ヒヨル きみを想うときめた 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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ロッカーの上にまとめて置いてあるポカリスエットの粉末が入った段ボールに、音無はいつも一生懸命つま先立ちをして手を伸ばす。音無より背がたかい誰か、特に一年生の壁山や宍戸がいてくれたら、踏み台使えよとぶうぶう文句を言いながら手を伸ばして取ってくれる。身長がおなじくらいの栗松は、クーラーボックスを踏み台にして文句も言わずにそれをしてくれる。音無よりずっと小柄な少林寺は面倒ごとがきらいなので、そこらで暇そうにしている背のたかい誰かを連れてきてくれる。なにもしないのは音無だけだ。実は以前栗松とおなじようにクーラーボックスを踏み台にしたら、体重のかけ方を間違えて思いきり後ろに転んで派手に背中とお尻をぶつけた。それ以来、踏み台を使うのはすこし怖い。でもそれを誰かに言うのは恥ずかしいし、やっぱりばかにされると思うから、音無はそのはなしを誰にもしたことはない。いつでもばかみたいに、届かない場所に手を伸ばす。
つま先立ちをあきらめてジャンプに切り替え、とうっやあっとひとり跳ねていると、後ろで扉がひらく音がした。なにしてるの。あー先輩。おつかれさまです。音無は跳ねるのをやめて振り向いた。部室の扉の前に、影野が段ボールを抱えて立っている。それなんですか。音無が問いかけると、影野は箱の天井やら側面やらを見て、かるく箱を振って、首をかしげた。拝見しますと音無は影野に箱を持たせたまま(軽そうなので)、ポケットに常備してあるペンの先で、ガムテープ部分をびーと破る。中には真新しいアイシングのセットとコールドスプレーが入っていた。肩のアイシングは不足していたので、わーと声をあげて音無はそれを広げる。肘、膝、足首用も入っていたし、スプレーも底をつきかけていた。やーん助かります。足りなくて困ってたんですよ。そう、と影野はやわらかくわらった。これ、誰からですか。夏未さんに頼まれた円堂から。キャプテンはそういうとこが駄目ですねっと言うと、まあそう言わずにと影野がぼそりといなした。
影野が左右を見渡して、どこに置こうかとたずねた。あっちょっと待ってください。音無は救急バッグから空のコールドを全部抜き、箱に入った新品のコールドをこちらも全部抜いたあとにそれを入れた。お待たせしました。あそこにお願いします。ポカリスエットの粉末が入った段ボールの隣を音無は指さす。影野は苦もなくそれをしてのけて、ついでにポカリの箱も取ってくれた。先輩って。あおいロゴの入ったパッケージをふたはこ取り出しながら、音無はしみじみと言う。ほんとやさしいですよね。そうでもないよ。またそれをもとに戻して、かるく手のひらを払ってから影野は言った。目金のほうがやさしいよ。えーと音無は声をあげる。ないない。それはないです。そうかな。影野はすこし考えるようなしぐさをしてから、くちびるをわずかわらわせた。目金はすごくやさしいと思うけど。
えーと音無は苦笑しながらうつむく。だって目金先輩、わたしにすっごくつめたいですよ。そりゃ、あゆちゃんとか先輩には、やさしいかなーって思いますけど、でも先輩よりやさしいってことは、ないですよ。うんと影野はあいまいに返事をした。音無ははーとため息をつく。昨日、目金が微妙に怪我してたんだけど。あー、足首やっちゃってましたね。音無はうなづいた。目金はからだの使い方が下手なので、特に左足によく怪我をする。誰も言わないみたいだし、音無、言ってあげたら。それわたし怒られませんか。うん、怒ると思う。もーなんなんですかーと音無は影野のからだをかるく突いた。珍しく影野はわらっている。大丈夫だよ。目金はそういうのに慣れてないだけだから。その口調がやけに断定的だったので、音無はぽかんと口をまるくひらいた。ええと、わたしもしかしてからかわれてます?影野はなにも言わずにわらっている。
音無はうつむいてせわしなく手のひらをこすり合わせた。わたし、嫌われててもいいんです。なんで。なんでって。音無が顔をあげると、影野の顔はまっすぐに音無を向いていた。だって。目金はやさしいよ。影野の言葉はぼそぼそとしていて、それなのに奇妙にふかく、胸に届く。音無にも、やさしいよ。影野の言葉はやさしい。まるで空気みたいに消えていくから、やさしい。目金は音無を嫌いになったりしない。届いても届いても、最後にはちゃんと消えていく。だから。影野はなにかを言いかけて、唐突に言葉を切った。おおやかまし、いいとこにいたな。救護班だキューゴハン。ちょっおまっこれ重傷重傷。やかましーちょっとスプレー貸してー。いやほんとまじでスプレーとかじゃねーいてぇんだけど松野しね。三回しね。つうかまじ投げるとかあり得ないでやんすよ。手がすべったんだよ黙れ栗野郎。口々になにやら言いながら部室に転がり込んできた松野と半田と栗松に、音無は今度こそ目をまるくした。
遅れて入ってきた宍戸が影野に会釈して、松野がジャイアントスイングで投げた栗松が半田に直撃した、みたいなことを音無に説明した。音無ははーと感嘆のため息をついて、どうしましょうかというつもりで影野を見たら影野がもうそこにいなくてびっくりした。半田がへんな汗をかいていたのでああほんとにやばいのかなーと、新品のコールドはこんなくだらないことで消費されてしまった。もうほんとにばかなひとたちだ。松野がげらげらわらいながら、あれバカゲノ帰っちまったーやさしくねーなーと言った。まったく同感だったので音無もわらった。それから目金じゃなくてよかったなと安心した。コールドの減りが早いねと木野が首をかしげるのにも、ちゃんと黙っておいた。だけど目金にはなにも言えない。影野があのとき言いかけた言葉もいまだに音無は見つけ出せない。その代わり目金を嫌いにもなれない。やさしくもしてもらえないけど、嫌いになる理由が今ではどこにもない。






きみを想うときめた
音無と影野。
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