ヒヨル サラバイザインマイマインド 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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腹が減った。円堂は木陰のベンチにだらりと腰かけたままため息をつく。頬骨と鼻のあたまが焼けてひりついているのを、なにげなく指でなでると皮がめくれかけてざらついていた。最近は気候がいいためについ張り切ってからだを動かすので、いつもより水分もたくさんいるしそれ以上に腹が減る。情けない音を立てる腹を抱えた昼下がり。ながめの休憩中、一同はあちらこちらに散らばってそれぞれくつろいでいる。まだグラウンドでボールを蹴っている染岡を暑苦しそうに見て、円堂は今度こそ声をこぼしながらため息をついた。はらへった。首を反らして目を閉じる。まぶたもうっすらと日に焼けているらしく、まばたきに合わせてひふが不快につっぱった。晴天の下で日焼けひとつしていない木野のすべらかな肌を思い出す。どれほど苦心してあの雪のような肌を保っているのだろう。下腹のあたりがゆらゆらとうずくが、それもすぐまた食欲に溶けた。昼食なんかとっくに消えている。ふーとほそく長い息を吐きながら、円堂は不服げに鼻を鳴らした。
靴下とスパイクを脱ぎ捨てた、指のつけ根やかかとが汗でしろくふやけた足の裏をぬるい風がなでる。のどやかな気候がかえって腹立たしい。くそっと足を振る。その声にたまたまベンチの前を横切ったリカがからだをすくませた。なん?あ?不機嫌な顔をあげる円堂を、リカは嫌そうな表情で見返す。髪の毛をビジューのカチューシャでまとめて首にタオルをかけたリカは(洗顔でもしていたらしい)、眉間に縦じわを刻んで円堂をにらむ。円堂もまた無意味な敵意を放つが、やがてそれにも飽きてだらりとベンチに背中を預けた。はらへった。なんか持ってたらくれ。リカもまたいつもどおりの飄々とした様子でユニフォームのぽけっとをさぐる。ん。カラフルなパッケージのキャンディをリカの指先から受け取って口に入れ、円堂はベンチの隣をかるくたたく。リカはなにげない顔をしてさらーとそこに腰を下ろした。昼の練習中に一之瀬がかるい熱中症にかかり、介抱してくれた木野の手をしっかりと握っていたことを、もしかしたらほんの少しだけ怒っているのかもしれない。一之瀬は冷房の効いた宿泊施設で、木野に付き添われてたぶんまだ寝ている。カチューシャを外して整える、リカの髪からあまい香りがした。
リカはながい脚を組んで、円堂は口の中でキャンディを転がしながら、ぼんやりとグラウンドを眺めた。濃いいちごの味のキャンディが歯にぶつかって、かちゃかちゃと心細い音を立てる。リカはソックスを足首まで無理やり下ろしている。時間の限り均等に焼こうというまめさにあたまが下がる思いで、円堂はちょっとリカの横顔を盗み見た。ら、たまたまリカも円堂の方を向いたところで、ふたりともへんにぎくりと顔をこわばらせる。先に目を反らしたのはリカだ。あーあーとつまらなそうに腕を伸ばしながら、あほと連携する練習なんかなんも楽しくないわとぼやく。華奢な脚を組み替える、その動きがけだるい。次の練習試合では染岡とスタメンツートップの予定なので、リカは朝から出ずっぱりではしり回っている。はらへらないか。別にー。それよりもう疲れたわ。ぐにゃりと上体を前に倒すリカのうなじから背中が汗で蒸れている。
染岡は久々のスタメンで張り切っているが、おそらくは早々にスタミナを使い果たして豪炎寺あるいは吹雪と交代するはめになるだろう。豪炎寺と吹雪どっちがいい。円堂の問いにリカはどっちでもと即答する。たぶん次の練習試合、一之瀬はメンバーから外されるだろう。中盤二枚落ちは痛いな。鬼道、まだ不調だし。んーとからだを起こし、リカは乱れた髪の毛をなでつける。やっぱ一之瀬がいないとだめか。その言葉にリカはくちびるを曲げた。別に心配するほどだめちゃうよ。でも、たぶんみんな心配なんやろな。熱心に自主練習を続ける染岡を見ながら、リカはわざとらしくほほえむ。おっかし。うちかてダーリンと会う前からサッカーしてんのに、うちとダーリンはふたりでひとつ。ダーリンがひとりでも、みんな心配なんかせえへんのにな。円堂はリカの整った横顔をじっと見る。ながいまつ毛がかすかな木漏れ日に、蝶の羽めいてちらちらしている。スタメン、外さねーぞ。リカはなんとも言えない顔で円堂を見て、にやあっと嫌な感じにわらった。あんたも難儀なやっちゃな。あんときあんた、自分がどんな顔してたか気づいてないんやろ。
あのとき。一之瀬がグラウンドにくずおれたとき。ベンチから飛び出した蒼白の木野が一之瀬に差しのべた手を、円堂は自分でも驚くほどつよい衝撃で眺めていた。その親愛。繊細で清廉で、それでいてひどく密に満たされた、濃くあまやかに煮詰まった愛。立ち入る隙など与えない、暴力的なほどの。打たれたようにリカが立ちすくむのを、汗ににじむ視界の端で捉えていた。リカを押しのけるようにして、土門や塔子が一之瀬に駆け寄る。ふたりの世界を食い荒らす、粗暴で鈍感な、そのくせあきれるほどやさしい動物たち。ふたりだけの世界からきっかり排除されて、円堂とリカは等しく打ちのめされた。気づいてしまうことは、なによりも鋭い終止符でしかないのだ。そこに言葉はいらなかった。円堂とリカにできるのは、あとは、口をつぐんで諦めることだけだった。怒りもかなしみも、憎しみさえも感じない、静かでやわらかでひそやかな、雨の埋葬のように。
もう行く。そう言って立ち上がったリカの手を円堂はつかんだ。行くな。いや。離して。いやだ。行くな。円堂は自分も立ち上がる。リカは苦い顔をうつむけ、そういうのほんま勘弁、と忌々しげにつぶやいた。その間にも、円堂の手から逃れようとしながら。なすりつけあって、なんか意味あんの?円堂はじっとリカを見る。にらみつけるほど力強く。突風にグラウンドはけぶり、吹かれたこまかい砂がふたりを打つ。木漏れ日は波のように揺れ、呼吸さえもためらった。奥歯でキャンディが砕ける。鼻を突き抜ける甘みに、からだの底がゆらりと傾ぐ。円堂はリカの手に折れよとばかりに力をこめた。つめたいひふだ。雨の埋葬。世界に閉め出され、粗暴で鈍感なやさしい動物たちにさえ、もうなれなかったのだ。だったら。
「おまえにはおれしかいないじゃないか」







サラバイザインマイマインド
円堂とリカ。
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