ヒヨル 遭難 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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痩せたな、と言おうか言うまいか迷って、結局そうやって声をかけることにした。宍戸は首をひねってあーよく言われますわーと答える。くしゃくしゃの赤毛を掻きながら。円堂は宍戸の隣に座った。妙に目立つようになった頬骨に散らされたそばかすに触れると、宍戸はあからさまに嫌そうに首をよじってそれをかわす。夏だな、と思った。焼けてちりついた皮膚の感触がやけに鮮やかに指先に残る。やっぱ心配なのか。円堂はひたひたに汗をかいたペットボトルのキャップを回す。炭酸のもれるまのぬけた音を聞くと、余計に夏だなと思えた。日本の夏は暴力的だ、とも思う。やけに執拗に絡み付く。あーーまあーそんな感じっす。間延びした鼻声の宍戸の声は、円堂の気に障らない数少ないもののひとつだった。ことさらだらしないしゃべり方で結論を引き延ばそうとする。そういう姑息なところが腹が立つが、もちろんそれは宍戸の意図するところなので円堂は怒らない。宍戸はあまり自分の側に他人を近づけたがらない。
日本には二軍の召集と調整のために戻っている。戦線離脱中の吹雪の怪我も癒えるころだ。円堂はもちろん二軍メンバーに雷門中サッカー部の面々を強く推したが、それは無理だと暫定キャプテンの半田がすぐさま却下した。サッカー部には既に練習試合の申し込みが引きも切らず、秋の頭には新人戦も控えている。抜けたメンバーの代理のつもりだと言う玉野と闇野、それから目金弟が思った以上にいい働きをしているらしい。さらにマネージャーに大谷、監督として瞳子が着任しており、敗け知らずの雷門中はライオコット島に旅立つ余裕などないという。いやぁ大谷がかわいくてとやにさがる半田にはとりあえず股間に蹴りを入れておいた。おまえだけでも来いよと少林寺に声をかけると、ものすごく面倒くさい顔で睨まれ、模試も近いんで、と妙に現実的なことを言われて腹が立った。宍戸は、と聞くと、元気ですよ、と少林寺は答える。相変わらず感情が読めない。最近はよくひとりでいる、と、半田は言っていた。寂しいんだろ、とも。
宍戸は栗松さえいればあとはなにもいらない、みたいな安っぽいJ-POP(笑)みたいなところがあるので、そこだけは円堂は許容しかねている。栗松が日本代表に選ばれたのは、宍戸にとっても栗松にとってもまさに青天の霹靂だったことは想像に難くない。しかし結局はするべきでない人事だった。青天の霹靂。ライオコット島に行ってからの栗松の戦績が振るわないことは、それとなく部員には伝えてある。恐らくなにかしらのきっかけがあれば。円堂にとってはそこから先を考えるのが何より怖いので、あまり考えないようにはしてある。栗松自身が、見た目には、平然としているのが救いだった。驚くほど脆いものを持っているくせに、崩れ始めるまでは誰もそれと気づかない。傷つき方まで思慮深い栗松のそういう柔さと深さが、見た目とは裏腹に傷つきやすくナイーブな宍戸をいろんな面で救っていたようだった。そしてそれが宍戸の拭いがたい弱さでもあった。栗松は、少なくとも宍戸には、FFIのことをなにも言っていないに違いない。
円堂は宍戸のことをよく蹴った。殴ったりもした。褒めても貶しても伸びない凡庸な選手だった。サッカーにだけ打ち込む、そんなことはできそうもしようともしないような。ただ、栗松に声をかけられたときだけは、宍戸は心底嬉しそうな、幸福そうな顔をする。サッカーでしか繋がっていられないみたいに。だからそれにかじりついているのだと、悲しいほどに明らかだった。悲しいほどに。ここ、すきなのか。円堂はベンチを撫でる。鉄塔広場の奥の、池はどろりと濁って蚊柱を産んでいる。宍戸はなにも言わなかった。ひどく蒸し暑く息苦しい。それでも宍戸はよくここにいると聞く。心配なのか。円堂の言葉に宍戸はくたびれたように首を回し、でもあいつは強いから、と答える。そうか。今さら胸の奥を掻きむしる罪悪感にも似たそれを、例えば栗松はどうやってやり過ごしているのだろうと思った。おまえは、強くないのか。円堂の言葉に宍戸は横顔だけで唇を裂くように笑う。どの口がそんなこと言うんすか。
かつて円堂が宍戸を罵ったどんな言葉にも、宍戸は顔色ひとつ変えなかった。しかし、だからおまえは弱いんだと、そう投げつけた言葉のあとには宍戸は長い間部室で頭を抱えるようにしていた。泣いていたのだと確信している。涙も嗚咽もなくてもひとは泣くことができる。びしょびしょに、ずぶ濡れに、悲しいほどに。宍戸のことを想うと、無慈悲な言葉ばかりが溢れて止まらない。心配なのは。円堂はまばたきをする。耳の奥が静かに唸る。宍戸の脚に手のひらを置いた。宍戸が驚いたように円堂を見る。円堂は身を乗り出す。宍戸はからだを引く。その背中がベンチに触れた。強いことでも、弱いことでもない。心配なのは。そうやって目を閉じることだ。弱いふりをして、栗松の他にはなにもいらないみたいなふりをして。そうやって宍戸はいつも円堂を蔑む。心配なのは、それでも諦められない自分だった。
遂に毀して、着地点。











遭難
円堂と宍戸。
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