ヒヨル ワールドエンド・ワールド・エンド 忍者ブログ
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世界が終わるとしたら、それは死だ。抗うことのできない、無限不可避の暴力。ひとは失ったときにそれを迎える。粛々と、あるいは、それよりももっと、悲痛に。
その日、影野は松野の家の近所のコンビニまでやって来た。薄っぺらいフリーペーパーの冊子を手の中でまるく曲げながら、いつもよりずっと無口で。その日、朝練で顔を合わせた宍戸は寝不足でぼうっとしていた。徹夜で音楽を聴きながら映画を観ていたという。器用なやつだ。その日、少林寺は宍戸とはまた違うふうにぼんやりとして、練習中にも関わらずときどきなにかを考えこむような仕草をしていた。どうせ聞いてもわからないだろうし、知らないふりをしていた。その日、半田は虫歯の数を数えて憂鬱がっていた。三本も詰めたり削ったり。その言い方がなんだか気に入って繰り返したら、半田は不機嫌にあくびをして、それきりになった。その日、木野はまぶたをあかく腫らしていた。ふられたのかとぶしつけに訊くと、木野は痛いような顔でそっとわらって、そうかもね、と言った。驚くほど無感動に。
世界が終わるとしたら、それは死だ。抗うことのできない、無限不可避の暴力。あらゆる得がたい幸福の中から押し頂くように迎える、光り輝くきよらかなものだ。その日。空は澄みわたり、風はつめたく、しっとりと静まる地面から、やわらかに吐息が立ちのぼっていた。光り輝くきよらかなものもの。死で分かち合う、愛は、祈りのかたちだという。
世界は。
木野とつきあうことになったよ。影野がぼそりとそんなことを言うので、松野は思わず目を見開いて足を止めた。は?影野は数歩ゆきすぎて、そこでようやく気づいて肩ごしに振り返る。なんだよそれ。なんだ、って。なんで木野とつきあうんだよ。影野は表情ひとつ変えず、告白したんだ、と言った。前からずっとすきだったから。松野はあのときわらったけど、おれは冗談なんかじゃなかった。木野がすきだよ。ちゃんと。松野はわらおうとして、わななくくちびるを無理やり曲げた。あれは。だって、おまえ。木野が、木野がさぁ、おまえなんかとつきあうわけないだろ?だっておまえ、きもいし。暗いし。サッカーもへたくそだし。いいとこなんかいっこも。影野はその言葉を遮るように、松野からちょっと目をそらした。でも、いいって言ってくれた。キスもした。そんなもん誰とでもできるだろ!松野は激昂する。どうにかなってしまいそうな憤りが、腹の底から活火山の噴煙のようにじゃんじゃん湧いてきた。あたまがかすんで、しろくなる。つきあう?誰が、誰と。
松野?影野が一歩あゆみ寄り、そっと松野を覗きこむようにした。手も触れず、かなしい顔もせず。松野、ごめん。ごめんね。松野は目がくらんだ。その瞬間、そのやさしい言葉が松野に向けてやわらかに放たれた瞬間、松野のこころはねじ切れた。あり得ないほどの怒りと、痛みと、さびしさと、かなしみを伴って。松野の時間はすべて奪われ、空洞のからだを影野の言葉が幾億の鐘のようにこだまする。ごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんねごめんね。ごめんね。影野は知っていたのだろうか。わかっていたのだろうか。世界が終わるとしたら、それは、死だ。抗うことのできない、無限不可避の暴力。影野だけがそれを持っている。そして今、世界の終わりははじまった。松野のこころはねじ切れて死んでしまった。松野にはもうなにもない。
喉が嵐のように波打って、気づいたら松野は絶叫していた。まるで洪水だ。ありとあらゆる感情を垂れ流し、松野は暴風のように影野につかみかかる。前髪を引き寄せ、思い切りその顔に拳を叩きこんだ。真正面。鼻の折れるいやな感触がした。影野はいちどあたまを揺らして、それから、仰向けに倒れる。その背中が地面に触れようとした、とたんに影野の姿は消え失せる。びくりと松野は指を引きつらせた。ああ。おもたいため息がすぐそばで聞こえる。木野が松野のすぐ隣に立っていた。かなしい顔をして。木野。松野は思わずその腕をつかんだ。おまえ、あいつのこと。木野はぽつりとささやく。愛してるって言ったのに。松野に腕をつかませたまま、木野はそっと地面を指さした。影野が倒れた(ように見えた)場所には宍戸が仰向けに横たわって顔をまっかに染めている。何食わぬ顔で。ひっ、と松野はみじかく息をする。死んでしまいたい。宍戸のくちびるがわずかに動いた。一緒に、死んでしまいたい。無理だよ。松野は視線を動かし、声を詰まらせる。松野がつかんでいる腕は、いつの間にか少林寺のものになっていた。うつろな目をした少林寺の横顔。そんなことあり得ない。ああ。松野は荒い息をした。弾かれたように少林寺の腕から手を離す。おまえら、なんで。だって。少林寺はちょっとわらった。あんなこと言うから。先輩が『あんなこと言うから』。
ごそりと起き上がる気配がする。松野はそちらに目をやると、くちびるをふるわせて一歩後ずさった。半田が鼻血をだらだら流しながらからだを起こし、手のひらに欠けた奥歯を吐き出している。虫歯の歯。それじゃあ逃げようか。半田の目がわらっていない。逃げるのか。おまえ逃げるのか。おれ。松野はがたがたとわななく指で帽子のあたまを抱えた。おれ、なに、おれが、おれがなにかしたのか。おれがなにしたんだ!なにしたんだよ言ってみろよ!松野は混乱し、恐慌し、ただひたすら声を張り上げた。なにが起きているのかわからない。自分がなにをしたのか、わからない。ねじ切れて死んでしまったのは自分だった。自分は被害者だったはずだ。影野に殺戮されて。影野に。影野。「影野?」半田は濁った目で、にこりとほほえむ。おお、なんだ。おまえも生きてたのか。
ぴたりと。松野は動きを止めた。つめたいつめたい手のひらが、松野の両目を後ろから覆っている。おれがなにをしたんだ。松野はがたがたと全身をふるわせる。おまえらに、おれが、なにしたんだよ。なんだよ。なんなんだよ。なんか言えよ!影野!

「だって松野が言ったんじゃないか」
「明日世界が終わるとしたらどうするのかって」
「世界が終わるって」
「そう言ったのは松野じゃないか」

世界が終わるとしたら、それは死だ。抗うことのできない、無限不可避の暴力。ひとは失ったときにそれを迎える。光り輝くきよらかなもの。そして世界は終わってしまった。また始まるために。死で分かち合う愛を祈るために。みんなわらっている。みんなわらっている。みんなみんなわらっている。おれだけがないている。

「ごめんね」


ああ、おれもはやく狂ってしまいたい。








ワールドエンド・ワールド・エンド
完結。
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