ヒヨル 勝利者のみ旗のあをけれど 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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生前は、という言い方をする。
兵器たちに名前はない。兵器としての適性がわかるや、彼らからはすべてが奪われてしまう。兵器はカプセルの中で脳を繋ぎ、ゲームマスタが命じるままに何度でも生死を繰り返す。生きながら死に、死んでは甦り、そのうちに彼らはなにもかもを失う。家族も友人も名前も、睡眠も食事も性も、自分自身さえ棄て去ったうるわしいいきもの。だから、生前は、という言い方をする。彼らはうるわしくも醜く、死ぬために死んだいきものだった。人間にとっては。
兵器の大半は身寄りのない子どもたちだった。これといって取り柄のない子どもは、ベルトコンベヤのごとく次々に兵器にされ、適性がなければ処分される。親を神によって亡くした子どもが関連施設に引き取られることもあり、この例が最近増えてきている。または、いろんな口はばったい理由で、親の手により子どもが研究所に投げ渡されることもあった。目金はそれぞれを一体ずつ備えている。子どもたちの中には時おり、自ら志願して兵器になるものがいて、そういう兵器は例外なく恐ろしく強い。目金も一体だけそれを持っていて、五回の適性検査の末にようやく手に入れたものだった。大っぴらにされてはいないが、適性が認められた子どもを売り買いすることもあり、目金はそれも一体持っている。
目金に向けて振り下ろされた神の手のひらを、横から突進してきた12が真横にはじく。反動で後ろに跳ね返る12のからだが、もう片方の手のひらに薙ぎ払われて地面に激突した。脳に激痛が走る。12は少女の姿をしている分、他の兵器より守りが薄い。12の骨に反応がないことに歯噛みしながら、目金は痛みをこらえて別の骨を撫でた。動かない12に向けて振り下ろされる拳を、下からすべりこんできた5が間一髪受け止める。防御型の5はちょっとやそっとでは崩れない。その隙に8が神の足を払い、体勢が崩れるのと同時に5は身を翻し、12を抱えて横へ飛んだ。倒れながらなお追いすがる神のしろい手を、上空から落下してきた3がからだで叩き落とす。奇妙にたわんだ腕は3をはじいて縮み、神は全身をしならせて新たな腕を生み出した。背中から生えた腕の、しかしそれより高く跳躍した7が、ながく伸ばした髪を刃物に指の先から腕の付け根までを真一文字に切り裂く。嗚咽のような神の悲鳴。
脳の奥をゆさぶられ、目金は次はこらえきれずに嘔吐する。神の発するすべては、人間にとっての害悪であり、名ばかりの神に人間は憎悪と憎しみを募らせていく。昔はこうではなかったと聞いていた。くちびるを拭い、わずか咳き込んで、目金は奥歯をくいしばる。目金の使う兵器たちは強く速く優秀だが、それでも神には敵わないと思い知らされる瞬間がある。神は人間を創り、そしてころす。人間には到達できないようなはるかな高みで、神が、そう決めたのだ。
腐り落ちる腕を捨てて神は跳躍した。しろく燃える超新星のごとく、落下は一瞬だった。目金がまばたきをする間に飛来した3が、そのてのひらを壁のように広げて神を押し戻している。さらにそれに5が加わる。二体の圧力に耐えきれず、すさまじい衝撃波とともに空に跳ね返された神は、さらに一呼吸の間に無数の腕を降らせた。伸び来る掌と指のアイオンを、しかし、素早く迎撃体勢に入った7の声なき一喝が蒸発させる。そのとき、目金の腕で12の骨がかたかたと震えた。はっと顔をあげると、すでに12は神に挑みかかるところだった。神の頭上を飛び越しざま、両腕を後頭部に触れさせる。とたんにその部分がざわりと波打ち、神の体内のどこかがはじけた。うつろな両目からあかぐろい闇がこぼれる。痛みからかやみくもに振り回された腕を、鋼の鞭のように変化した8の脚がカウンターで迎え撃つ。右腕をなくして神はしろいからだをよじった。切り落とされた腕は地面で腐る。
昔むかし神は神だった。世界を創り、いのちを生み、光を与え、すべての魂を迎える存在だった。今は違う。目金が吠える。それと同時に兵器たちは全力を振り絞る。神は害悪だった。神は世界を滅ぼし、人間をころし、光を奪い、なおも蹂躙する。絶望と憎しみを、その世のすべてだと、まるでそればかりを、高らかに歌うように。血と臓腑を撒き散らして神は叫ぶ。思わず身構えた目金の前に、その嘆きからかばうように3がふわりと降り立った。鼓膜を焼くその声が、目金にはまるで届かない。神の発するすべては人間にとっての害悪。「生前は」人間「だった」兵器に、神の言葉は聞こえもしない。生前は、という言い方をする。生前は、彼らは、ありとあらゆる手段で世界に嫉まれた子どもたちだった。今、彼らは、ありとあらゆる手段で世界を守っている。何度も何度も死を迎え、そのたびに、失いながら。3は肩越しに振り向き、目金を見て、そっとわらう。その瞬間、目金の耳に音が戻った。
拳を握った7が神の側頭部を思いきり殴りつけ、ぶわんと震えた片腕を5が押し返した。抗いきれずに後ろに振られる神のまっしろな胸に、長く鋭い槍に変型した8が深々と突き刺さり、さらにそれを3が押しこむ。悲鳴を上げようとした神ののけぞった喉を、背中から回り込んだ12が自らのからだで突き破った。どうっと洪水のように血が溢れ出す。神は抵抗するようにからだを痙攣させるが、地面に繋ぎ止めた8がそれを許さない。やがて神は徐々にその動きを弱め、ゆっくりと息を吐くように崩れ去った。神の残す透明な砂は外気に触れると同時に消えていき、そしてまたどこかでからだを結ぶ。死んでふたたび蘇った、昔むかしのジイザスクライストのように。そうして何度でも世界を滅ぼす。蘇る限り、何度でも。目金は腕を下ろした。兵器たちが集まってくる。12の右腕と右足が奇妙な形に歪んでいた。彼らはこのあとも苦しむことになる。
目金はそっと12の骨に触れた。12は顔をあげ、なんでもないようにほほえむ。目金の顔に手を伸ばし、ほほの汚れを拭うようなしぐさをした。兵器は人間に触れられない。それでも、それを忘れられないように(、あるいは、忘れたくないように)、彼らは時おりこのようなしぐさを見せる。神をころすことは人間では不可能で、神をころすために、兵器は死を繰り返して神へと近づいていく。それなのに彼らは人間を捨てない。捨てることをしない。目金はうつむき、兵器とのリンクを強制的に切断した。兵器にはあらかじめ優先順位がプログラムされていて、その一番上はいつも神をころすこと、だ。ゲームマスタを守ることはそれよりも下に置かれている。それなのに彼らはいつでも必ず真っ先に目金を守る。どんなに危険な状況でも、そのために腕や脚をなくしても。12の状況は芳しくない。どうか。目金はうつむいたまますこしわらう。今さら誰に祈ろうというのだろう。そんなことでは、もう、誰も救われない。

生前は、人間だった。
風が吹いて彼らの骨を海へ運ぶ。










勝利者の御旗の蒼けれど
目金。
舞城パロ。
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