ヒヨル 寂寥轟轟唱歌 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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後輩に引き継ぐものというのは思った以上に少なく、自分のざっくりとした引き継ぎ(練習計画の立て方やキャラバンに乗る席決めのくじの作り方なんか)を終えたあとは手持ちぶさたに任せて宍戸にドラゴントルネードを仕込んだりしている。少し前まで忙しげに働いていたマネージャーや目金も引き継ぎを無事に終えたようで今は安穏としているし、それと一緒に音無まで安穏としているのはどうかと思うが、一時の慌ただしさに比べたらサッカー部にもずいぶん穏やかな日々が戻ってきた。殺伐としているのはあそこだけだなと染岡は眉間にしわを寄せる。円堂と栗松がファイルを除き込んでなにやら言い合っている。その姿はすっかり馴染みになった。円堂たちの卒業に合わせてサッカー部は大きくシステムを変えようとしており、栗松は実質それを引き継ぐ最初のキャプテンだ。増えに増えた部員の、主に初心者を中心とした大勢はすっかり手慣れた壁山がうまく練習を割り振り、少林寺と宍戸は今や一軍メンバーの中核を担っている。
なにやら揉めている円堂と栗松を、いつの間にか隣に来て眺めていた影野が、大変だね、と他人事のように呟く。円堂も短気だからな。仕方ねえよ。実感を込めた言葉は予想以上に響いたらしく、影野は噎せるように少し笑って、そうだね、と応えた。たまごろうは?練習に混じるって。さっきまで影野はゴールキーパーの相手をしていた。多摩野は天賦の才を持つ円堂などに比べたら見劣りはするが、持久力もあり強い腰をしたいい選手だと思う。虎丸率いるFW陣の攻めの姿勢を後ろで支える、優しく明るいよいキーパーだ。あいつくらい優しかったらな。そう言った染岡の言葉は、突然ファイルを取り上げて栗松のあたまを思いきり殴り付けた円堂を見てため息に変わる。情けないことに、あれでも円堂は栗松が好きで仕方ないのだ。ただ、好きであるがゆえの厳しさなのだとは今やチームの誰ひとりとして思っていない。栗松が好きで仕方ないのとは全く別の問題で、円堂とはそういう人間なのだった。情けないことに。
いつもの光景をいつもの光景と見ながら、影野はゆっくり首を回した。引退してもちゃんと部活来るのな。染岡の言葉に影野は唇の端をそっと吊り上げた。相変わらず、薄い、と思う。松野が来いって。あと、半田とか、円堂も。あいつも?後輩の面倒見るのは義務だって。円堂はほんとに壁山たち好きだね。まぁなぁ。円堂は何発かファイルで栗松を殴り、それだけでは飽き足らないのか背中を蹴飛ばしている。おーおー今日は派手だな。腹に入ったら止めに行くか。まだ大丈夫だよ。栗松は咳き込み、円堂に向かってなにやら言いながら腕で顔をかばうようにした。いつもなら殊勝にうなだれて円堂に従うのだが、今日はやけに粘る。円堂の顔がみるみる険しくなった。怒声が爆発する。思わず一歩踏み出した染岡の手首に冷たいものが絡んで足を止める。影野は激昂する円堂を見ながら、首を振った。大丈夫だから。大丈夫っつったってお前。首を返すと円堂の拳が栗松の側頭部を張り飛ばしていた。指先がそわりと寒くなる。
寂しいんだよ、円堂も。影野の言葉に、染岡は眉をひそめた。寂しい?影野はそっと染岡の手首に絡めた指を離した。つらくて、寂しいし、あとは悔しいのかな。染岡はもう一度円堂を見る。おっとり刀で寄ってきた半田も、言い争うふたり(と言うよりは激しく言い募る円堂)には手を出していない。少し離れた場所で、見守っている。なんとも言えない、憧れにも似た目をして。栗松はいいキャプテンになると思う。影野もまた夢見るような声で呟いた。だから余計許せないのかな。染岡は無意識に手首を撫でながら、もはやなにを理由に怒っているのかを自分でも忘れ去ったに違いない円堂を見た。円堂の憤怒。いつも近くで見てきたものが、やけに遠く見えて動揺する。情けない円堂は、手を伸ばして栗松の胸ぐらを掴んだ。殴る。と。脳裏によぎった殴り飛ばされてよろめく栗松の姿は、円堂自身が裏切った。円堂は力なく手を離し、栗松の胸を突き退けるようにした。栗松が掴まれた胸元を撫でる。落ちたファイルを拾い、砂を払って、円堂に渡す。
よくわからねえんだけど。言いながら振り向くと、影野は少し笑った。染岡は、幸せだね。なにがだよ。ううん。やはりおかしそうに影野は笑うと、染岡の背中をぽんぽんとなだめるように軽く叩いて足を踏み出した。栗松の肩に触れて、張られたあたまを抱えるように腕を回す。影野のユニフォームに顔を埋める栗松を見て、どろりと疲れた顔をした円堂を見て、その円堂の肩を叩いて揺さぶる半田を見る。幸せなのだろうか。これは。幸せなのだろうか。いーなーと声がしてはじめて気づいたが、隣には宍戸が立っていた。おれも栗松慰めたい。行けばいいだろ。何の気なしに言った言葉に、宍戸はあからさまに染岡を小馬鹿にして笑った。そういうとこわかんねえから染岡さんもてねえのな。関係ねえよと尻を蹴飛ばすと宍戸は無抵抗にべしゃりと倒れた。宍戸はなにも言わずに立ち上がり、手と膝を払って、にっと笑う。おれが今出ていくとかどう考えてもひどいでしょ。おれらこれでも先輩たちのこと尊敬してるし、好きなんですよね一応。一応だけど。
ますます困惑する染岡を無視して、宍戸は果敢に円堂に歩み寄った。なにやらいちゃもんをつけたかと思うと張り倒される。円堂はあたまを振って腕で目元を乱暴に拭うと、影野の腕に巻かれていた栗松をもぎ離すように連れていった。なぜか、円堂の方が途方に暮れた顔をしていたような気がする。円堂の方が、裏切られ、傷つけられたように。影野は栗松を引っ立てるように連れていく円堂をしばらく見ていたが、不意に染岡の方を見て、にこりと笑った。胸に痛いほど優しく。いたたまれなくなって染岡は目をそらした。そんなにも孤独だったのか、と、今更ながら心臓を浸す羨望に気づく。手首がいつまでも冷たかった。きっかりと、影野の薄いてのひらの形に。









寂寥轟轟唱歌
染岡と影野。
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