ヒヨル だつたん 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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少しだけ快活になったような気がする。そう思いながら栗松はベンチで練習を見ている。視線の先では少林寺がながい髪をなびかせながらおそろしく機敏に動いていて、そこにいてほしい、と誰もが思うであろう場所にぴたりぴたりと足を運んでは貪欲にボールに噛みついていく。小柄な少林寺は単純な力比べや高さ勝負には極端に弱いが、それらを補って余りある瞬発力と天性の勝負強さがあった。チームにひとりはあってほしい類の選手だ。それに少林寺はとても平らかなプレイをする。心の動きが見えないのは強みだ。恐怖や疲労や動揺はなにもしなくても相手に伝わるが、少林寺にはそれがない。実戦的な選手だ、と思う。栗松とは正反対の。パスミスのボールがラインの外に転がって、きゅーけー、と半田が両手をあげる。そのとたん、平らかな少林寺はいなくなり、彼の周りの空気がぴりっと張りつめるのを感じる。それでも少林寺は話しかけてくる新入部員たちに笑顔で応じていた。これも成長っていうのかなぁ、と栗松は思う。
少林寺とはときどき一緒に夕飯をたべるようになった。宍戸はあまり食事をしたがらないので、ふたりとは店の前で別れる。たまにはたべてけばと言って宍戸を食事に付き合わせた帰り道、彼はトイレで長々と吐いていたので、ふたりとももうそれ以上は誘わなくなった。その代わりと言ってはなんだが、少林寺と夕飯をたべない放課後には、栗松は宍戸と必ず一緒に帰るようにしている。商店街の奥の方にあるのり月という蕎麦屋が目下ふたりの気に入りで、少林寺はここに来るといつも鴨なんばんをたべる。逢い引きみたいだな、と、とろろ月見をぐるぐるかき混ぜながら栗松は思った。ねえ。なので店主が奥に引っこんでいることを確かめてから口に出してみる。逢い引きってわかる。アイビキ?少林寺は口の中身をきちんと飲みこんでから、眉間にしわを寄せた。小柄だがよくたべる少林寺は健やかだ。とても。アイビキって、あの?あの、というのが少なくとも肉を指しているわけではない、ということはわかったので、栗松は頷いた。
怒るかな、と思ったが、少林寺は少し考えるような仕草をして、さして嫌そうでもなくうん、と言う。栗松がそう思うならそうなんじゃない?まじで、と栗松はまばたきをした。え、おれ、そういう対象?違うだろ。少林寺は冷たく言う。おまえにとっておれがそういう対象なんだろ。あーうん、えー、どうかなー。ごにょごにょと言いよどむ栗松をまた冷たく一瞥し、そういうのやだな、と少林寺はひとりごとみたいに言った。少林寺の言葉は、どんなものでもともするとひとりごとみたいに響く。つるんとして、取っ掛かりがない。少林寺は今、年上の、ちょっとかわいい先輩に絡まれている。しかも三人も。ぎりぎりまで短くしたスカートの、ちょっとだけかわいい三人組。今日も部活を見に来て、少林寺だけを見てはしゃいでいた。少林寺はずいぶん明け透けできわどい言葉で彼女たちから誘われているらしい。
しょーりんはさ。箸を止めて栗松は言う。すきなやついるの。鴨なんばんをすすろうとしていた少林寺は、ちょっとだけ驚いた、という風に栗松を見て、栗松がまじめな顔をしていたので、また顔を前に戻した。手を止めて。いるよ。栗松は安心する。会えなくて寂しい?そう言ってしまってからあーしまったと思った。まるでもうわかってるから言ってしまいなよ、みたいな言いぐさだな、と思ったからだ。栗松、スゥァンね。少林寺はみじかい沈黙を挟んでそう言った。なぜか栗松は赤面する。なんとなく意味は伝わった。なんとなく、だけれど。寂しくないよ。それから少林寺は首をかるく曲げながら言う。おれがいなくても平気だから。どういうこと?思わず問いかける栗松に、栗松なにが言いたいの、と少林寺はうんざりした口調を投げつけた。あ、ごめん。怒らないで。栗松はへどもどと謝る。少林寺の目がじっと栗松をにらんでいる。なんか今日変だよ。ごめんって。言葉を濁して栗松はとろろ月見に向かう。
そして横目で隣をうかがう。少林寺の横顔のまっしろなほほとちいさな鼻とうすい唇。清潔な横顔。清潔なのはいいことだ。少なくとも。栗松は思う。泥の中で進退極まる自分なんかよりは、百万倍もいい。ばか。心の中を見透かされたような少林寺の言葉に栗松はどきりとする。なに。少林寺は平然と、叱ってほしそうに見えたから、と答えた。たとえばまだみんな一緒にサッカーをしていた頃、その頃とてもすきだった、と言えば。少林寺は驚くだろうか。怒るだろうか。(そんなことを思いながら、どっちでもない、と栗松は考える。驚きも、怒りもしない代わりに、)少林寺の言葉はいつでも栗松のいちばん深い場所を容赦なく刺す。帰ろう。少林寺は唐突に言った。奥からバナナマンの設楽に似たおやじがのそっと出てくる。楽しかったね、アイビキ。外に出るともう空は藍色に沈んでいた。少林寺はちっとも楽しくなさそうにそんなことを言う。ひとりごとみたいに。「栗松はおれがいないとだめみたいだね」
それは果たしてわるいことなのだろうか。
帰る途中に少林寺にくっついてみた。くっついているとしあわせだった。少林寺は前みたいに冷たい声で冷たいことを言った。少林寺は栗松の前ではちっとも快活でない。逢い引きは楽しかった、と思う。ふたりでいると楽しくて、満たされる。それは果たしてわるいことなのだろうか。今はもう、彼が眩しいばかりでないという、そんなことは。








だつたん
栗松と少林寺。
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