ヒヨル ワールドエンド・ダブルスーサイド 忍者ブログ
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「もしも明日世界が終わるとしたら」

そのとき世界は一滴の欲望で滅びる、のだと思う。だって。少林寺は仏頂面をして、そんなことあるわけないのに、と言った。部活帰りの自動販売機はしんと静まり返って煌々と明るい。宍戸はあたたか~いミルクティのペットボトルを両手で挟んで転がしながら、ひとくちいる?と訊ねる。いらない。少林寺は洟をすすって両手をこすり合わせた。あまいものやジャンクフード、甘味料が山ほど入っている飲料なんかを親の敵のように嫌っている、少林寺の潔癖はいっそ気持ちがいい。あるわけないよなぁ。宍戸はペットボトルをぽけっとに押しこんで、だぶだぶに緩んだ少林寺のマフラーを巻き直してやった。少林寺のマフラーはきめの細やかなグレイのアルパカだ。わあんと静電気が指先をちりつかせる。ぽってりとしたほほがあかい。
栗松のからだはあばらのいちばん下、十二番目の骨が少しだけ外側に開いていて、わき腹を撫で下ろすとそこにほんのわずか指が引っかかるのがいいなと思っている。栗松は痛みにはよわいがくすぐりにはつよく、宍戸が何度も執拗に両脇を撫でても、うぜえなぁ、くらいの顔をしている。宍戸が十二番目の骨を撫でるのを不服そうに見下ろし、楽しい?とあからさまに侮蔑の表情をするので、宍戸はそういうのだってわるくはないと思う。栗松の不機嫌と浮遊肋骨。脱いでくんね。わりと真剣に言うとむこうずねを軽く蹴飛ばされた。そろそろ離れろよ。宍戸が離れないと栗松は着替えができない。いいよ着替えろって。宍戸は平然と言う。ナマで見たい。やだよきもい。栗松は背がひくいせいであまりそういう印象はないが、平均以上に痩せている。ひじやひざが(自分ほどではないにせよ)やわらかに、しかし妙に鋭角にでっぱっている様子はどことなく痛々しい。名残惜しく指を離すと、栗松はあっという間に着替えを抱えてロッカーを回りこんでしまった。てつー。しゃがんだまま宍戸は間延びした声をあげる。明日世界は終わるんだってさー。
信じてないと言う少林寺の口調はそれなのにへんにあいまいで、いつものような切れがない。気になるの。別に。こわい。こわくはないけど。そう言って少林寺はほそく息をはいた。りぼんのように流されたそれは、見る間に闇に消えていく。でも、いざとなったらなんにも思い浮かばなくて。なにが。明日世界が終わるとして、おれは今日なにをやっとかなきゃいけないんだろ。虚空を眺める少林寺の目が、重たく濁って迷っているようだ。そういう行為を知らない少林寺は、唐突な問いに戸惑っている。まじめだからなぁと宍戸は思った。半田はまったくよけいなことをしてくれた。生まじめな少林寺は、なまなかな答えでは納得できなくなってしまっている。まるで本当に、明日世界が終わる瀬戸際みたいに。いつもどおりでいいんだよ。グリーンダヨーと続ける前にそういうもんなのと少林寺は問いかける。それでいいの。いいだろ別に。特別なことなんかなーんもいらねって。そうかなぁと少林寺はちいさな首をかしげた。おれはそうだけど。宍戸は、なにもしないの。しないよ。あー、まぁ、ふつーに学校行って、ふつーに生活して、ふつーに家帰ってめしくってふつーに寝て、寝てる間に世界が終わってたらラッキー。おれ的には。少林寺はちょっと考えるような仕草をして、おれもそれがいいかなぁと言った。かわいいやつだと思った。
学ランに着替えて戻ってきた栗松は宍戸を見もせずになんか言った、と問いかけた。おう。なに。明日世界は終わるんだぜ。は。栗松はぽかんと口を開け、おまえなに言ってんの、みたいな顔をする。染岡さんが言ってたんだって。いつ。昼休み。なんか朝そういう話題になったとかゆって。へーと栗松は全然興味なさそうに荷物を整える。鍵当番おまえっけ。そう。壁山としょうりんが練習してっからちょい残る。あそう。おまえも残ってけば。CD返しにいくから無理。ツタヤは遠い。宍戸は首をひねり、てつ、と栗松を呼ぶ。明日世界が終わるならおまえどうするよ。えーと栗松は片手でうしろあたまをかき回した。なんかやっとくこととか、すぐに思いつく。あーーーとだらだらと声を伸ばしていた栗松は、あ、と唐突に顔を上げた。CD返しにいくのやめる。そんでみんなでラーメンくいに行こうぜ。宍戸は栗松を見上げ、いいね、とちょっとわらう。いいじゃん。いちばんいいよ。あんまおもしろくないけどと栗松は照れたように言って、そんじゃあと部室を出ていった。宍戸はその背中を呼びとめかけて、やめる。明日が世界の終わりなら、これが今生の別れになる。宍戸は代わりになにもない虚空を指で撫でた。だったらあの骨を、形見にもらっておくべきだったろうか。
あゆむはさぁ、なんで世界は終わると思う。宍戸の問いに少林寺はわからないと即答した。だからそういうの苦手なんだって。隕石とかなんじゃないのとおざなりな口調が、あからさまに話題を切り上げたがっている。そうねぇと宍戸は納得したふりをした。じゃあ一瞬だね。明日いきなりおれら全滅。生き残ったら悲惨だねと少林寺は無感動に言う。生き残る気なんかふたりともまるでなかった。自販機の前でそのまま別れて、ひとり家路を急ぎながら、宍戸はほとんど確信している。世界は一滴の欲望によって滅びるのだ。例えばあの瞬間、宍戸はほとんど全身全霊で明日世界が終わることを願った。栗松が帰ってしまうあの瞬間。栗松が帰ってしまわなくてもいいように。その一瞬を繋ぎ止めるために、宍戸は世界を終わらせた。四人は一緒にラーメンをたべ、次の日には等しく眠る屍となる。栗松の十二番目の浮遊肋骨は、まるで宍戸に向けてその牙を開いているようだ、と思った。奪うことが叶わないなら、この手に抱いて死んでしまいたい。明日世界は終わるだろう。終末に磨かれた骨の海の中から、そのたったひとつを、探して、抱いて、いかれればいい。









ワールドエンド・ダブルスーサイド
宍戸。
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