ヒヨル マモノグン 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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あんまり染岡くんをいじめちゃだめよ。豪炎寺はその言葉にのそりと振り向いて、アイシングに使うコンビニのビニル袋をさんかくに折りたたんでいる木野を見た。いじめてなんか。突然そんなふうに言われたために、思わず反論ががたつく。動揺する豪炎寺には目もくれずに、木野は淡々と袋をたたみ続け、それが終わるとうーんと両腕を伸ばして、試合ごとに撮影した記録媒体のラベル書きに入る。豪炎寺はなんともいえない顔をして木野を見て、手伝おうか、と言った。平気。木野はやはり豪炎寺を見もしない。豪炎寺は眉をしかめ、スパイクのひもを結びなおしていたベンチから立ちあがって、木野の傍らに無言で立った。なあに。なんだ。木野が顔をあげ、おおきな目をまたたいてちょっとほほえむ。砂ついてるよ。そう言って、途方に暮れたような豪炎寺のほほを指でそっとぬぐった。オカルトってどんな字だったっけ。ペンを回しながらぽつりと言う木野に知らないと答える。豪炎寺はあまりあたまがよくない。対戦校の名前や、ましてや漢字なんか、まともにちゃんと覚えていることはなかった。木野がちいさくため息をつく。いまさらのように豪炎寺は木野がぬぐった場所に触れた。つめたい指だったな、と思う。
木野はよく染岡を見ている。と、豪炎寺はなんとなく思っていて、それはいつも、いつだってなにかにぐじぐじと足を取られているような染岡に言葉をかけてやるのが木野だったからだ。なんでもないみたいな顔で、さりげなく、気づかいを染岡にそれと感じさせることもなく。染岡はそういうのがきらいだ。心配されたり、構われたり、あるいはいっそ、かばわれたり。木野は実際できるマネージャーだ。汚れ仕事のきらいな夏未や粗忽な面が目立つ音無をカバーして、なお余りある敏腕ぶりを発揮している。スポーツドリンクを作るのも木野がいちばん上手だ、と豪炎寺は思っている。夏未は濃すぎたり薄すぎたりぬるすぎたりするし、音無に至ってはそれらに加えてたまに洗剤の味までするのだ。木野はいつも、ちょうどいい濃さで作ってくれる。つめたすぎないよう、氷の量まで調節して。だから豪炎寺は木野のことを、なんとなく、おなじ選手であるような近しさを覚えている。メンタルもフィジカルも輝くようなものを持っているし、サッカー部を暗黒期から支えていたことで部員の信頼を一手に集めてもいる。尽くすタイプの真摯な少女。おまけに顔もきれいだ。豪炎寺とて、木野を憎からず思っている。だから腑に落ちない。いじめている?おれが、染岡を?
木野はぼさっと傍らにつっ立ったままの豪炎寺を再度見て、どうしたの、と首をかしげる。それはどうもポーズだけのようで、木野はまたすぐ作業に戻ってしまった。豪炎寺は木野のしろく華奢な、ちょっとだけ荒れた手をじっと見下ろす。確かに。それを感じないわけではない。ひりつくような敵意を、染岡は豪炎寺に向けていつまでもとめどなく放ち続けている。いつでも切羽詰まった、苦しい、つらい、染岡の顔。どうしようもない、無言の。でも、だからって。木野はふふっとわらった。鍵当番、かわるよ。豪炎寺はじっと木野を見る。違う。木野はそれを無視した。知ってるよ。豪炎寺くんがわるいんじゃないんだ。木野の手元がぶれて、ペンのインクがすうっとにじむ。鍵。置いて。木野の言葉に、豪炎寺は指にからめたままの鍵をそっと机に置いた。木野。木野は答えない。おれは。ぱたんとペンを落とした木野の指が豪炎寺の手をそっと握る。つめたい指。豪炎寺くんのせいじゃないの。でもね、わたしたち責められないの、もう。そんなこと、しようとだって思えないの。
部室を出ると雨が降っていた。出入り口のわきに、まっくろなこうもりを差した影野が立っている。しばし黙って見つめ合ったのち、影野は片手に持った、きれいに巻かれたビニル傘を豪炎寺に差し出した。黙ったまま。豪炎寺はそれに手を出さず、木野のじゃないのか、と言った。持ってるから。陰気な口調。学ランの肩がさらさらと濡れる。待ってるのか。影野はなにも答えない。木野はおれがきらいなのか。ふと口走ったその言葉に、影野のくちびるがくっとつりあがる。そうかもね。豪炎寺はわずかに眉を下げた。落胆。おれが染岡をいじめているからか。影野はそれには答えずに、でも少なくとも、と言った。おれたちは豪炎寺にはかなわないよ。おれたち、サッカーを楽しいなんて思えないから。豪炎寺は真顔になって、みんなそう言う、と答える。じゃあ、どうしてここにいるんだ。いやなら、出ていけばいい。影野はちょっとこうもりの内側を仰ぐようにした。そうだね。染岡がいなかったら、そうするかもね。
眉をひそめる豪炎寺を無視し、影野はその手にビニル傘を握らせるとこうもりを閉じて部室に入った。べたべたとくっついたビニルの皮膜を力ずくで広げ、豪炎寺は影野とおなじように、傘の内側を仰ぎ見る。いたたまれない気持ちで部室を振り向き、しかし豪炎寺にはなにもできなかった。今ではそこが、豪炎寺の居場所だ。のびのびとサッカーをする。みんなで。帰ろう。豪炎寺はぽつりとつぶやいた。苦しいつらい染岡の顔。いじめてなんかない。でも。わからないわけではなかった。豪炎寺はいつでも染岡を凌駕して、打ちのめして、そして、認めさせざるを得ないように、振る舞ってきた。一員になりたかったのだ。みんなでサッカーができるように、ただ、それだけだったのだ。いじめてなんかいない。それなのにあたまの奥がしくしくと痛む。
豪炎寺は部室の扉に手をかけて、やめた。あのふたりには、今は、なにも言ってはいけない気がした。だからといって、おれになにができる。一方的に、被害者みたいな顔ばかりして、染岡はなんにもわかっていない。今この場所にいることが、どんなにつらくて苦しいか、染岡はなんにもわかっていない。そしてできれば、このままわかってなんてほしくはなかった。
(だったらやめればいいだろう)
今のこの場所を失いたくはなかった。みんなでサッカーをしていたかった。染岡がどんなに敵意をあらわにしても、豪炎寺にとってもここは大切な場所になってしまったのだ。目を閉じることがかなわないほど、まばゆくあたたかな、大切な場所に。もう。
(それでも)
(それでもおれはおまえが、)







魔物群
豪炎寺と木野と影野。
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