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「もしも明日世界が終わるとしたら」

少林寺はちょっと眉根を寄せて、なんのことですか、と首をかしげた。いやー今朝松野と影野がそういうことしゃべってたからさー。半田はトンボをずるずる引きながら言った。その隣で、半田のよりふた回りほどちいさいトンボを少林寺が引いている。明日世界が終わるとしたらどーすんのかって。ふうんと少林寺はいかにも興味がなさそうに言い、そしてなにかを考えるように黙ったあとに、へんなの、と呟いた。へんだよなぁ。半田も半ば上の空で返事をする。朝からそーゆー暗いはなししちゃってさー、あいつらまじばかじゃねえのっつう感じだよな。少林寺はなにも答えない。ちらっとそちらを見たら、トンボにたまった砂がおもたい様子で難儀していた。立ち止まって砂をどけてやる。ふたたびトンボを握った少林寺のちいさなてのひらが寒さにあかい。
昼休みの校庭には日差しと寒風が同時に訪れる。次の試合に備え、フォーメーションの確認をするためだけに昼休みを割いて集まったつもりが、ついつい気合いの入った十分マッチを二セットもしてしまった。グラウンド整備のじゃんけんで負けたのは半田少林寺染岡宍戸。はしとはしからトンボをかけて、まん中で合流する手はずだ。グラウンドの反対側に目をやると、腰にトンボをくくりつけた染岡が猛ダッシュしていた。その後ろを宍戸が丁寧にならしている。あれはあれで息の合ったいいコンビだ。ぐるーっと方向転換すると、少林寺がぱたぱたと大回りでついてくる。あいつらばかだなーと向こうを指さしてやると、半田先輩もやればいいんじゃないですかと言われた。くっそう。半田はちょっとバックして少林寺のトンボに片足を乗せる。うわ。突然の重みにつんのめった少林寺が、肩ごしに振り向いてくちびるをとがらせた。先輩、はやくやんないと昼休み終わりますよ。へーへー。半田はまた自分のトンボを持ち上げる。一度地面に落としてしまったので、柄が砂でざらざらになっていた。
冬の太陽は虚勢ばかりのけものみたいだ。ぎらぎらと眩しさだけは燃えるようなのに、ぬるいぬくもりは逆にうそっぽい。小石に乗り上げたトンボががたんと跳ね、驚いて吐いた息はしろく後ろに流された。半田は少林寺の横顔を見る。あのさぁ。なんですか。もし明日世界が終わるとしたら、おまえどうすんの。少林寺は顔色ひとつ変えずに、なにもしないです、と言った。そうなん。だってそんなことありえないじゃないですか。ありえないことをわざわざ想像して口に出すなんて、あほくさくてきらいです。あそう、と半田はくちびるを曲げる。少林寺は現実主義者だ。非現実的なことは信じないし興味だってない。たらればやもしもを毛嫌いしている少林寺の言葉や態度には、厳然たる現実が根をはってそびえている。からだはちいさくも、巌のように揺るぎない少林寺。世界中の誰にだって、押しも押されもしない少林寺。
しかし。でも明日世界は終わっちまうらしいぜ。しかしその横顔に、半田は一抹の脆さを感じずにはいられない。がらす板にひとすじ入ったひびのように、少林寺の横顔はその揺るぎない言葉をはしから裏切っていく。虚勢ばかりのけもの。ぬるい怒りをただよわせた、その横顔がしろくかたい。どうすんの。少林寺は半田をちらっと見て、それ聞いてどうするんです、と言った。意味ないですよ。意味とか別にいいじゃん。かーいい後輩とのコミュニケーション。そういうの、別のやつとやってください。なんで。少林寺はちょっと考えこむようにあたまを揺らしてから呟く。苦手なんです。なにが。そういう、まんがみたいなこと。想像するのとかどうしたいのとか、苦手だしあんまり考えないから。あーねーと半田は何度かうなづいた。少林寺はマンガも読まないしゲームもしないしテレビもあまり観ない。うまく想像できないんです。なるほどねえ。ぐっと手に力をこめて方向転換すると、かわいた砂が足元をけぶらせた。
そんじゃあさぁ。ぐるりと大回りして大急ぎで少林寺に並ぶと、半田はにやっとわらった。一緒に逃げよっか。え?だから、明日世界は終わっちまうわけだし、おれしにたくねえし、おまえなんも言わないし、だったら逃げてもいいんじゃね?えっえっ?少林寺はぱちぱちとまばたきしてぽかんと口をまるく開いた。ほんとに終わるの?そーだよ。だって先輩さっき。あーなんつーか話題自体はばか。朝なんだからもっと明るいはなししろっつうの。えーと少林寺はしぶい顔をする。うそだー。うそじゃねーよニュースみてみ?みんな言ってるから。えーと首をかしげかしげしている少林寺の隣を、トンボをがたんがたん揺らしながら染岡が駆け抜けた。あきれ果てた顔の宍戸が、その後ろを忠実についてきている。よっしゃ終わり。半田は最後の三メートルを駆け、ばたんとその場にトンボを放り出す。あゆむ、かたづけといて。いやです。じゃ宍戸。あーと少林寺は後ろを振り向いた。無理みたいですよ。グラウンドの向こうがわではやはり宍戸が染岡にトンボを押しつけられている。
いかにも無責任に、頼んだぜい、と両手を振って、半田はくるりときびすを返した。後ろからおもたいものを引きずる音がする。少林寺はいいやつだ。まじめでまっすぐで、つよくて容赦なくて、そのくせちょっと抜けていて、そして。明日世界が終わって、一緒に逃げようと言って、少林寺がもしもうなづいてくれたなら。半田は考える。今すぐにでも手に手を取って、宇宙までも飛んでいっていい。だけど世界は終わらないし、明日には平凡な日がまた訪れるに違いない。だから半田は宇宙には行かれないし、少林寺の手を取ることだってない。半田は足を止め、ちょっと振り向いた。明日世界が終わればいい。地球はふたつに割れればいい。半田はじっとグラウンドの向こうを眺める。ゆらゆら揺れる少林寺の背中。明日世界は終わるだろう。おれたちは月に腰かけている。少林寺のやさしい横顔をじっと見ている。りんりんと降る星に包まれて。








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半田と少林寺。
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