ヒヨル おちる時間 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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公営の図書館には、ひらべったいディスプレイの中をさかながおよぐ仕掛けの二次元水槽(どう呼ぶのかはわからない)があって、その下にあおく着色された水時計が設置されている。
油だかなんだか、水ととけあわないくせに水に似せられたそれは、ころころとしたちいさなつぶになってすべりおち、歯車をぬけ、一番したにうすくたまっては、また落ちるべく吸い上げられる。
それを見ていると時間をわすれてしまうので、半田はなるべくそっちを見ないようにする。せっかくの日曜日、わざわざ着替えて出てきたのにドタキャンはないだろうと、半田はもう三十回くらいあたまの中で殴ったふたりの顔を、もう一回ずつ殴る。ぼこぼこだ。
水槽と水時計からはなれた席で、半田はひたすらマンガを読んでいる。意外とマンガの種類が豊富で、しかしそれは全くの歯ぬけだったので、半田はスラムダンクを三冊と幽遊白書を五冊とブラックジャックを二冊読んで、読書に飽きた。まっしろい机のはしに、ハートマークでぐるっとかこまれた名前がふたつあって、それが明らかに男と女のものだったので、半田は親指のはらでそれをこすって消した。くろく引きのばされた筋がついて、きたなかった。
本を返して、結局二次元水槽のさかなをながめた。三歩ほどはなれた場所にあぐらをかく。邪魔だろうなとは思ったが、半田には今はこわいものなどなかった。うすべったいディスプレイの中で、ひらひらとくるくるとさかなが泳いでいる。あぐらをかいた目線の高さにはちょうど水時計があって、こちらもせわしなく落ちたりまわったりのぼったりしている。あざやかすぎるあおがかえって毒々しい。
フットボールフロンティアのことでも考えるべきなのかとも思ったが、やはりそれはうまくいかず、なんであいつらドタキャンしたんだと、しかたのないことばかりがあたまをめぐる。サッカーのことでもなんでも、別のものがすべり込んできてほしいと思った。宍戸でも呼びつけて愚痴ってやろうかなとカバンから携帯を取りだした半田のとなりに、あぐらをかいた半田の背丈とおなじくらいの、ちいさなこどもが立った。
仕掛けがおもしろいらしく、まるい目も口もぱかんとひらいて、じっと水槽と水時計を見ている。そのあまりにも真剣なまなざしに、半田はすこしのまれた。ああ自分もこんな風にこれを見ていたのかあほくさいと立ち上がり、水槽に軽くひとつ拳をくれた。あっ、とこどもが声をあげる。振り返りもせずに半田は図書館を出て、宍戸を呼びつけるべく電話帳からその名前を呼び出す。
なるべくさっきのことを考えないようにして、だけどあのこどもと同調したような気がした。あのこどもの目が半田のそれになって、ひたすらあおく着色された水時計を見ている。目の前には歯車をころがるちいさなつぶつぶではなく、ひっそりと底にたまったあおが広がっている。空や海より毒々しいあおを、半田もしかしあのこどものように見ていた。
こどもの目は半田の目になって、それを、吸い上げられてころがってまわって落ちるまで、ただだまって見つめていた。
七回目のコールでようやく出た宍戸に、駅前のマックに今すぐこいとだけ告げて、そのまままっすぐ家に向かう。だけど宍戸はそんな些細なことでは絶対怒らないだろうと、あたまの中でドタキャンした二人をぼこぼこにしながら半田も同じことをする。目の奥で歯車がくるくるしていて、そのあおは涙に似ていてきもちわるかった。







おちる時間
半田。わりとやんちゃな子のような気がする。
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