ヒヨル 忘奏で合う劇場にてストラディヴァッリは咽び泣き 忍者ブログ
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音無のパソコンに入っていたデータをコピーしたディスクと、円堂のノートの一部、木野の持っていた選手資料なんかの複写を、ドラゴンボール完全版とクロマニヨンズのアルバムの入ったタワレコの袋に入れて丁寧にくるみ、鞄のいちばん底にしまったところでひとが来る気配を感じ、土門は急いでファスナを閉じる。ジャージの上着を取り出したところ、といった風を装って顔をあげると、立て付けのわるい扉ががたがたっと揺れて半分ほど開いた。目の覚めるようなゆうひの髪をした後輩が無言でぬっと入ってくる。よう。立ち上がりながら声をかけると、彼はちらりと土門を見て、ちす、と無愛想にあたまを動かした。おざなりなそのしぐさに、もしかして見られていたのか、とのどのあたりをこわばらせながら土門はわらう。彼は土門を無視して部室を見回し、かかとを引きずるように自分のロッカーへ向かった。表面に錆の浮いたロッカーはこれも立て付けがわるい。ばがん、と無理やりこじ開けたそこに鞄を押しこむ、そのしぐさが気だるい。
宍戸今日はやいね。土門はあかるく声をかける。確か今日は一年生も遅く来る日じゃなかったかと、さりげなく探りを入れるつもりで。あーまあ。なんかあったの。関係ねっしょ。ここの一年生は、ひと慣っこい見た目とは裏腹にひどくよそよそしい。二年生を含め、いまだに彼らの性格をわかりかねている土門は、その言葉に苦笑した。試合でちょっとがんばってみせる程度ではだめだったなと、さりげなく手で鞄を押さえる。ふと顔をあげると、宍戸がこちらを見ていて土門は思わず息を飲んだ。心臓が跳ねる。学ランを脱いだ宍戸の、カッターからつき出した手首は自分のそれと遜色ないほど痩せている。なあに。その言葉に宍戸は首をかしげて顔をそらし、鞄からユニフォームを引っぱり出した。土門はそうっと息を吐く。宍戸は目を隠しているせいか、なにを考えているのかいまひとつ読めない。おれのこと気になる?別に。あ、着替え見られるのはずかしーとか?宍戸は動じた様子もなくカッターを脱いだ。骨のように痩せたまっしろな腕をしている。
ユニフォームをかぶって髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜ、ひと呼吸置いてから宍戸は不意に口を開いた。クロマニヨンズ。え?顔をあげる土門に宍戸は平然と言う。すきなんすか。えっ、まぁ、すきだけど、なんで。あと、あー、ドラゴンボール?土門は目を見開く。それはあのタワレコの袋に、一緒に。なんだよ、急に。や、別に。ちょっと、みえたんで。宍戸は腕組みをしてうなだれている。見えたって、なにが。土門は鞄を押さえる手に力をこめる。鞄の中、奥の方の、タワレコの、袋の。考えるようにゆっくり言って、そこで突然宍戸は首を振った。なんつって。土門の背中をつめたい汗が伝う。鞄はファスナを閉めてジャージをかぶせ、宍戸が入ってきてからいちども開けていない。それよりも宍戸は、さっきからほとんど土門を見てすらいない。なのに。宍戸はその体勢で首を回し、なんでそんな動揺してるんすか、と言った。あざけるような口調。なのにその横顔はわらうこともしない。
土門はそっと腰を浮かす。今ばれるわけにはいかなかった。今はまだ。なあ、宍戸。宍戸はわずか顔を動かして土門を見る。さっきからなに言ってんだ?おれ、そんなの持ってないけど。言いながら土門はそっと距離を詰めていく。浮かべた笑みは、きっと、けだもののようだろう、と思った。宍戸のほほからあご、のどにかけての筋張った線と、それに連なるしろい首。適当言ったらころすぞ。右のてのひらの中で宍戸の首はいよいよほそい。ささやかな突起が親指の根本を緩慢に押し返してくる。血管の震動。こめかみがひどくあつい。宍戸はうすいくちびるを曲げて、いやなものでも見たように顔をそむけた。パン、くいかけ。いつから入れてんだよ。きたねえな。土門ははっと振り向く。鞄の中。コンビニで、確か、あれは、何日も前に買ってたべてたべきれずに。土門さえも忘れていたそのことを、宍戸は。だったら、あの袋の中身も。宍戸は。宍戸には。なんだよ!土門は首をつかんだまま宍戸を前後に揺さぶる。おまえ、なんなんだよ!
宍戸は抵抗もせずなされるがままで、土門が思いきり突き放すに任せてタイヤに激突した。鼓動がはやい。息が荒い。なんなんだよ。背中を這う汗が恐ろしくつめたく、土門は引きつった顔でわらった。嘘だろ。冗談だろ。だよな。な。宍戸は答えない。言えよ!タイヤを蹴飛ばすつま先がしびれる。嘘って言えよ!宍戸はかるくあたまを振り、のどの奥でうめきながら立ち上がった。あんたが隠してることは、最悪のタイミングでばれる、よ。よわよわしく咳きこみ、宍戸はぼそりと言った。なんなんだよおまえ。なに言ってんだよ。隠しごととか、ばれるとか、意味わかんねえよ。でたらめ言って。嘘ばっかりじゃねえか。おれがなにやったって、おまえ。土門は不意に口をつぐんで息を呑む。顔がこわばり、まぶたが引きつる。宍戸はじっと土門の心臓のあたりを見ていた。血管のすべてが沸き立ち、両腕がびっしりとあわ立つ。痛いほどの視線は、宍戸がみているものが、じりじりと土門を焼き焦がし、融かして、蔑んだ。
見えるのか。土門は乾ききったくちびるでささやくように問いかけた。みえるよ。宍戸はそっけなく言う。なにが見える。宍戸は顔をあげ、教えてやらねえ、と言った。まっすぐに土門をみながら。その首には土門の指の跡があかく残っていた。土門は視線をそらす。視線をそらして鞄を見る。あのいちばん奥のタワレコの袋のクロマニヨンズのアルバムとドラゴンボール完全版のすき間にあるものを、見ようと。みようと。引き戸ががたがたと鳴り、一年生たちが入ってくる。ちーす。おー宍戸。はやい。ウメシャーやすみだった。あーそういえばいなかったな。いつ来たの。今来たとこ。宍戸はあかるい声で言う。土門は立ち尽くしたまま、その光景をよその世界の出来事のように眺めていた。土門さん、どうしたっすか。気づかうような壁山の言葉にあいまいにほほえみ返し、はやく外に出ようと土門がジャージを持ち上げた、次の瞬間。
宍戸、首んとこどしたの。栗松の言葉に土門は息を止めた。目がひりつく。てのひらに鈍く残る感触。つめたいひふだった。宍戸はニチャっとわらい、事故だよ事故、と答える。土門は蔑まれていた。宍戸がなにも言わなくても。宍戸の目をえぐって棄ててやりたかった。そんな目で泣けと言うから。そんな目で、見なくていいものばかりをみて。宍戸は土門を振り向くこともなく、しろいてのひらでそこをぺたりと覆って、あとはなにも言わなかった。(なにをみてる)なにも言わずにどこか遠くをじっとみていた。(なにがみえる)








忘奏で合う劇場にてストラディヴァッリは咽び泣き
土門と宍戸と宍戸の目について。
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