ヒヨル アンビエント 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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雨の日は気持ちが楽になる。ふたごだけれど似ているのはそういうところばかりで、それでも違うところといえば兄が大嫌いな体育がなくなったり、マラソン大会や体育祭が延期になったり、部活が中止になったりすることばかりを喜ぶようなところだ。雨は兄のコムプレクスを覆って流す。一斗はといえばそういうことはちっともなくて、雨の日に穏やかな楽な気持ちになることは、つまり緩やかに気持ちが鬱ぐことなのだと気づいていた。秋と冬の繋ぎのような凄惨な雨の日には、特に。雨は嫌いではなかった。嫌う理由がない。気持ちが鬱ぐことすら、別段の不幸でもなかった。屋外でする運動競技をすべて台無しにして、一斗のコムプレクスを際立たせる凄惨な雨に鬱ぐ気持ちを持て余すような日ですら、一斗にとっては明確に疎んじるべき出来事でもなかったのだった。雨の日は気持ちが楽になる。疎んじていたのは明確な差別化であったのだとなし崩しに気づいてしまっても。
負けたら殺すという最後通牒のような言葉を突きつけて、円堂率いる遠征組がライオコット島に旅立ってからこっち、断る理由もないので一斗は流されるままに雷門中サッカー部に在籍した。人数不足が深刻なのと、兄が強くそれを勧めたのと、あとはやはり、ここ以外でのサッカーを望む理由が一斗になかったからだ。雷門中サッカー部は、円堂他主力メンバーが抜けただけでまるで角が取れたような穏やかな集団になっていた。仮主将としてチームを率いている半田の人柄の賜物だと思う。半田は一斗にも優しかった。おまえが来てくれると助かるよと屈託なく笑って一斗を受け入れた半田には、もしかしたら兄がそれとなくなにかを吹き込んでいたのかもしれなかったが、一斗はあえてそれを無視した。優しくしてくれるのならば、嫌う理由はない。あとのメンバーにはなにをか思うことがないでもない。それでも出ていくほどの理由にはならなかった。彼らは一斗を弟と呼ぶ。それもまた、気に入らないわけでもなかった。
雨の日には、部活が休みになってもなんやかやで彼らは部室にたまる。スナック菓子やマンガを回したり、ゲームをしたり。後輩たちはそんな日には部室に寄り付かないが、一斗と同じタイミングでサッカー部に入部した闇野はまめに顔を出している。仏頂面で口数が少なく、あまり周りと関わろうとしない闇野は、それでも菓子を差し出されればそれを食べるし、マンガが回ってくればそれを読む。そのどことなく健気な姿勢が彼らには悪いことではないらしく(、あるいはもっと他に理由があるのかもしれないが)、孤独を好む割に闇野は存外そこに馴染んでいるように見えた。闇野は静かで、深い夜のような気配がする。それが嫌いではないために、一斗はなんとなく闇野の側に座を占めることが多い。同じように静かな影野よりも、なんとなく乾きすぎていないような気がした。それに旧知の中に割り込むような真似は、兄ならばいざ知らず、一斗の最も苦手なことのひとつだった。闇野はいつも輪から少し離れた場所に座る。そしてそこから少し離れて、一斗が座る。
湿気が立ち込める部室で、顔を付き合わせてモンハンをしている半田と松野と影野をぼんやり見ながら、一斗は鞄を探った。携帯を取り出してメールを読む。その肩が横からつつかれて、一斗は顔を上げた。闇野がマンガを差し出している。なに。貸す。なんで。ぼく興味ないよ。そう答えると闇野はちらと半田たちを見て、そうか、とおとなしく引き下がった。再びそれを開いてあたまから読み返している闇野を見た。おもしろくもおかしくもなさそうな顔をして。闇野は兄を知っているのかもしれないと思う。兄ならば、差し出されたマンガを嬉々として受け取っただろう。あるいはもう読んだことがあって、その内容について滔々と語り始める。胸を張って。闇野は淡々とページをめくり、そのうちぱらぱらぱらと半分以上を流し見してから立ち上がった。ここに置く、と半田に声をかけると生返事が上がる。闇野はそのまま鞄をつかむと、すうっと部室を出ていった。入り口に立てかけた傘のうち、紺色の地味なものを差して。
一狩り終わった半田が顔を上げ、シャドウ帰ったのか、と独り言のように言った。カゲトはぼっちだからな。ひひっと松野が笑う。半田はさらに一斗を見て、あれ弟いたの、と驚いた。一緒にやる、と聞かれて一斗は首を横に振る。持ってないから。あそう。ウザメガネとは似てないねー顔はおんなじなのに。帰りそびれた一斗をちらりと見て、もう帰ろう、と影野が切り出す。彼らが支度を始めるより先に、一斗は部室を出た。雨は凄惨に降っている。入り口に立てかけた傘のうち、なんの飾り気もないビニル傘を塗らす。兄は、と思う。本当にこんな場所に馴染んでいたのだろうか。それは一斗の知らない兄の姿だった。兄ならば闇野とどんな話をするだろう。半田や松野や影野や後輩たちと、どんな話をしたのだろう。兄は。アニキは雨が好きだ、と励ますように一斗は呟いた。かげもかたちもみえない、ものに、すがりたがるのは彼と同じだと思う。










アンビエント
一斗。
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