ヒヨル 生理痛は神無月を凍らす気温! 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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ストップウォッチを片手にぼんやりと立っている夏未の隣で、春奈が計測された五十メートル走のタイムをせっせと一覧に書き込んでいく。半田先輩足はやくなりましたねぇと、メンバーひとりずつのタイムを折れ線グラフにしたものを見ながら、春奈は楽しそうに言う。それに生返事をしながら、夏未は眩しすぎる夕陽に目をほそめた。ラストふたり、少林寺と栗松が大差で五十メートルのラインを駆け抜け、お疲れさまでーすと春奈が声をあげた。どうだった、と風丸が音無の手元を覗きこみ、先輩スパイク替えてからタイム下がる一方ですよとずばり言われてうなだれている。その風丸を押しのけて、松野と半田が今日はどっちがはやかったと矢継ぎ早に聞いた。残念。今日も松野先輩です。ガッツポーズをする松野の横で、半田がさらに言いつのる。差は。えーと、コンマ二七。すぐ縮まりますよ。実際半田のタイムはここしばらく右肩上がりで、それを見せてやると半田もガッツポーズをした。次は抜けるな。はーお前じゃ無理無理。休憩です、とベンチで呼ぶ秋の声がふたりをさえぎり、プレイヤーたちはわらわらとそちらに移動していった。
夏未は眉間にしわを寄せる。からだがだるい。背中に触れられ、びくりと振りかえると秋が立っていた。夏未さん、トイレ行ってきたら。ちいさくささやかれたその言葉に夏未は一瞬眉を寄せ、それからしろいほほをあかくする。あとはほとんどすることないから。秋の隣で、春奈もうんうんとうなづいている。でも、と夏未は秋の肩越しにプレイヤー陣をうかがった。おにぎりにかぶりつきながら談笑する、おおどかで無神経な笑顔がならんでいる。いいのよ。秋のてのひらがそっと夏未の背中をなでた。わからない年でもないんだから。わかったようなその口調は、やさしいけれど勘にさわる。夏未はぱっと秋の手を払った。気づかいありがとう。でもあなたも無神経よ。そう言って夏未はきびすを返し、部室に向かってあるいていった。あららーと春奈は首をかしげる。怒っちゃいましたか。秋はなにもなかったかのように、じゃあ片付けはじめましょうかとベンチへ向かった。あららーと春奈は今度は内心首をかしげた。まったく女はめんどくさくてかなわないですねぇ。
こそこそとひとのいないトイレを探す自分の姿は、みっともなくてなきたくなる。後ろめたいことなんてなにもないはずなのに。秋だって春奈だってそう言っていた。それなのに。夏未は電気もつけないまま、無人のトイレの個室に駆け込んだ。コットン地には四指でなすったみたいなかたちに血が染み込んでいる。最もきたない現実と直面するたびに吐き気がする。気が滅入る。実際喉のあたりにこみ上げるむかつきを、夏未は指で押さえて飲み下した。それなのに、これがやって来るたびに夏未は絶望する。きたないきたないきたないきたない。女なんて生き物はこれだから。これだから。わかりきったみたいな秋の笑顔が、おもたく心に引っ掛かっている。わからない年でもないんだから。穏やかな笑顔で紡がれた、悪意のないその言葉におぞけが震う。わかってたまるものか。あんな無神経なひとたちにわかられてたまるものか。鉄のにおいが立ち込める狭い個室の中にある、底なしのあかい地獄をわかられてたまるものか。
突き刺されるようないたみを訴える子宮を、ひふの上からてのひらで押さえる。立ち上がったしろい陶器とそこにたまった水の底に、レバーみたいな細胞壁があかぐろく剥がれ落ちて沈んでいた。そこから螺旋のように立ちのぼる絶望的な鉄のあか。わからない。わかりたくない。わからないでほしい。夏未は両手で頭を抱え、鍵をかけた扉に寄りかかった。こんな終わりのない絶望の代わりに、たくさんのものを奪われる。おおどかな笑顔の彼らが憎い。足がはやくなることで一喜一憂することも、きっともうできないだろう。秋は苦しくないのだろうか。なにもかもわかったみたいな顔をしてわらっているあのひとは。どうしてあんなふうに割りきることができたのだろう。喉を突き上げる衝動は、戻ってこないものへの悔恨だった。無神経に口をひらく世界の割れ目ギヌンガガップに、これから何百回何千回足を取られて絶望するのだろうか。ああ、きたない。きたない。きたない。こんなもの。
水音を立てて地獄が流れる。夏未さんと扉越しに秋の声がした。お薬もらってきたんだけど、のむ?夏未は両手で耳を押さえた。どうしてこのひとはこうなの。どうしてこんなに穏やかでいられるの。なんでもないみたいにできることを見せつけていく。世界でいちばん憎い瞬間。いらないわ。夏未はうるむ目で吐き捨てた。あなたからものなんてもらいたくないの。そう、と秋はやわらかくわらった。夏未さん。そうしてしずかに秋は言う。ごめんなさい。でも、夏未さんが苦しいとかなしいの。その言葉こそが絶望だった。まるでこの世の地獄だった。わたしはやさしさにころされる。いたみが意識を凍らせていく。







生理痛は神無月を凍らす気温!
夏未と秋。
ずっと書きたかったはなしです。
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