に帰りますね。扉をしめるときに見た目金は、あたまを抱えて突っ伏していた。もうすこし、なんて言うけれど。もう出てこないつもりなのかもしれない。
あおいリボンは帰りがけに河川敷でほどいた。メッセージカードを中身も見ずに破って川に流し、箱を水面の上でひっくり返した。ぽちゃんぽちゃんと音をたてて、思いがひとつずつ沈んでゆく。最後に箱を踏みつぶして川へ蹴り込み、もういちど学校へ戻ってもいいかもしれないと少林寺は思った。リボンを持つひえた指さきをそっとひらくと、それは音もなくどこかへ飛んでいってしまう。
(あいつにはひどいことをしたけど)(こんなものたべられるわけないじゃないか)(あのひとが食べてくれないなら)(もうそれは)
水面は夕焼けをうつしてあかあかと燃えていた。それを見つめる少林寺の胸にはかたちのないものが去来して、かたちのないなにかをずたずたにしていった。これがかなしみに限りなく近いものだということに気づいた瞬間、少林寺はそこから動けなくなった。足を地面にぬいとめる底のない感情は、確かにあのひとのものだった。あのふたりのものだった。地図にまるをつけたコートジボワールという地名を帰ったら塗りつぶしてしまおうと少林寺はまばたきをした。(あのひとは一生受け取ることなんてない)(あのひとはおまえを受け止めたりなんか、絶対にしない)。鞄をひらいて残りのかなしみもすべて川に投げ入れてしまうまで、胸をかきむしるなにかが消えなくてすこしわらった。後悔はしなかったし、そんなものは、できるはずもなかった。手放した指さきはつめたくて、冬だった。なく場所さえ奪われたあのひとがないていませんようにと願った。
コートジボワールきみの手とゆく
目金と少林寺。
目金のこの感情をいちばん近い場所で汲んであげられるのは、少林寺しかいないと思います。
突っ伏した目金のあたまの先には、きれいにラッピングされた箱がおいてあった。それチョコですか。さあ、開けてないのでわかりません。今日は一年でいちばんチョコレートの消費量がおおい日で、少林寺の肩にかけられた鞄にもいくつかそれは入っている。しかしどうひいき目に見ても、女の子からチョコをもらえるようなタイプの人間では、目金はないのだった。目金が机に突っ伏したまま手を伸ばして、少林寺の髪の毛をかるくなでる。考えてることなんてもうわかっている、とでも言いたげなそのしぐさに、だったらなぜ、と少林寺は思う。なぜ、このひとはそれを受け取らない。
目金の手はものうげにひるがえり、あおいリボンを人差し指で引っかけて持ち上げると、それを少林寺にさし出した。これはきみにあげます。え?いいんです。でも。ぼくはあまいものがきらいなんです、こんなもの。目金は顔をあげない。こんなものもらっても、ぼくにはどうしようもないんです。きれいにラッピングされた箱が、目金のしろい指さきでゆれる。少林寺はそれを両手でていねいに受け取った。そうして目金のまるくなった背中に、腕をひろげてぺたりとはりつく。先輩なかないで。先輩。ないてませんよと目金の声がやわらかくひびく。もう暗くなりますし、きみは帰った方がいいでしょうね。ぼくはもう少しここにいます。その言葉に少林寺はいちど、ぎゅうと力をこめてその背中をだいてからマフラーを巻きなおした。じゃ、先に帰りますね。扉をしめるときに見た目金は、あたまを抱えて突っ伏していた。もうすこし、なんて言うけれど。もう出てこないつもりなのかもしれない。
あおいリボンは帰りがけに河川敷でほどいた。メッセージカードを中身も見ずに破って川に流し、箱を水面の上でひっくり返した。ぽちゃんぽちゃんと音をたてて、思いがひとつずつ沈んでゆく。最後に箱を踏みつぶして川へ蹴り込み、もういちど学校へ戻ってもいいかもしれないと少林寺は思った。リボンを持つひえた指さきをそっとひらくと、それは音もなくどこかへ飛んでいってしまう。
(あいつにはひどいことをしたけど)(こんなものたべられるわけないじゃないか)(あのひとが食べてくれないなら)(もうそれは)
水面は夕焼けをうつしてあかあかと燃えていた。それを見つめる少林寺の胸にはかたちのないものが去来して、かたちのないなにかをずたずたにしていった。これがかなしみに限りなく近いものだということに気づいた瞬間、少林寺はそこから動けなくなった。足を地面にぬいとめる底のない感情は、確かにあのひとのものだった。あのふたりのものだった。地図にまるをつけたコートジボワールという地名を帰ったら塗りつぶしてしまおうと少林寺はまばたきをした。(あのひとは一生受け取ることなんてない)(あのひとはおまえを受け止めたりなんか、絶対にしない)。鞄をひらいて残りのかなしみもすべて川に投げ入れてしまうまで、胸をかきむしるなにかが消えなくてすこしわらった。後悔はしなかったし、そんなものは、できるはずもなかった。手放した指さきはつめたくて、冬だった。なく場所さえ奪われたあのひとがないていませんようにと願った。
コートジボワールきみの手とゆく
目金と少林寺。
目金のこの感情をいちばん近い場所で汲んであげられるのは、少林寺しかいないと思います。
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