ヒヨル 脱走 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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千葉葛飾に大雨警報、河川氾濫、土砂災害の恐れ有り。あっつう、と無地のシャツの胸元をばさばさと振って風を送る、沖縄は目が痛いほどの快晴だった。リカは目を細め、うなじをかき上げて汗に光るそこをタオルで拭った。日本て広いな。ふとこぼした独り言に、傍らのベンチにうつ伏せに寝ころがる土門と、その腰の上につくねんと横向きに腰かけている栗松が、まばたきをしながらリカを不思議そうに眺める。なんしてんの。や別に。土門はニヘッと笑って、芯までからからに乾いているに違いない生木のベンチにべたりと頬を押し当てる。ていうかさっきまで背筋してたの見てなかった?うちダーリン以外の男はジャガイモに見えんねん。あそう。おれらジャガイモだってよーと土門は上半身をひねって栗松に言う。リカさんひどいでやんす。あんたらはどっちか言うたらゴボウと栗って感じやけどな。別に食い物に例える遊びとかじゃないから。一緒に炊いたらおいしいんちゃうか。食う気かよ。土門とリカの淡々としたやり取りに栗松がけたけたと笑う。
そんでうちもそこに座ってええねんな。おーい、リカに座られたらおれ喜んじゃう。変態か。リカの言葉に栗松が慌てて立とうとするが、あーかまんかまんと軽く手を振って止める。重くないでやんすか?んー栗ちゃん程度大したことないよん。へらへらと笑う土門に、リカは生え際を指先で軽く拭う。土門は見た目とは裏腹に優しくて面倒見がいい。かつて、リカたちが仲間に加わる前の雷門中で、土門がしたことをひどく遠回しに聞いていないでもない。罪悪感がさせることならばそれはあまりに自然にすぎたし、罪滅ぼしならばもう終わったことだと円堂自身が断じた。要するに土門は雷門中サッカー部が好きなのだ、と思った。生え抜きDFである栗松と壁山はは、くせ者揃いの二年生を丸きり反面教師にしたみたいに素直で優しく、一緒にいて感じるものも多い。キャラバンに参加して日の浅いリカでさえそう思うのだから、土門が彼らをかわいがるのも無理はない、と思った。壁山は砂浜で木暮と綱海となにやら騒いでいる。少し離れた日陰で、影野がそれを眺めていた。
土門がじっとリカを見て、ダーリンはいいのか?と何気ない口調で問いかける。押してダメなら引いちゃれってねー。なもんで今は引きに引いてんねん。極端だなぁ。一之瀬はMF陣を集めてグラウンドに車座になり、なにやら難しげな話をしていた。さすがのリカも割っては入りづらい空気だったので、ベンチで水まきをしていた木野を冷やかして早々に退散したのだった。照り返しを喰らって目を焼かないように各々タオルを頭からかぶったり顔に巻いたりしていて、それが異国の商人のキャラバンみたいに見えた。ミーティングをしていた旨を告げるとあいつら真面目だからねぇ、と土門は他人事のようにそう言った。半身をねじっておれらもミーティングやる?と栗松に問いかける。えーと、土門さんがやるなら、みんな呼んでくるでやんす。んーじゃあいっかー。話し合うこととかないしね。ないんかい。そう言うFWはなんかないのかよ。ないなぁ。て言うかうちら仲よくないからまず集まるとこからして大変っちゅう。豪炎寺が泣いちゃうなぁと土門がおかしそうに言う。
よっし、と土門が気合いを入れると、栗松がその腰からぴょんと飛び下りる。アイスでも食う?おっえーなー、負けへんで。おーし言ったな、じゃ栗ちゃんコンビニ行こうぜ、と土門が言ったか言わないかのうちに、栗松はぱっと後ろを振り向いた。いつの間にミーティングを終えたのか、少し離れた場所から宍戸がしきりに手招きをしていた。あ、すみません。んーいいよー、いっといで。栗松は恐縮したように軽く頭を下げ、宍戸の方に駆けていく。甘えんぼやねぇあの子。さっちゃんはね、ま、しょうがないってか。ふうんとリカはなにやら話しながら遠ざかっていくふたりの後ろ姿を眺めた。ミーティング終わったみたいだけど。同じようにふたりを見ながら土門が言う。行かないの。リカは短い沈黙を挟み、行くよ、と答えた。そう。土門の横顔は鋭い、とリカは思う。なんだかいろんなものをこらえているみたいに見えて怯んだ。受け取れないリカではなかった。そんなにありありと訴えられては。
あんたも甘えん坊やねぇ、と、言おうとしてリカは口をつぐんだ。それより早く、土門の華奢な腕がリカを引き寄せて抱き締めたからだった。日本は広いな、と、考えたのはそんなことだった。だらしなくも情けなくも。あのとき宍戸に呼ばれた栗松は、土門の上につくねんと腰かけていた栗松は、どうしてあんなに怯えたような顔をしたのだろう。リカはまばたきをする。怯ませるのはいつでも、温度の高すぎる愛だった。まるで豪雨の中に取り残されたように。そこに閉じ込められて息もできないように。遠くで降る雨はひたすら孤独を孤独を際立たせる。唇の冷たさなどでは、今さら。









脱走
土門とリカと栗松
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