ヒヨル おしゃべりクソ野郎 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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影野の視界のはしで、円堂がまとわりつく風丸を本気でいやそうにいなしている。ひじや足で突っ放し、心底迷惑だというふうににこりともしない。影野の手元には、片付けられなかったボールの最後のひとつがある。それしまっといて。円堂はそれだけ言って背中を向けた。風丸が蹴っ飛ばされてよろめく。円堂は振り向きもせずに部室に入って乱暴に扉をしめた。間をおかずにくぐもった金属音がする。つややかなボールの表面は砂で何度も引っかかれ、しろくろにあかい夕焼けをにぶく反射していた。円堂のロッカーの足元は、何度も蹴りつけられてぼこぼこに歪んでいる。大事な足や膝や道具を、円堂はいたわろうとしない。だからきらわれる。
とん、とボールを一度地面に打ちつけて、はね返ってきたのをまた両手でつかむ。取り残された風丸がき×がいを見る目で影野をにらんで、自分も部室に入っていった。風丸が円堂に執着する理由なんてひとつしかなくて、それは風丸の思考回路の中で、サッカー部において円堂だけが信頼に値する真人間である、と判断されたからだ。それは本人が言っていた。円堂はおまえらみたいなくずとは違う。おまえらなんか円堂の足下にも及ばない。風丸は普段はそんなふうに居丈高な人間ではないが、ことサッカーのことに対しては、=円堂であると判断して過敏に反応する。風丸は円堂に心酔している。そしてそれを円堂はひどくいやがる。風丸をいやなやつだとは影野は思わない。執着があるのはいいことだ、と思う。風丸は周りが見えていない。見ようともしない。だから円堂しか見えないし見ていない。風丸のサッカーは円堂がすべてだ。
なんでまだ片付けてねえの。ひくく押し殺したような声に、影野は顔をあげる。学ランに着替えた円堂がくらい目をして立っていた。風丸はいない。悪い。影野が謝ると、円堂はじろりとくろ目を動かして影野のひたいのあたりをにらむ。はやく片付けて帰れよ。吐き捨てるように円堂は言う。そういえば壁山はとっくに帰ってしまっていた。円堂。影野はぼそりと円堂を呼んだ。円堂は奥歯を噛み締めるようにくちびるを曲げて、やおら影野の手からボールを奪った。部室から出てきた風丸にそれを投げて、片付けといてと言い捨てて行ってしまう。円堂。風丸は困ったようにボールと遠ざかる円堂の背中を見比べて、そして影野の方を見た。なきそうな顔をして。影野は黙って風丸を見つめていた。風丸の顔がみるみるこわばり、手にしたボールを思いきり地面に叩きつけた。たあんとかるい音がして、ボールは思ったよりたかくはねた。どうしておまえはいつもそうなんだ。風丸が長髪をかきむしる。円堂は最低だ!おれにはなにもくれない!
風丸のするその煩悶が、影野には理解できなかった。理解できないだけではなく、理解したいともうらやましいとも思わなかった。くず。風丸が顔をあげる。おれがそうならおまえもそうだ。風丸は影野の言葉に、凄絶な顔でにいっとわらった。そうだよ。円堂はおれたちみたいなくずとは違うんだ。おれたちのずっと上にいないとだめなんだ。だからくるしんだりかなしんだりなやんだりおこったりするならそれを全部、おれに、くれればいい。ボールはちからなく地面を転がり、砂をまとわせてかげっている。ああ円堂は最低だ。そんなことさえさせてくれない。風丸はボールを拾い上げて、影野を見て晴ればれとわらった。おれはサッカーをしてるんじゃない。円堂がやりたいサッカーをしてるんだ。影野は、そう、とみじかく言った。その顔面にボールが飛んできた。額をうたれて影野はよろめく。おれには円堂がいればいいんだと恍惚とした顔で風丸は言う。クソ野郎だなと影野は心中思った。だから円堂はきらわれる。たとえ孤独に耐えられたとしても。







おしゃべりクソ野郎
円堂と風丸と影野。
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