ヒヨル レギオン行進曲 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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それはじいちゃんを隠してた言い訳か?カウンター越しに投げつけられる挑戦的な円堂の目に響木は苦笑し、まぁ食え、と手つかずのラーメンを勧める。円堂はチッと舌打ちをし、くわえて割ったはしを手に猛然とラーメンをすすり始めた。円堂はときどきひとりでこうしてラーメンをたべにくる。誰にも聞かせたくないことを、遠慮なく響木にぶつけるために。手負いのけだものにも似た燃え盛るばかりの苛立ちと鬱屈を、それでも円堂は周囲に隠そうとする。隠しきれていないのは誰の目にも明らかではあったが。
世界大会が開催されるという報せは、例の騒動のすぐあとに届いた。にも関わらず、ある程度の人数がすでに代表としてピックアップされており、その先頭にはキャプテンとして円堂守の名前があったので、響木は一足先に円堂に連絡を取ったのだった。近くにいるからとものの五分で雷雷軒に現れた円堂は、原因はわからないが荒れに荒れ、ラーメンを作る響木を尻目に店中のテーブルと椅子をひっくり返して、そうして、じいちゃんがいるのか、と言った。店の隅に唯一残ったスツールをまたぎながら。誰から聞いた。円堂はそれには答えず、分厚く切ったチャーシュウが乗ったラーメンを難しい顔でたべている。隠してたわけじゃないんだがな。羽をつけて焼いたギョウザをカウンターに置く響木を円堂はにらみ、どうせまた知らないふりしてろとか言うんだろ、と忌々しげに吐き捨てる。ゴッドハンドが出なくなった、と血相を変えて店に駆け込んできて以来、円堂はサッカーから遠ざかっている。サッカーからも、仲間からも。
不景気な顔でギョウザをほおばる円堂を見て、響木は鍋に油を引く。監督さぁどうせもう知ってんだろ。円堂がにんにくくさい長いげっぷをしてから言った。あいつら、来るの。響木は平然と、両方だな、と答える。誰。豪炎寺と壁山と風丸は決まっている。染岡はたぶん大丈夫だ。目金は別の仕事をする。松野は選考には出るそうだが、まぁ、どうだろうな。円堂はちょっと考えるように首をめぐらせる。他は。半田と影野は選考にも出ない。少林寺も出ないだろうな。宍戸は、あの怪我だ。栗松はまだ迷ってる。携帯を取り出そうとする円堂に、おれから言うよ、と響木は苦笑した。円堂に言われるのはつらいだろう。なんでだよ。察してやれ。まだ食い足りない顔をしている円堂にチャーハンを出し、気に入らないのはわかるがなぁ、と響木はわらう。それも仕方ないことだ。円堂は眉をひくつかせた。あんたらはいつもそういうことばっかり言ってるよな。結局おれかよ。じいちゃんのことも隠してたくせに。円堂のスニーカーが横たわるスツールを蹴飛ばした。おもたい音がする。
チャーハンをたべ尽くし、円堂はカウンターに額を押しつけた。監督。おれはまたあいつらとサッカーしたいんだよ。おれは世界なんてどうでもいい。サッカーなんかしなくていいんだ。またあいつらのところに戻りたい。なんでそれはだめなんだ。じいちゃんは生きてたのに。そのとき入り口がほそく開き、ひどく目つきのわるい長身の少年が顔を覗かせた。眉をそり落とし、リーゼントを揺らしているその少年は、店の惨状にぎょっとした様子で響木を見た。顔を上げた円堂が敵意もあらわに椅子から腰を浮かす。やめろと円堂を制し、今日はいいよ、と響木は少年に呼びかけた。なにか言いたげにかるくあたまを下げた少年が音もなく閉めた扉をにらんで、なんだあいつ、と円堂は言う。あれも代表だ。うまくやれそうか?興味ねえ。円堂はつまらなそうに再びカウンターに顔を伏せた。響木は黙って円堂の食器を流し台に引き上げる。改めて見ると店はひどい有り様だった。驚くのも無理はない、と思う。
円堂は首を傾けて、油じみたすすけた壁を見ながら、監督、と言った。なんだ。おれはさぁ。円堂はまばたきをする。本当は、なんにもしなくてもよかったんじゃないか。ただ弱小サッカー部のキャプテンで、それだけで、よかったんじゃないか。響木は答えない。なぁ。円堂はちょっとわらう。ほんとはおれは「なんにもしてない」んだろ。全国優勝して、日本を回って、でもおれはなんにも変わってない。誰も救えない。雷雷軒は、以前は半田や染岡と来るのが当たり前だった。一年生とも。気が向いたら影野や目金を誘ってやったり、松野や風丸や豪炎寺がいつの間にか混じっていたり。それはとても幸福なことだった。なぜ、と思う。なぜ、あのままでいられなかったのだろう。響木がなにかを刻む音が鼓膜を揺らす。うるせえな、と思った。監督。円堂はかすれた声で言う。監督。おれは、なにを、手に入れたんだっけ。そんで、なにを(、奪われたんだっけ)。
死んだ方がましだと思った。死んでいるのかもしれないと思った。おれたちもしかしたら死んでるのかもなと言ったら、響木はわらって、そいつはしあわせだな、と言った。もう帰るよとからだを起こすと、金はいらんから早く帰れと響木はいつものように言う。円堂は礼の代わりに、おれたちもう死んでたらしあわせだな、と繰り返した。響木はそれには答えずに、おまえが誰よりしあわせだよ、とよくわからないことを言う。円堂は鼻でわらい、よく言うよ、と倒れた椅子を蹴飛ばした。響木はいつも、こういうときにはなにも言わない。知っているくせに。円堂は乱暴に引き戸を開閉した。えんどーお。半田の間延びした声がする。早く来いよと染岡がいらついている。キャプテンよくたべますねーと後ろであかるくわらう声がする。このあとゲーセンいくべーと円堂の隣を誰かがすり抜ける。円堂。誰かが呼ぶ。円堂。円堂を呼ぶ。円堂くん。先輩。円堂。キャプテン。円堂。円堂。えんどう。
円堂は肩ごしに振り向いた。記憶がちぎれ、幻影は消え、声たちは遠ざかり、輝くものはこなごなに散らばる。おれたち、もう、死んだ方がましだったんだろうか。あのとき、あのときのまま。それを孤独と、退廃と、絶望と、誰かが呼ぶのだとしても。円堂は駆け出した。あたまがあつくてめまいがする。構わないのに。それでも構わなかったのに。しあわせはあのときで、あの部室の中で、十分だったのに。円堂は吼えた。なんにもしてないのに、失って、奪われて、それでもそれを、誰かは、幸福と、呼ぶのか。それを!夜は深く、円堂はそれに呑まれてもう死んだって構わないと思った。あのとき円堂の希望だったものものは、今は。









レギオン行進曲
円堂と響木監督。
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