ヒヨル 持たない遺伝子 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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背がたかくなりたいと思っている。栗松は部活で二番目に背がひくく、ついでにいちばんちいさい少林寺ほど性格もつめたくないので、松野や染岡なんかにはよくちびちびとからかわれる。確かに平均身長にさえ満たないことは自分でも認めるが、そこまで際立ってちいさなわけではないのに、とは常々思っていて、だけどひょろひょろと背の高い宍戸あたりと並ぶとああしょうがないかーちびだちび、と納得してしまうのがかなしかった。父親は背がたかく、母親も昔バスケをやっていたのでそこそこ身長がある。なので成長期になったら見てやがれと、風呂上がりの牛乳を増やすことしか今の栗松にはできない。七夕の笹飾りにもこっそり背がたかくなりたいと書いて、あまりに気恥ずかしくなってそれは捨ててしまった。いまだにすこしそれを悔いている自分をみっともないと思いながら、来年こそはそんなもの書かなくてもいいくらいにでかくなってやると決意をあらたにする。
あらゆるスポーツにおいて、健康で頑強で、さらに一部の特殊なスポーツを除いておおきなからだを持っているのはそれだけで強みである。壁山などはかなり恵まれた体格をしているため、柔道部や相撲部からの誘いが引きも切らない。おおきなからだは相手を威圧する。さらに、それに見合ったパワーを持つ。軽々と吹き飛ばされるディフェンダーでははなしにならないのだ。栗松はランバックランのスタートラインに並んで足首をかるくまわす。夏休み明けの初日、宍戸になんか痩せたなと言われたのがしゃくだった。ちゃんとくってた。くってたけどと言うと、へえーと宍戸は栗松をしげしげとながめ、けがすんなよ、と言った。ホイッスルの音と同時にラインを蹴って、栗松は内心首をかしげる。夏風邪をこじらせて寝込んだのがばれているみたいでやっぱりしゃくだった。少林寺がぐんぐん栗松を引き離していく。うらやましい、と思った瞬間にホイッスルがまた鳴った。ぐ、とかかとに力を入れると明らかにふんばりが効かなくなっていて、ちょっとへこんだ。
少林寺はいつも壁山の肩の上にいる。小学校からの付き合いのふたりは部内でも特に仲がよく、登校も下校もなんとなく一緒にしているのだった。少林寺を肩に乗せたときに壁山が重みなんか全然ないみたいな顔をしているのがうらやましくて、さらに宍戸がからかい混じりに少林寺を後ろから抱き上げたりするのもうらやましかった。そういうことをしてみたい、と思った。少林寺がいちばんにゴールラインを駆け抜けるのを見て、あっと思ったときには砂にスパイクをとられて栗松は前のめりに転んでいた。振り向いた少林寺が目をまるくする。どうしたんだよ。栗松はうつぶせに倒れたまま、顔だけをいそいで上げた。転んだ。なんで。なんでって。なんでってそりゃ、と思ったときに、おーいだいじぶかーと宍戸と壁山が栗松をのぞき込んだ。すげーヘッスラ。種目ちげーし。栗松はユニフォームを払いながら立ち上がる。思ったより血は出ていなくて、強打した胸がにぶく痛んだ。後ろから松野と半田がブーイング(もっと派手にすべれ!)を投げかけてくる。
手洗い場行ける?と壁山が差し出す手にだいじょーぶだよとかるく手を振り、救急箱を持った音無にあとでよろしくと言った。それでも膝の擦り傷からにじむ血に眉をしかめる。あーいってーと思いながら歩き出す栗松の手首をちいさなてのひらが握った。行くぞ。え。少林寺が肩ごしに振り向いて、あいつら今からはしるじゃん、と言った。え、あ、うん。えっと。栗松がごにょごにょ言っている間に、少林寺はその手を引いてグラウンドをななめに横切っていく。いたい。あ、まぁ。どこ。えーと、胸んとこ。見た目わからないけががいちばんこわいよ。あー、だいじょーぶじゃねーかな。少林寺が手首をつかんだのはてのひらもざりざりにすりむいていたからで、今さらのようにちくちくとそれらが勘にさわる。少林寺のてのひらはちいさくてあつい。夏をこり固めたようなその感触。
グラウンドを抜けたところで栗松はふと足を止めた。少林寺がぐんとつんのめる。なんだよ。やー。栗松は両手と両膝に血をにじませたまま、少林寺をじっとながめた。なに。んーと。はやく洗わなきゃひどくなるから。少林寺さあ。栗松はちょっとわらった。手首をつかんだままの少林寺のてのひらを、ざりざりのてのひらでそうっとおさえる。少林寺はそこに視線を落とし、顔をあげて目をちょっとひらいた。なに。少林寺さあおれが七夕んときになにお願いしたか知ってる。は?知ってる。しらねーよ、興味ないから。そうか。栗松はいたいようにわらった。そうだよな。少林寺はいぶかしげな顔をして、おまえどっか打った、とたずねる。栗松はそれには答えずに手をほどいて、おれおまえがうらやましい、とつぶやいた。少林寺は一瞬きっと目をつり上げたが、やがて困ったような顔をして、しょうがないなーと言った。おれあまえられんのきらい。そう言いながら手を伸ばし、栗松の髪の毛を両手で思いきりかき回した。栗松の血と砂をまとわせた夏のてのひらで。
ぐじゃぐじゃにされながら栗松は自分の奥の方から、なにかとてつもなくどうしようもないなにかが、ゆっくりとだらだらと染み出してくるのを感じていた。だぶついた感情を絞って捨てて、もっともっと素直で欲深で純粋ななにかに変えてしまおうとするように。少林寺。栗松はうなだれてかすかにほほえんだ。おれおまえ以外なんもいらないんだ。ほんとだよ。少林寺はぱしんとひとつ小気味良くあたまをはたいて、終わり、と言った。もーなんも聞いてやんね。はやく手ぇ洗おう。そう言ってまた栗松の手をとる少林寺のてのひらが、その感触が、星のように澄んで届いた。あやうく泣いてしまうところだった栗松はかろうじて、いえっさー、とわらう。ほしいものはたかい身長でも頑健なからだでもなく、ただきみだけだった。きみを抱き止める強さだった。ようやくそのことに気づいて栗松はそっとわらう。今までそれしか願わなかった。素直で欲深で純粋な遺伝子。







持たない遺伝子
栗松と少林寺。
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