ヒヨル 遠吠えと軋る四八の他汝こころ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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持久力はある方だがスピードはあまり速くない。頭に血の上りやすい性格でもあるし挑まれた勝負には万難を排して噛みついてゆく。従ってボールに追い付けないこともときにはあるので、増谷乃流は最前線に配置されることが多い。ここ最近の彼女は試合開始と同時にまっしぐらにゴールを目指し、あとはオフサイドにだけ気を付けておく、というなんとも味気のない仕事を黙々とこなしている。適宜機転を利かせろとの円堂の指示は、守れているやらいないやら。それでも彼女のシュート力(だか彼女自身だか)があまりに魅力的なおかげか、彼女はここしばらくスタメン落ちを経験していない。精神的に打たれ強いのも、女子にしては破格の強みであった。同じく攻撃的でかつ打たれ強いフォワードであるリカともまた違って、ないるは粒揃いの雷門中にあっても一際味のあるプレイをする選手として評価されていた。無頓着なないるは評価だの実績だのよりも、実際に泥臭くプレイをすることを好んでいて、そこもまた円堂の気に入るところである。
なんだかねぇ、と宍戸は髪の毛の内で薄くまばたきをした。リカとないるならば自分がマークすべきはリカである。ちら、と後ろを見た。ないるは壁山に任せようと、一歩踏み出す。左右からのディフェンスを踊るようにかわしたリカが、ほんの僅かに呼吸を遅らせた。宍戸の踵が地面を擦る。迷わずないるに向かったのは、リカが斜め後ろにバックパスを出すのとほとんど同時だった。フェイクボールを出そうと息を吸い込んだそのとき、ないるがにやりと笑う。いつの間にかないるの後ろに回っていたリカ、そしてルルがそれぞれ身構えた。ないるの華奢なからだがあっという間に宙に投げ上げられ、回転しながら急降下してくる。ブーストグライダーの風圧に、宍戸と、こちらも止めようと駆け寄ってきた半田がまとめて吹き飛ばされた。一回転して顔を地面に擦った宍戸は、べっと苦い砂を吐いて立ち上がる。頬骨が地面とぶつかるごつりとした感触が首の後ろにわだかまっているのを無視して駆け出した。膝がわななくのは頭を揺らしてしまったせいか。
壁山と栗松をあっという間に突破してシャインドライブの体勢に入っているないるに猛然と追いすがる宍戸を見て、ゴールで身構えている円堂は目を剥いた。蹴り出されたボールの前にからだを投げ出す。閃光、そして衝撃。ゴールに向けて転がってきたのは宍戸の方で、どこでどう弾いたやら、ボールは高く跳ね上がっている。壁山がそれをヘディングでラインの外に出した。円堂は腹を押さえて呻く宍戸の上半身を自分に寄りかからせるように抱えて、なんとも言えない顔をしている。ただの紅白戦でそこまでする必要があったのか、という不可解さがありありと滲んだ顔をして、困ったように壁山や栗松を見た。おい。そばかすの頬を軽くはたく。生きてるか。なんとか。唸りながら答える宍戸にほっとした顔を見交わす壁山と栗松が、華奢な腕で左右に押し退けられた。切羽詰まった顔で風のように飛び込んできたのはないるだった。技を放った影響か、まだエネルギーの余波がからだの周りでかすかに帯電している。
ちょっと!!円堂が制止する間もなく、ないるは両腕で宍戸の胸ぐらを掴む。ただの紅白戦でなにやってんのよ!ばかじゃないの!?下手したら死ぬとこだったわよ!ばか!!円堂の腕から宍戸をもぎ離し、早口でまくし立てながらがっくんがっくん前後に揺さぶる。おい。珍しく焦ったように円堂が止めようとするが、ないるはほとんど涙混じりの声でますますわめきながら宍戸を振り回す。しぬ。しぬって。ちょっと、ないるさん。わななく腕をなんとか上げてないるの腕を掴みながら、宍戸はかすれた声で言った。大丈夫だから。その鼻孔からつっと鮮血が流れ落ちる。思わずびくりと手を引っ込めた円堂とは対照的に、ないるは宍戸のあたまを抱えて思いきり自分の胸に押し当てた。がつ、と額が鎖骨にぶつかる。ち、血がぁぁぁ!!今さら驚いたように悲鳴をあげるないるの腕の中で、霞みかけたあたまでだらだらと鼻血を流しながら宍戸は薄くまばたきをする。なんだかなぁ。
別にないるに一泡吹かせたかったわけでもなければ、本気でゴールを守ってやろうと思ったわけでもない。腹を立てたわけでもなければ、もちろんかっこいいところを見せたかったわけでもない。怪我は、するだろうな、と思っていた。でも別に、どうということもない。どうということもなかった。今、自分が心底驚いていることの他は。閃光の中で向かい合った瞬間、ないるは驚いた顔をした。腕を交わして、抱き合えそうなほど近くで。からだがぐらりと歪み、目を開けると空が見えた。壁山に抱え上げられ、ベンチに運び出される直前に見えたのは、ぐしゃぐしゃに泣き濡れたないるの顔だった。血だらけのユニフォームを着て。宍戸の手のひらをぎゅっと握る細い指があつい。壁山が歩くのに合わせて本当に名残惜しそうに離れたないるの指の先で、ぱちりと火花が弾けた。一泡吹かせたかったわけでもなかったのだ。本当だ。ごめんね、とだらしなく笑った、声が、誰にも聞こえていないといいと思った。









遠吠えと軋る四八の他汝こころ
意訳:悔しくて歯軋りしているあなたの手のひらはまるでわたくしのもののようです。
リクエストありがとうございました!宍戸とないるちゃん。ないるちゃん好きって言っていただけてとっても嬉しかったです!
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