ヒヨル 星の海まで 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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窓を叩く雨粒を無意識のうちに目で追いながら、染岡は頬杖のままため息をつく。止まねーな。うん。影野はさして興味がなさそうに、相づちばかりを律儀にしながら意識は手元の文庫本に落としてある。部活またできねーし。影野はその言葉にちらりと視線を上げ、窓の外を見て、止むんじゃないかな、とぼそりと言った。止んでもグラウンド入れねーだろ。でも雨は止むよ。はーと染岡はまたため息をついて、ときどきだらだらっと不規則に落ちていく水滴の軌跡を目でなぞる。夏なのにうっとうしいな。影野はそれにはなにも答えなかった。もう教室戻れば。あー、と尻上がり気味の返事をしたとたんに予鈴がけたたましく鳴り響く。じゃーまたなと席を立つ染岡と入れ替わりに、影野ー歴史の資料集貸してーと半田が駆け込んできた。かばんの中から分厚い資料集を引っ張り出してやる影野を尻目に、染岡は自分の教室までだらだらと戻る。
雨の多い夏ほどうっとうしいものはない。いつまでも湿気が居すわって動かない校舎はゆっくりとジレンマを溜めていら立ち、外で部活ができない運動部が、体育館が空いているわずかな時間に殺到して争奪戦になる。ただでさえ新人戦を控えた大事な時期であるために、その争いは最近とみに激化して、そしてその争奪戦に勝つのはだいたいが強豪の野球部や陸上部だった。弱小のサッカー部は(顧問の押しも得られないために)、雨が降ると自動的に部活は中止状態になり、円堂がときどき校舎内でランニングをして怒られるためにますます活動の場所を奪われていた。せめて雨が止めば。染岡は肩を回しながら眉間にしわを寄せる。外周を走ることができる。雨うぜえええええと廊下の真ん中で松野が絶叫していて思わずびくりとしたが、松野の場合は単に屋上でサボれないのが気に入らないのだろうと思った。理由はどうあれ、いい加減みんないら立っている。平然としているのは影野だけだ。
早口の数学教師の授業を半分意識を窓の外に飛ばしたまま聞き流していると、分厚い雲に覆われた空が一瞬さあっと明るくなった。染岡はまばたきをする。それと同時に染岡問三やってみろーと言われてわかりませんとばか正直に答え、しかし怒られることもなく丁寧な解法をみっちり教わって席についたときには、もう雨は止んでいた。えーと染岡は内心声を上げる。まじかよまじかよまじかよ。それだけではなく、授業が終わるころには青空まで覗いていた。まじかよ!チャイムが鳴ると同時に廊下に出ると、松野が廊下の真ん中でガッツポーズをしていた。よっしゃー雨止んだ!やっぱ染岡死ねって思ってよかった!なんでだよ!思わずつっこむと、松野は思いきりニチャニチャわらいながら染岡を指さした。あー染岡だーばーかばーかはーげうんこー。うんことか言うなあほ!けたけたと嬉しそうにわらいながら松野はPSP片手に駆けていってしまう。快晴の窓の外。
その日の部活は外周を走り、さらに風丸の口利きで陸上部のタータンの水抜きを手伝ったおかげで、そこでストレッチとサーキットもできた。松野はいやにテンションが高く、栗松を捕まえてジャイアントスイングでぐるぐる振り回したり半田や宍戸に向けて投げ飛ばしたりしていた。そんな阿鼻叫喚を尻目に、タオルをはんぶんこにして少林寺と使っている影野の背中に、染岡は片膝をかるくぶつける。よう。うん。おまえなんで雨止むってわかったの。なんでって。影野は戸惑うような顔をして、天気予報、と言った。朝、言ってた。染岡は見てないの。そんな余裕ねえよ。なあと少林寺に話を振ると、おれは見てますけどと普通に言われたので気まずかった。でもすげーびびった。なんか、予言かと思った。予言って。影野はちょっとわらった。そんなすごいことできないよ。でも。染岡は思う。天気予報をたとえ見ていても、自分は絶対に信じなかっただろう。雨は降って今日もまた部活ができなくてうっとうしい。それだけしか思わなかったろう。そうして必ず雨は降っただろう。止むことなく、いつまでも降っただろう。
おーいあゆむーちょっとーと松野が力強く手招きしている。少林寺はびくりとからだをすくませて、影野の後ろにこそりと隠れた。松野の傍らでは栗松が完全に脱力して倒れていて、壁山が心配そうに揺さぶっている。チッしゃあねーな。目金!めーがねー!あーあーと染岡は見事な手際で目金にプロレス技をかける松野をあきれたように眺めた。元気だな。雨じゃだめみたいだよ。なにが。松野、雨じゃ元気出ないって。ジャックナイフ式エビ固めー!と目金を締める松野におーと拍手する半田を見ながら、まぁいいか、と染岡はあたまを掻いた。おれも雨だと元気でねーわ。ふふ、と影野はわらう。晴れてよかった。ああ。今日は星だって見える。影野はひとりごとみたいに言って、両手を払って立ち上がった。
「どこまでもどこまでもぼくたち一緒に進んでゆこう」
染岡は影野を振りあおいだ。陰りはじめた光ににじんで、その表情はよく見えなかった。けれど。影野が手を伸ばして少林寺を立たせてやる。そのまま手をつないで、影野は松野に近づいてぼそりとなにかを話しかけていた。たぶんもうやめろとか、そういうことを言いに行ったのだろう。そのひょろりとながい背中を見送りながら、染岡はそっと目を細めた。グラウンドにいくつも広がった水溜まりは、かすかにくらくあおく沈んで夕焼けをきらきらと反射している。まるで星の海みたいに。影野がそう言うなら。不意に幸福にも似たものに胸を突かれて、染岡はそうっとふかく息をついた。影野がそう言うならきっと叶う。今夜はきっと星だって見える。どこまでもどこまでもぼくたち一緒に進んでゆこう。君が願うなら、星の海までも。






星の海まで
染岡と影野。
リクエストありがとうございました!相変わらず染岡きもちわるくてすみません。引用は銀河鉄道の夜。
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