ヒヨル 腐れ外道の蝉時雨 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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土門はあめの包み紙やハイチュウの銀色の包装紙でよく折り紙をしている。ちいさなちいさな鶴をこまこまと折るのは、いかにもアメリカ育ちのあけすけでシニカルな土門には不釣り合いな遊びだった。しかし土門は、折り紙はする分にはプロダクティヴでアクティヴだし、完成したものはアメイジングだと大げさなくらいにこの遊びを絶賛している。ときにつまようじやシャーペンの芯まで駆使して、土門は背中を丸めながいからだをちいさくして一羽の鶴に相対するのだった。たまに木野がぞうとかさるとか尼さんとかの別の折り方を教えていて、それらにも土門は果敢に挑戦している。そんな目が疲れる肩が凝るようなくだらない遊びに、あながち冗談でもなく心血を注ぐ土門を松野は軽蔑していた。どうせごみになるのにと言ってやると、でも楽しいからいいんじゃん、なんて満足げにわらう土門を、松野は冗談ではなく軽蔑していた。
またやってんのかよ。部室のじゃりじゃりの机に、きれいに広げた包装紙を並べて片っぱしから折っている土門の手元を覗きこみ、松野はうっとうしそうに言った。んっとにおまえきめぇな。はは、と土門は明るくわらう。これが意外と楽しいんだって。病院くせぇ趣味しやがって。露骨に顔をしかめて松野はため息をつく。おめーはガイジかっつうの。松野はすでに完成しているもののひとつを、汚いものでもつまむように持ち上げた。うっは、こいつきめぇ。がに股の脚が生えた鶴を見てわらうと、これてっちゃんが教えてくれたんだよと土門が横顔でにっとほほえむ。へーえとまったく興味のない間延びした返事をよこし、がに股鶴をぽいと机の上に転がす。なーーモンハンやろーぜ。半田とやれば。半田いねえし。松野は土門の後ろに回ってパイプ椅子の背もたれをつかんで揺らす。あーあーちょっとー壊れるってー。土門はなぜか楽しそうにとがめ、結局松野の方が折れてそれをやめた。てのひらに錆がこびりつく。
おまえっていっつも楽しそうでいいね。松野は部室の中をだらだらとあるき回り、その駄賃にロッカーをかるく蹴ってみせる。土門はまたわらって、だって楽しいだろ、と言った。楽しくねぇよ。松野はおおきな目を剥いて、土門をにらむように見る。指先がいらいらと小刻みに動いていた。松野はなにが気に入らないのー。顔を鶴に近づけ、シャーペンの芯で羽の部分を丁寧に広げながら、土門はなんでもないように問いかける。なにが気に入らなくて、どうしたいのさ。がぁんとひときわおおきな音が聞こえたので、あーやったなーと土門は心中苦笑する。松野がロッカーをぼこぼこにへこませるのは今に始まったことではない。顔をあげると松野が冷ややかな目で土門を見ていた。説教とかくれんなよ。うぜーんだよ、おまえ。
松野にはわからないかもしれない。完成したちいさなちいさな鶴をてのひらに乗せ、じゃーんと松野の方に差し出してやりながら土門は思った。いつでも楽しそうなのは、いつでも楽しいことしか口にしないようにしているからだ。他のものはきれいに隠して、楽しいことばかりを取り出しているからだ。松野にはわからないかもしれない。そうでもしないとおなじになってしまう。なにが気に入らなくてどうしたいのか。なんて、そんなことおれが聞きたい。松野は土門のてのひらを思い切り払った。落ちた鶴をスパイクで踏む。おまえみたいに楽しいことばっかりで生きていけるとか、おれは全然思ってねーから。なんだか今にも泣きそうな顔をした松野が、声ばかり挑戦的に張り上げる。楽しいことしか知らないとか、おまえってまじかわいそうなやつ。
土門は思わず息を飲んだ。そうかもしれない。だけど気持ちとは裏腹に、気づいたらわらっていた。いつものように、楽しいことばかり見ているような目をして。松野ってほんとくそがきな。持たないものをうらやましがって、ぎゃあぎゃあわめくあわれな子ども。手を伸ばす方法も知らず、ただ欲しがるだけがすべてだと思い込む。土門は手を伸ばして、松野の帽子のあたまにぽんと置いた。でも、おれはおまえがうらやましい。松野は目を見開き、なぜか怯えたような顔をした。快楽と本能に背中をあずけているくせに、気に入らないことばかりを宝物のように抱えて松野は生きている。享楽の裏側のただれた現実ばかりをいつだって足下に見ながら、それをしない土門をうらやましがって軽蔑する。一皮むけば。土門は目を細めた。おなじ暗闇が顔を出す。松野はそれを待っているのか。まるでそれが悪いことで、叱られるのを望むみたいに。
松野は土門の手を払いのける。さわんじゃねーよ、あほ!松野はまるで脱兎のように部室を飛び出していった。入り口で誰かしらと追突したのか、くぐもった声が聞こえる。土門は立ち上がり、くしゃくしゃに踏まれた鶴を拾い上げた。ただ、さびしい、とすら言えない松野を、どうしてうらやましいと思ってしまうのだろう。さびしさなんかおくびにも出さない、そんな風なやり方に疲れたのだろうか。松野が逃げたい現実がいったいどこにあるというのだろう。嘘と虚構ばかりが積み重なった土門の、いったいどこにあるというのか。でも。土門は鼻唄混じりに机の上の包み紙や作品を手に取り、まとめてぐしゃりと丸めた。どうせ苦しいなら楽しいふりをしたいじゃないか。プロダクティヴでアクティヴでアメイジングな人生を、夢に見たっていいじゃないか。
当たりどころが悪かったのか疲れた顔で部室に入ってきた栗松が、松野に蹴られたロッカーを引いている。歪んで開かなくなったらしいが、土門はその後ろを素通りして部室を出た。楽しいふりでごまかせることなんてほんとはもう尽きてしまっていて、苦しい現実を直視するには、まだ理想や覚悟が足りずにいる。夏の日差しに目を射られ、蝉時雨が鼓膜を沸騰させる。ごみ箱に詰めこんで腐った幻想を、今さら取り戻したいと願ったところで。







腐れ外道の蝉時雨
土門と松野
リクエストありがとうございました!はじめて書くコンビなので新鮮でした。
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