女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。
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その日の影野は遅くまで部誌を書いていた。
多くの言葉を持たない影野は自分の考えを文字にしてみせるのが苦手で、他の部員が十分程度でさらさらっと書いてしまうそれを、その三倍も四倍も悩みながら書く。
その日もえらく悩みながら、でもなんとか一ページを埋めた。部室のトタン屋根にはごうごうと雨が降り注いでいて、ロッカーの中に常備しているやすいビニル傘を取り出した。
外に出ると雨が想像以上にすさまじくて、でもそれより雨水が滝のように流れ落ちるひさしの下に、肩を並べて座りこんでいた栗松と少林寺の姿に影野は驚いた。声をかけることもできずにいる影野に、あっ先輩おつかれさまですとふたりはのん気に頭を下げる。
鍵をかけながら、何をしているのか問うと、傘を忘れて、しかも強行突破もできないくらい本降りになってしまって困っていると、状況のわりにはのほほんと言う。ぱんと傘を開いて手まねきしてやると、ふたりは驚いたように顔を見合わせて、それでもちょこちょこと傘に入ってきた。ふたりとも影野よりずっと背がひくい。
職員室に寄って鍵を返し、三人連れだって校門を出る。家は。あっちです。ふたりは同じ方向を指差して、そうかと影野はつうとそちらに曲がる。持ちましょうかと栗松が気を利かせるが、どう考えても一番背の高い自分が持つのが合理的だと影野は思い、首を振った。振ってから後悔する。毛先が万一どちらかの目に入っては危ないと、傘を持っていない手で髪をうなじから胸元にまとめて持ってきた。ついでに肩にかけた鞄も背中の方にやってしまう。少林寺が先輩気ぃ遣わなくていいですよと言うので、影野は空いた手で頭を撫でてやった。
影野をはさんで栗松と少林寺はよくしゃべった。部活が終わってひさしの下にしゃがみこんでからもだいぶ時間があっただろうに、それでよくこんなにしゃべることがあるなと影野はなんとなく感心した。盗み聞きのようでなんとなく後ろめたかったので、なるべく話の内容を聞かないように意識していたら、先輩先輩と制服のはしをちいさな手が引く。
俺んちこっちなんで。少林寺が三つ辻の一方を指す。あっじゃあ俺走って帰るでヤンス。先輩は少林寺を送ってほしいでヤンス。栗松がそう言って鞄を頭に乗せようとするので、影野はぽんぽんとその肩をたたき、少林寺の背中と傘を栗松の方に押しやる。
頼む。ええっ先輩濡れちゃいますよ?俺が走って帰りますよ。俺が俺がと口々に言うふたりの頭を順番にそっと軽くおさえてやって、栗松の手に傘を握らせる。影野の手のつめたさに、栗松はびっくりしたように一瞬手をひっこめるが、それでも傘の柄を受け取って、不思議そうに影野を見上げる。
俺逆方向だから。くるりと背中を向けて、大雨の中歩き出す影野の耳に、ひと呼吸おいてええーというふたりの大声が届いた。それと同時に影野は駆け出す。なんとなく愉快な気持ちになってすこしわらった。聞かれなかったからなぁと心の中で言い訳をして、仲良く帰っていればいいとまで思った。
水溜まりをざぶざぶと渡った。空はまるで鉛のようで、ないているようなひどい雨だった。胸の前に回した髪は走るたびにばらばらとほどけて、水分をたくさん吸ってひものようになった。制服はずぶぬれで、靴もめちゃくちゃで、教科書もぬれたろうけれど、でも今日は金曜日だから構わない。
ある金曜
豪雨の話。ただすきな三人をくっつけて出したかったおはなし。
やさしい先輩と、かわいがられる後輩。
多くの言葉を持たない影野は自分の考えを文字にしてみせるのが苦手で、他の部員が十分程度でさらさらっと書いてしまうそれを、その三倍も四倍も悩みながら書く。
その日もえらく悩みながら、でもなんとか一ページを埋めた。部室のトタン屋根にはごうごうと雨が降り注いでいて、ロッカーの中に常備しているやすいビニル傘を取り出した。
外に出ると雨が想像以上にすさまじくて、でもそれより雨水が滝のように流れ落ちるひさしの下に、肩を並べて座りこんでいた栗松と少林寺の姿に影野は驚いた。声をかけることもできずにいる影野に、あっ先輩おつかれさまですとふたりはのん気に頭を下げる。
鍵をかけながら、何をしているのか問うと、傘を忘れて、しかも強行突破もできないくらい本降りになってしまって困っていると、状況のわりにはのほほんと言う。ぱんと傘を開いて手まねきしてやると、ふたりは驚いたように顔を見合わせて、それでもちょこちょこと傘に入ってきた。ふたりとも影野よりずっと背がひくい。
職員室に寄って鍵を返し、三人連れだって校門を出る。家は。あっちです。ふたりは同じ方向を指差して、そうかと影野はつうとそちらに曲がる。持ちましょうかと栗松が気を利かせるが、どう考えても一番背の高い自分が持つのが合理的だと影野は思い、首を振った。振ってから後悔する。毛先が万一どちらかの目に入っては危ないと、傘を持っていない手で髪をうなじから胸元にまとめて持ってきた。ついでに肩にかけた鞄も背中の方にやってしまう。少林寺が先輩気ぃ遣わなくていいですよと言うので、影野は空いた手で頭を撫でてやった。
影野をはさんで栗松と少林寺はよくしゃべった。部活が終わってひさしの下にしゃがみこんでからもだいぶ時間があっただろうに、それでよくこんなにしゃべることがあるなと影野はなんとなく感心した。盗み聞きのようでなんとなく後ろめたかったので、なるべく話の内容を聞かないように意識していたら、先輩先輩と制服のはしをちいさな手が引く。
俺んちこっちなんで。少林寺が三つ辻の一方を指す。あっじゃあ俺走って帰るでヤンス。先輩は少林寺を送ってほしいでヤンス。栗松がそう言って鞄を頭に乗せようとするので、影野はぽんぽんとその肩をたたき、少林寺の背中と傘を栗松の方に押しやる。
頼む。ええっ先輩濡れちゃいますよ?俺が走って帰りますよ。俺が俺がと口々に言うふたりの頭を順番にそっと軽くおさえてやって、栗松の手に傘を握らせる。影野の手のつめたさに、栗松はびっくりしたように一瞬手をひっこめるが、それでも傘の柄を受け取って、不思議そうに影野を見上げる。
俺逆方向だから。くるりと背中を向けて、大雨の中歩き出す影野の耳に、ひと呼吸おいてええーというふたりの大声が届いた。それと同時に影野は駆け出す。なんとなく愉快な気持ちになってすこしわらった。聞かれなかったからなぁと心の中で言い訳をして、仲良く帰っていればいいとまで思った。
水溜まりをざぶざぶと渡った。空はまるで鉛のようで、ないているようなひどい雨だった。胸の前に回した髪は走るたびにばらばらとほどけて、水分をたくさん吸ってひものようになった。制服はずぶぬれで、靴もめちゃくちゃで、教科書もぬれたろうけれど、でも今日は金曜日だから構わない。
ある金曜
豪雨の話。ただすきな三人をくっつけて出したかったおはなし。
やさしい先輩と、かわいがられる後輩。
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