ヒヨル ベイビースーパーノヴァ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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病院の廊下は広くてしろく、とても冷たい。
スプリングのいかれた革張りのベンチに座り、夏未はうつむいている。
父が病院に緊急搬送されてから、もう三日は経つ。
チームメイトはみんな、あの日夏未が父の傍にいることを許してくれた。
のみならず、全国大会初戦突破という、この上ない励ましをくれた。
夏未はしろい額に手をやる。しかし父はまだ目覚めない。
病室にばかりこもっていても気が滅入るばかりだと、執事の強い勧めもあり、夏未は日に数度、病室を出て外の空気を吸うことにしている。
学校も三日休んでいる。このままだと運営にも影響が出てくるだろう。しかし夏未は病院から動けない。
とっくに離れられなくなってしまった。この広くてしろくて冷たい場所から。
「夏未さん」
聞き覚えのある甲高い声に、夏未は顔を上げた。制服を身に着けた目金が、驚いたように夏未を見ている。
「あら…珍しいこともあるものね」
こんなところで何をしていらっしゃるのと問うと、練習中にケガをしたんですよと目金はくちびるの端をかすかつり上げて、左手の薬と包帯を持ち上げて見せた。
「まぁ。あなたまだ練習に参加していたの?」
「チームのモチベーションを下げることは悪かろうという、不本意ながらのことですよ」
中指でメガネを押し上げながら、やや自嘲気味に、しかしきっぱりと目金は言った。近づいてくるその右足を、ひょこひょことわずかに引きずっているのが痛々しい。
「疲れていますね」
「あなたもね」
「僕はいいんです」
ベンチに座る夏未の脇に立って、目金は腕組みをした。僕はサッカーなんてできなくてもいいんです。
今やプレイヤーと同じくらいサッカー部に入れ込んでいる夏未にとって、今の目金の発言に思うところもあっただろうが、目金の予想に反して、夏未は何も言わなかった。
「ここは病院ですよ。あなたもかかればいかがです」
疲労にほのじろい夏未の顔に、目金はなにがしか感じるものがあったのだろう。言い放つ言葉こそ平常と変わらないが、その口調はずいぶんとやわらかい。
「ふたつも心配事を抱えて頑張れるほど、円堂は器用じゃありませんよ」
夏未は顔を上げない。目金の言葉すら、聞こえていないのかもしれない。
夏未の心配事だってひとつやふたつではなかったのだと目金は思う。父の容態、サッカー部の試合の結果、学校の運営や経営。たくさんのものをその細い肩に背負って、夏未はひとり戦っている。
できることなんてなにもない。そんなことは知っていた。ちゃんと解っていた。
うつむいたままのつややかな赤毛の頭に、目金はそろりと手を伸ばし、そこにぽんと置いた。
驚いたように夏未は顔を上げる。戸惑うようにその瞳がさまよう。しかし夏未より、もっと驚いていたのは目金だった。自然に出てしまった手に、自分がしたとは思えないその行動に、顔には出さずに戸惑っていた。
「触らないで下さる?」
その言葉にも、手は引けなかった。
「あなたにこんなことをされても、私は嬉しくもなんともないわ」
「わかってます」
目金は静かに言った。その言葉に夏未はゆるゆると顔を伏せる。
「でも」
「それなら何故?」
「僕じゃなくても」
指の先がちりちりとあつくなる。つややかなその髪の毛に、目金は動揺してため息をついた。
そっとその手を動かした。こんなことをしたことはなかったので、加減はわからなかった。
夏未の頭を目金のしろい手が撫でる。そろそろと、ゆっくりと。
「僕じゃなくても、こうしたと思いますけどね」
夏未の華奢な手が、ひざの上でぎゅうと握られた。
そこにぽとぽとと雫が落ちてはじけた。目金は視線をそっとそらす。それは見られたくないものだろうと思った。
そしてそんなものは見たくなかった。少なくとも自分が見ていいものではなかった。
「こんな場所で泣かないでください」
だからこんな言葉をかけることしかできない。
「理事長が目を覚まされたら驚くでしょう?」
タックルされて転んだひざは痛かった。痛み損だと思った。サッカーなんて自分はできなくてもいいと思っていた。
だけど自分がチームにいることが、どこかで何かに影響を与えていて、そうしてそれが回りまわって今ここにあるのなら、それもかまわないと思った。
その影響が回って回って、誰にもなんにも作用しなくなったときが来たら、そのときにサッカーはやめればいいと思った。
少なくとも今ここで夏未の頭を撫でてやることは、今ここにいる自分にしかできないことだ。
それができたのだから、構わなかった。もう。
「あなた、明日も来た方がよろしくてよ」
夏未は言った。顔を上げて。頬にはかすかに赤みが差していた。
「ケガを放っておくなんて、私が許しません」
そうして目金を見る。それは強いまなざしだった。強い強い、やさしい目だった。
とっくにここから離れられなくなっていた、それでもよかった。来てくれる人がいるのだから。夏未はわらう。戸惑うような目金の手が、とてもやさしかったから。
「マネージャーの言うことは、絶対ですわ」




ベイビースーパーノヴァ
目金→夏未っぽい目金←夏未。
高飛車コンビすきです。というか目金すきです。ゲームでは糞だけど、君がすきです。
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