ヒヨル さいごの日きみのとなりで 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

オレンジとグレープフルーツはどちらがすきかとたずねたら、ピンクグレープフルーツならそちらの方がすきだと言う。
半分に切ってぎざぎざのスプーンでほじくるのかばかばかしいと思っていたら、皮をむいてうす皮もむいてかぶりつく、みたいなことも言う。
ものすごく遠くのほうでしずみかけた夕陽がこれまたものすごくあかくて、円堂なんかあの鉄塔で思いでにひたっているにちがいないと思ったので言ってみたら、すこしわらう。その髪のいろが夕陽をすいこんだみたいにあかくて、ため息をつかずにはいられない。まっかにそまった河川敷はもえるようだ。
首輪をされたいぬみたいに、俺はここから離れられないのかもしれないと思った。俺がではない。首輪をされたいぬはあいつだ。ひざをかかえて、そこにあごをのせて、だけどどこを見ているかは、わからない。
俺がひっぱりまわすものだから、俺のちかくにいてくれたけど、もうそれもかなわないのだな、と思ったら、かなしさとかさびしさより別のものがのどのあたりにこみ上げる。
どうかあいつの行くあたまのいい高校の校則がゆるいものでありますように。このながいながい髪をきりおとすようなことを、あいつがしなくていい高校でありますように。俺が行く高校はあんまりあたまのいいとこじゃないから、あいつがこれからどんな生活をするのかなんて、想像することすらできない。
と思っていたらあいつがほそい指をのばして、あかいひかりをさえぎるような格好をする。そのうえから手をかざしてやった。まぶしすぎて目がいたい。
さいごの日だからすこしだけやさしくしてやりたかった。もうさいごの日だから。染岡、とあいつがしずかに俺をよぶので、首すじのあたりにやわらかくおちかかる髪を、ちょっとらんぼうに背中にはらってやった。
むきだしのしろいそこに手をのばした。つめたかった。首輪がはずれるおとがした。染岡。夕陽があかあかとすべてをもやしていく中で、あいつがそっと、俺をみた。
かばんに入れたままのオレンジジュースのペットボトルは、水をかぶったみたいにひたひたになっていた。色紙の文字はにじんでいなかったので、でもそれでよかったのだと思う。あげられるものなんて最初からなにもなくて、つたわることもなくて、だからなくことだってできなかったのだから。
あいつの背中が地面にこすれた。両手でおさえたのどがかるくひくついて、そうしたらもうあたまの中で砂時計がひっくりかえったみたいにいろんなものがあふれて、俺はあいつのうえにふとんみたいにたおれた。目のはしで夕陽があかかった。まぶしすぎて目がいたかった。
さいごの日にはきみのとなりにいたかった。惜しむことなどなにひとつない。きみが首輪をされたいぬみたいに俺のそばにいてくれたことを、俺はなん十回だってなん百回だっておもいだすだろうし、きみはピンクグレープフルーツをたべるのとおなじくらいには、俺のことをおもいだしてくれればかまわない。
さいごの日にはせめて、きみのとなりでなきたかった。つたわることもなかったから、おもいだすことだってもうできない。ああくれていく、くれていく。さよなら。さよなら。さよなら。きみとそのすべて。





さいごの日きみのとなりで
染岡と影野。
PR
[30]  [29]  [28]  [26]  [25]  [24]  [23]  [22]  [21]  [20]  [19
カレンダー
09 2024/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
まづ
性別:
非公開
自己紹介:
無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

adolf_hitlar!hotmail.com

フリーエリア
アクセス解析

忍者ブログ [PR]