ヒヨル 流星のすべて 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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午後を大きく回ったケンタッキーは、肉と油となにやら甘いような匂いをだらしなく店内に広げて眠っているように見えた。所在なげな店員がひとり、カウンタから中途半端な笑顔を寄越す。ふたりが入ってきたことに今まで気づかなかったのだろう、自動ドアはカウンタの目の前にあるというのに。半田はメニューを目で追い、チキンを2ピース(普通のと、甘辛いたれをつけて焼いた秋の新作)とビスケットをひとつ、ポテトと大きなカップの炭酸飲料を頼む。おまえはと振るとじゃおれもそれ、と染岡は財布を取り出した。飲み物をウーロン茶にした以外は半田と全く同じ内容を頼み、キャッシャーに表示された金額にわずか眉をしかめた。ただでさえ面付きのよくない染岡がそんな顔をするので、いっそう凶悪さが増す。中学生の小遣いでほいほい食べられるほどケンタッキーは安くはないので、そのときの染岡の気持ちも半田にはまぁわからないでもないのだった。それにしても悪い顔をしていると思う。見た目で損をする男の典型だ。
窓から射し込むいかにもな秋の光がべたつく床を白く切り取る。半端に下げられたブラインドに縞しまと縁取られた日当たりのいい席を無視して半田は店の奥へ向かった。今なんじ。後ろから低い声で3時過ぎと染岡が答える。おやつだな。狭苦しいテーブル席に差し向かってパッケージングされたウェットペーパーで手を拭いていると、染岡が変な顔をして半田を見た。なんだよ。あっちの方がよかったんじゃねえか。言って指すのは半田が無視した日当たりのいいカウンタ席で、足がどうにも狭いのだろう染岡は居心地悪くしきりに座り直している。やだよ窓際とか。知り合い通ったら気まじーし。そうか、と染岡は存外簡単に引き下がる。染岡としてもあまりこういう場所で知り合いに会いたくはないのだろう、と思った。さらに言うならこてんぱんに敗けた試合のあとだ。やけ食い、と言うにはあまりに半端な量の食料は自分そのものだ、と半田は思う。調理される哀れな雷門イレブン。煮てさ、焼いてさ、食ってさ。
半田がチキンにかじりつくと、向かいで染岡も同じようにした。染岡の歯の間でまっ白い筋繊維がほぐれるのが目につく。まっ白い筋繊維が歯の下で無抵抗にほぐれて赤黒い腱や濁った半透明な軟骨がばらばらに噛み砕かれやがて喉を通って食堂を落下し胃に落ちて正しく栄養になる。奥歯を噛み合わせるとにちり、ともきしり、ともつかない感触が顎を揺らした。歯の間のまっ白い筋繊維。世の中で正しくまともに信じられるのは食事だけのような気がする。甘辛くパリパリに揚げられた皮を噛み砕くと、甘いあぶらが舌にすうっと広がった。ねとつく指をナプキンになすりつけ、半田はふたつ目のチキンにかじりつく。じわりと肉汁がにじみ出て噎せた。染岡がポテトをまとめて口に押し込みながら怪訝な目をする。なんでもねえよ。先制でそう言うと染岡は結局なにも言わずにチキンに手を伸ばした。こういう無駄に繊細なところがむかつくのだと思いながら、半田はそれを一度も染岡に言ったことはない。
おもしろくもおかしくもない練習を惰性で乗りきって、それでいていざ挑んでくる相手にはおもしろいように大勝する。チームの体裁が整ってからの雷門イレブンはずっとその調子だった。努力も友情も信頼もない、ただ誰もが負けたくないからがむしゃらに戦うだけで、それだけで勝ってこられた今までの方が奇跡だったのだ、言うなれば。地区大会で一蹴した相手に挑まれたつまらない練習試合で、惰性と不信の12人はなすすべもなく蹴散らされた。円堂は暗い憤怒で暴言を吐き、11人を罵っては殴り蹴り、あとは黙った。傷ついたような顔で。あいつしねばいいのに。そう言うと染岡が机の下で半田の足を蹴った。半田は椅子を蹴るように立ち上がる。ふたりの間の空気が一瞬張り詰めるが、先に目を反らしたのはさっきまで半田より狂暴な目をしていた染岡の方だった。円堂の胸ぐらを掴んだ染岡の手を思い出す。責任を感じているのだとしたらあまりにも稚拙だと思った。円堂も、染岡も、自分自身さえも。
半田は一歩足を踏み出した。どこ行くんだよ。もっと食う。まだ食うのかと呆れたような染岡の声を背中に、半田はカウンタの前に立つ。小銭を受け皿に乱雑にばらまきバーガーをひとつ注文した。トレイに乗せられ差し出された紙包みをその場で破って猛然とかじりつく。さても哀れな雷門イレブン。半田の中から現実感が遠ざかり、いつかこんな日が来るのだと諦めきった皆の眼差しが蘇る。いつかこんな日が来るのだと、誰もがそれをわかっていた。半田でさえもそうだった、のに。それでも彼らは加害者だった。清らかな大いなるものを傷つけたのは他でもない半田たちだった。わかったような顔しやがって。鼻の奥を突き上げるものをごまかすように半田はうつむいた。秋の光が綺羅やかに足元にこぼれていた。あいつはまるで華麗に他人面だった。丸めた紙包みを染岡の後頭におもいきり投げつける。この気持ちをどうしてくれようと憤っていた。









流星のすべて
半田と染岡。
とりをたべるおはなし。
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