ヒヨル たそがれはぼくらのシンパシーだった 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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脚のながい女だと思った。おおきな目をまたたかせてリカは豪炎寺を値踏みするように見て、そしてつまらなそうに厚いくちびるを曲げる。そのままふいときびすを返し、ベンチでうなだれる吹雪のあたまに手なんか添えてなにやらはなしかけていた。円堂はなんとも言えないような顔をして豪炎寺をにらみ、まぁ帰ってきたもんは仕方ねえか、と言ってボールを豪炎寺に投げ渡す。円堂、おれ円堂たちと会えてうれしいぞ。豪炎寺の言葉に円堂は答えず、木野を伴ってキャラバンへ戻っていった。木野だけが肩ごしに振り向いて手を振ったので、豪炎寺はあたたかな気持ちでそれに手を振り返す。木野はやさしい。ふたりの背中を見送り、ゆるりと手を下ろして周りを見回した。妙にがらんとしたグラウンドは、激戦の名残も残さずに乾いてけぶっている。ひょこっと出てきた音無が豪炎寺さあんごはんですよお、と両手を振っていたので、そちらにむかって駆け出した。音無がそこで待っていたので、すこしほっとしながら。
リカは豪炎寺を挑発的にすがめるばかりで、なぜかちっとも歩み寄ろうとしなかった。誰にでもあかるく接するリカは、いるだけで空気を華やかにする。それなのに豪炎寺を目の敵みたいにして、言葉だって交わしてはくれない。嫌われてるのか。唐突な豪炎寺の言葉に、近くにいた土門はびっくりしたように、えっなにが、っつか誰が?と目を丸くして豪炎寺を見た。おれが。誰に。あの。視線の先のリカを見て土門はあーあーとうなづき、まーあのコは恋しちゃってるからねぇ、となぜか楽しそうに言う。恋。そうそう。おれにか。なんでだよ。ぶはっと吹き出しながら土門は言い、まーねぇとゆるくうなづいて、おまえイケメンだから警戒してんだよ、と続ける。警戒。豪炎寺が考えていると、土門はふらりとリカに近づいてその背中をとんとんとつつき、豪炎寺を指さしてなにやらささやいた。とたんにリカに尻を蹴飛ばされ、その笑い声が豪炎寺の方まで響いてきたので豪炎寺は考えを中断する。代わりにそれをうらやましく思った。
豪炎寺はたくさんのことを同時に考えるのが苦手で、リカのことを考えていたらあとはなにも思いつかない。それなのにボールを受け取るとからだはなめらかに動き、脳のすき間をぴしりぴしりと埋めるように次々と相手を抜き去っていく。目の前にすべりこんできた華奢なシルエットにはっとしながらも、豪炎寺は足を止めなかった。果敢に攻めるリカを左右に振って交わし、高く蹴りあげたボールをオーバーヘッドでゴールへ叩きこむ。なんとかいう一年生の脇を矢のようにすり抜けたボールは、ネットに当たってゆったりと転がった。豪炎寺は振り向いてリカを探す。見たか。リカはたちむかいー次は絶対止めるんやでーと声をあげ、一年生はそれにおおきく両手を振って応えた。豪炎寺は指先で頬を掻く。今のは我ながらかっこよく決められたと思ったのに。リカは豪炎寺の横を素通りして自分のポジションへ戻る。ながい髪と陽に焼けた華奢な首。豪炎寺にはなにも思いつかない。ただ、見てほしかった、と思った。叶わなかったことだった。
雷門中で豪炎寺は異物だった。仕方のないことだと思う。豪炎寺が来てしまったから、雷門中は勝たなくてはならなくなってしまった。円堂は豪炎寺を疎んじている。最初の日から、今も。リカは夕陽のグラウンドで切れたスパイクのひもを直していた。みんなもおれを恨むかもしれない。その隣に突っ立って、豪炎寺はぼんやりと呟く。雷門中のみんなのことはすきだった。何度も裏切った自分であったけれど。みんなのことを考えていると、リカのことはうまく考えられない。だけどリカのいるあたりがあたたかい。夕陽がそこに沈もうとしているみたいに。だったら戻らんと逃げたらよかったやん。リカはそう言って立ち上がる。肩が並ぶことが心地よかった。それはだめだ。あかく燃える空に射られて、豪炎寺はまばたきもしない。おれには、サッカーのほかにできることがない。サッカーじゃないと、おれはだめだ。嫌われても?リカの言葉に豪炎寺はうなづく。おれがみんなを守るんだ。今度は。
あっそう、と乾いた声でリカは言い、首をぐるりと回して、いけすかんやっちゃな、と言った。よく言われる。豪炎寺はうなづく。円堂はおれがきらいみたいだ。リカはなにも言わずに並んで立っている。でもおれは、わりと、円堂はすきだ。豪炎寺は意味もなくわらった。リカの視線を感じ、不意に心臓のあたりがふわりとぬくもる。冬の窓がくもるみたいに。ほしかったものが与えられる絶対の幸福。おれは浦部のこともすきかもしれない。豪炎寺の言葉にリカはすこし黙り、なんで、と訊ねた。わからない。豪炎寺は素直に首を振る。考えたこともなかった。リカのことを考えていると、リカのことだけで、豪炎寺は満たされてしまう。理由なんかなかった。けど、おれは浦部の近くがいい、と思う。そう言うとリカは目をそらして豪炎寺から離れようとしたので、豪炎寺はあわててその手をつかまえる。あつい手のひらをしていた。夕陽のようだ、と思った。たそがれにさまよう、おれは、じゃあ。
リカの華奢な手のひらは豪炎寺のがさついた手の中でじっと固まっていた。リカのことを考える。リカのそばで。それはとても幸福だった。ずっと離れた場所で、疎んじられるのを待つよりも。夕焼けを裂いて鳥がゆく。夕陽めがけて。じゃあ、おれは、あの鳥になりたい。どんなに遠くにいても、きっと、広げた翼がみんなを守る。ほかにできることはない。たそがれにさまよう、ひとりでは。豪炎寺はうつむく。手をつないだリカはとおくを見ている。浦部。豪炎寺はぼそりと名前を呼んだ。浦部は誰がすきなんだ。リカは答えない。夕陽が絡まるほそい髪。嫌われたくないんだ。浦部には。豪炎寺はほほえむ。リカはなにも言わずに手を振りほどき、豪炎寺の首にそれを回した。夕焼けがみどりに光って消える。さまようふたりでは、それでは、なにができるのだろう。たそがれがたとえば、ふたりのシンパシーだったとしたら。









たそがれはぼくらのシンパシーだった
豪炎寺とリカ。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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