ヒヨル すてきな四人組 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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だからそんな気にしてねぇって。と、受け取った月見そばをぐるぐるかき回しながら宍戸は言う。同じく天ぷらうどんを受け取って、店主の好みで適当にのせられた具を汁にぎゅうとしずめながら、あーはいはいと栗松はそれを流す。商店街のややさびれた一角にある、安くてうまいうどんとそばの店でふたり。どうにもあの店でラーメンを食べる気にはなれない最近だ。今注文の品を作りおえて、厨房の奥で新聞を読んでいるおやじのようには、店主と客、という単純な関係が、もうあの店にはないのだった。
いっこ食う?と、サービスなのかなんなのか、栗松の天ぷらうどんにふたつ並んで座っていたれんこんの揚げものを箸にはさんでさしだすと、おっさんきゅーと宍戸は素直にうつわを寄せてくる。素焼きのごつごつした深い宍戸の器と、つるりとした瀬戸物の、広く浅い栗松の器が並ぶ風景はどことなくおかしい。宍戸はわり箸をいつも口にくわえてぱきんとわる。その仕草がなんとなく大人びて見えて、栗松もそれをまねてみたのだがこれがうまくいかない。それをするにはくちびるからちょこんと出た前歯が、ややじゃまだ。
今日この店に宍戸を誘ったのは栗松で、それはあの千羽山中との試合の翌日だったから、さすがにあざとすぎたかと栗松は思う。勝てたのは素直にうれしいと思うが、あんなことになるとは思わなかったのだ。あんなことに。言いたかったことのだいたいは半田が言ってくれたけど、それよりもなおもやもやした気持ちが、ひとばんぐっすり眠った今日もまだ消えない。栗松のとなりでは、宍戸がほとんどなまの卵をといた汁にれんこんの揚げものをひたしてかじっている。みかづきの形にかじりとられたれんこんを見て、栗松も自分のれんこんに同じようにかぶりつく。
数学もうやった?まだ。俺明日提出なんだけど。げっまじで、俺んとこもじゃあもうすぐか。やってたら見せて。だからやってねって。全然?全然。じゃあショウリンに頼むかなー。つかお前は自分でやった方が絶対はやい。俺数学きらいだし。
ずるずると麺をすすりこみながら、言葉すくなに話をする。練習後はとにかく、腹がへって仕方がない。でも宍戸頭いいだろ。そう言うとかみ切れなかった麺がぼとりと器に沈んで汁がはねた。指先でほほについた汁をこすり落としながら、きたねーと宍戸がわらう。つかお前えびのしっぽ食わない派?はぁ?食うもんじゃねーよしっぽなんか。ばっかお前ここが一番うまいんだろ。突き出しのゆずポン味の湯豆腐の(とっくに食い終わった)皿のなかに浮かんだえび天のしっぽを見て、宍戸が栗松のこめかみを拳でぐりぐりとこする。
ごつごつした素焼きの器に引っかかった宍戸の指先があかい。箸を持つその指は、栗松のそれよりもすんなりとしてほそく長く、関節と関節のあいだがきゅっと締まって形がよい。みじかく切られた爪のあいだに、念入りな手洗いでも落としきれなかったグラウンドの土がわずかに残っていて、思わず見下ろした自分の手にもおなじものが残っていたので栗松はすこしだけ安心する。思い通りにプレイのできないもどかしさよりもっと違うものがあの場所にはあって、なのに誰もそのことには触れないように、見てみぬフリをするものだから。もの分かりのいいような芝居をして、勝てばそれでいいとか言って。くたくたで帰宅したその夜、シャワーにざぶざぶ打たれながら栗松はすこしないたのだった。
鬼道さんが入ってくれてよかったよ。宍戸は組んだ両手の上にあごを乗せて、あぶらとほこりのこびりついたはり紙のメニューをながめている。あれで鬼道さんのかわりに俺が出てたら、俺らこんなとこでめし食ってねーって。宍戸の手首には栗松とおなじミサンガが巻きついていて、それを少林寺も壁山もおなじように手首に巻いている。音無が内緒で四人にくれたものだ。意地はって負けてなくってか。俺がやだよ、そんなの。そんなことを言う宍戸の横顔が、箸を口にくわえてぱきんとわる仕草よりもずっと大人びていた。
でも。栗松はこちらも油でべたべたのカウンターの上で手をにぎって、言った。俺はお前と出たいよ。俺と宍戸と少林寺と壁山で、出たかったよ。ひひっと宍戸はわらった。さんきゅー。俺もお前らと出たかったわ。でももう終わったことだしぃめでたしめでたし。組んだ両手をぐうっと天井にのばした。おっちゃんお会計お願いします。その言葉に栗松はあわててカバンから財布を取り出す。百円玉を六枚と五十円玉を二枚カウンターに並べて、ごちそーさまっすと声をあわせる。
店を出たところでふたりの制服のポケットが同時にふるえた。壁山だ、と携帯を見ながら宍戸が言う。栗松の取り出した携帯には少林寺の名前が表示されている。ふたりは顔を見合わせて、同時に電話を取った。
もしもしー?あっ栗松いまどこにいるの?宍戸と一緒にめし食ってたよ。うわやっぱり?ほらー俺の言ったとおりじゃん。話しながら宍戸の様子を伺うと、あーいいっていいってと宍戸がわらっている。どうやら壁山と少林寺も、栗松とおなじようなことを考えていたらしい。つかとりあえずファミレス来いよなっと少林寺は言い放ってさっさと電話を切ってしまい、宍戸もまた携帯を閉じて、つーわけで今からファミレスに行くことになったけど、と栗松に言う。行くよな?あたりめーじゃん。腹は?関係ない。同じく。ひひひっとふたりで顔を見合わせてわらう。
気ーなんかつかってくれなくていいのになと宍戸がひとりごとのように言った。ちげーよと栗松は言う。俺らステキなサッカー部、ってことだよ。あーそれサイコーと、心のこもってない口調で宍戸が言うから、そのひざの後ろを思い切り蹴ってやった。地面にくずれ落ちる宍戸がついた手が、やはりすんなりとしていた。宍戸はいつも飄々とわらっている。心配なんてさせてくれない。うん。ひざを払って宍戸は立ち上がる。俺らステキなサッカー部、だな。
砂でよごれたその手を栗松はつかむ。その指が自分のそれとおなじくらいあたたかくて、やっぱりすこしなきたくなった。手首のミサンガがちらりとのぞいて、ああと栗松は胸にこみあげるものをそっと吐き出す。気なんかつかうかよ、つかってねーよ。かじられたれんこんみたいなみかづきが、ほのかに夜空をかすませている。望むことなどひとつしかない。どうかどうか一緒にいてくれと、その他にはなにも言うことはない。なんにも望むことなんてないのだ。ファミレスが道の先でこうこうと明るく、あそこには壁山も少林寺もいるのだから。そうしてすてきな四人組はいつまでもいつまでも仲良しなのでした。めでたしめでたし。




すてきな四人組
18話に寄せて。栗松の「ヤンス」口調は先輩への敬語と捉えてふつうの口調。
宍戸が抜けてさびしかった。だけど宍戸は心配させまいと振る舞いそうな気がします。
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