ヒヨル 勝利者のみ旗はあをく 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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この世界の人間はみんな神を恐れていて、それはいずれ神がすべてを滅ぼすからだ。神が世界を滅ぼす前に神をころせば人間が勝ち、だけどまた新たな神が生まれて戦いは終わらない。人間は永久に虐げられ、神が望んだような進化がなされないと、そこで生きる意味が尽きる。人間はあがいていた。神を滅ぼす最期の兵器を、己が同胞の中に、見出ださなければならないほどに。
目金はぽけっとからほそいひもで繋いだコントローラを取り出す。それはひとのからだから抜いたしろくほそい肋骨で、五本をひと束にして目金は手にしていた。そのひもを左の手首に通した瞬間、目金の周囲に五体の兵器が出現する。巨体のひとり、髪のながい小柄なひとり、ひょろりと背ばかりたかいひとり、中背のひとり、少女のひとり。これが目金の兵器だった。ゲームマスタ。目金は神をころすための人間だった。
神は今、稜線にじむ山のあなたで巨大なしろい手を振るっている。ときどき彗星のような発光体が神に向けて特攻を繰り返して、そのうちのいくつかは火花を上げて死んでいった。彼らもまた人間兵器だった。神の放つ無敵の圧力に耐えきれず、関節から火を吹いて彼らは死んでゆく。目金は左手首を力強く突き出した。五体の兵器が流星のごとく光の尾を引いて、吼え猛る神に殺到する。最初に到達したのは小柄なひとり。空中でくるりと回って神の手をかかとで叩き落とす。目金はほほえんだ。神の口から放たれた光がその目前に迫った瞬間、巨体のひとりがそれをはじき散らして目金は救われる。
兵器もゲームマスタも、ともに選ばれた人間だった。兵器は肋骨を抜かれ、脳と意識を三次空間と抜かれた骨にジョイントし、ゲームマスタが命じるままに、神に特攻し、そして死ぬ。彼らはたとえ神に敗れて死んでも、抜かれた骨から細胞レベルで復活を遂げ、媒介が尽きるまで何度でも何度でも神に挑み、終わらぬ戦いを続ける運命であった。ゲームマスタは兵器の痛みを請け負わなければならない。兵器が三次元に存在する媒介となるチップを脳に埋め込み、その肋骨をコントローラとして神に挑む。
兵器は政府が隔離した祈りの家の地下に、無数のカプセルに収められて眠っている。神がひくく唸り、次の瞬間そのうなじからましろい刃が生えて、鞭のように周囲を薙ぎ払った。たまたまいちばんそばにいたひょろりとした兵器の右脚が、その刃に切断されて焼け落ちる。そのとたん目金に埋め込まれたチップが脳の中でうずき、目金はあたまを抱えて悲鳴をあげた。カプセルの中では今、兵器のからだが同じように傷ついている。口の中で悲鳴を噛み潰し、目金は彼の肋骨を握る。右脚を落とされた兵器はからくも空中で体勢を整え、指示に応えて両腕を真横に伸ばす。その腕は刃物になり、再度狂ったように向かってくるしろい刃を根元から断ち切った。とたんに振り下ろされる両手を、巨体と中背が片手ずつ押し返す。のけぞる神の顎を少女が高速で突き上げ、その眉間に小柄な兵器がまっすぐに流れ落ちる。神は眉間を貫かれて倒れ、強烈な光を発しながら消滅した。
ゲームマスタは兵器を好きなだけ選ぶことができる。鼻血を拭って目金は顔をあげ、腕を下ろした。五体の兵器が目金の周りに戻ってくる。兵器を増やすことのメリットは、戦略の充実。デメリットは請け負う痛みの倍増。五体もの兵器を使っているゲームマスタは滅多にいない。チップを埋め込む手術は三度行った。目金は8と彫られた肋骨を撫でる。右足を失った兵器のものだ。五人はなんの感情も読み取れない顔で目金を見ている。そのうちひとつ、8の兵器ががふっと消えた。本体の意識が途切れたらしい。目の奥がじりじりする。
7の骨(小柄なひとりのものだ)がかたかたっと揺れる。目金ははっと頭上を仰いだ。巨大なエイのような影がぞろりと横切っていく。今度は海を越えた別の場所に神は現れるらしい。兵器たちは固い顔をしてその影をじっと眺めている。戦うためだけのこどもたち。やがて兵器たちはひとりまたひとりと姿を消した。戦いには莫大なエネルギーを使う。一度戦えば、彼らはおよそ二日間、脳と肉体と意識の激痛に苦しむことになる。8の脚の再生にはどのくらいの時間が必要だろうと目金はまばたきをする。ひとり消えずに残っていた5の骨の兵器がじっと目金を見ていた。栗色の髪をした5は悲しいような目をしている。なんですか。目金は手の甲を見下ろした。鼻血が筋になって乾いている。
兵器には兵器の理由があり、ゲームマスタにはゲームマスタのわけがある。目金は5の骨を握った。意識がひどくざわついている。心配ですか。そう伝えると、5は一瞬ひどく恥じ入るような目をして消えた。脳の奥が痛む。そのとき携帯端末にエマージェンシーが入った。8の脚を再生するのに骨が必要だという。目金はコントローラを取り出した。8の骨は他のものよりやや短い。以前の戦いで、一般市民をかばわせてからだの大半を失ったとき、その再生に大幅に骨を使わざるを得なかったのだ。この肋骨を使い果たしたら。目金はため息をつく。兵器は処分されてしまう。さっきの5の目を思い出す。奇妙にはかなく澄んだ、せつないくらい霧の色をした。
目金は死なない。家族も友人も死なせない。蘇る限り何度だって、何度だって神を滅ぼして見せる。歩き出す目金の鼻腔を金臭さが突く。その代わりに犠牲になるものがあるのだと。痛みと引き換えに失うものがあるのだと。ああ、あるのだと。ああ、知りたくなんかなかった。「ぼくは死なない」口に出したそのとたん、はるか遠くとおく、海のかなたのアメリカからでも、神の光は届いてくるのだった。噴き出した鼻血が顔を伝う。地面にこぼれた血はあかく、あおい空は一直線。兵器たちは口をつぐんで今日も死んでゆき、目金は目をそらして歩き続ける。ああ明日なんか来なくていいのに。エマージェンシーがぷつりと途切れ、ながくながくサイレンが響いた。葬送の合図だ。










勝利者の御旗は蒼く
目金。
舞城王太郎パロディ。
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