ヒヨル 僕はそれがこわい 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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俺はあいつのそういうとこがこわい。
例えばあいつは、高いところから床に落として、もう誰が見ても危ないくらいはちはちに膨らんだ炭酸飲料のペットボトルを、無造作に拾い上げて開けてしまいそうな感じがする。
気を抜くとどこかにふらりとなびいてしまいそうな、触れてはいけないものに躊躇なく触れてしまいそうな、こわい物知らずに輪をかけた、いっそ鈍感なくらいの振る舞いが、俺はこわい。
前に部室を開けたら、あいつがびっくりしたようにこっちを見たことがある。
最近入ったマネージャーが、半ば無理やり置いた大きな花瓶を、机の上に置いたまま両手で挟むようにして。
着替えの途中だったのか、学ランの前が半分くらい開いていて、髪の毛がまといついていた。
あ、と、言葉を飲み込んだあいつの、花瓶を挟んだほそい指から水が漏れて袖口を濡らしていた。よく見ると花瓶には縦に大きなひびが入っている。
このままあいつが手を離すと、がちゃんと砕けるのは目に見えていた。何が原因でそうなったのはわからないが、少なくともあいつのせいではないのだろう、と思った。
誰かが悪意なくしてしまったことを、表情からは伺えないがたぶん懸命になかったことにしている。そんな感じがした。
大股で近づくと、あいつは、何も言わずに目を伏せた。花瓶をおさえる指が、小さくかたかた震えていた。花瓶は大きいし、重い。
俺はその上から、あいつの手の上からそれをおさえた。てのひらが濡れた。あいつの指がでこぼこしてつめたい。
だからつめたいと言ってやった。あいつは頷いた。頷くだけで何も言わないので、ばか野郎と罵った。
大きなひびの片側に俺、もう片側にあいつの手を添えて、そっとその破片を外す。見る間に残っていた水の大半が床にこぼれて、俺とあいつにしぶいた。
破片をそろっと机の上に置く、あいつのてのひらが横にすうっと切れていた。あいつは生きものがあまりすきではない。面倒くさそうにだらりと伸ばした腕を、どうにもならない、と思った。
それでもまだのん気に活けられていた花が、割れた花瓶からばさばさコンクリの床に落ちて、俺はあいつの腕を掴んだ。
たぶん落ちた花を踏んだのは俺で、あいつは何も言わなかった。でも何故か俺たちは怒られなかった。つまりはそういうことだったのだろう。
スニーカーのみぞのあとに、あかい汁みたいなのがコンクリとそこにこぼれた水ににじんでいた。夕日の色をしていて、あいつのてのひらからは血が出ていた。
俺はあいつがこわい。あいつのそういうとこがこわい。
こわがるだけ俺が損だ。こわい物知らずに輪をかけたようなあいつは、俺がこわがる理由を、きっとわからない。
袖をびしょ濡れにしてまでしていたことを、簡単になかったようにしてしまうのだ。あいつは腕を掴ませたままてのひらを見下ろして、血が、と言った。
そのあとに続く言葉を聞く前に、あいつのてのひらを上からおさえた。ばか野郎は困ったような顔をした。痩せた腕とてのひらだった。
だけどいつだってこんな風にして、あいつは全部を受け流す。そうして何も残さない。こわい物知らずに輪をかけた鈍感。
どうにもならない。俺はそれがこわい。
あのとき踏みにじった花を誰が片付けたのか俺は知らない。





僕はそれがこわい
染岡と影野。
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