ヒヨル カーネル・カーウェイ’ライク・ア・ピイスオブショウトケイク 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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貼り直されたばかりのアスファルトが靴の底ににちりと粘りつくのは夏だと思う。ニューバランスは降り続く雨と無慈悲な酷使に紐をひどく毛羽立たせていたが、足の形になじんだそれをなかなか買い換える気にならないのもまた事実だった。例え松野にきたねえくせえと腹の立つ嘲笑で揶揄されても。恥ずかしいから誰にも言わないだけで、染岡は自分を誰より神経質だと思っている。慣れないものは苦手だった。新品の靴を履くと、いつもむこう数日は肩が凝り、その上ひどく脚が痛む。恥ずかしいから言わないだけで、染岡の土踏まずが砂丘のように緩やかな大きな足にこの靴をなじませるのには随分時間がかかった。今ではあまりにもなじみすぎて、路上に撒き散らされたありとあらゆる不愉快を染岡の足にダイレクトに伝えてくる。粘りつくアスファルトはまぎれもなくそのうちのひとつで、妙に湿っぽくいながら熱を持っているような、その感触は夏に似ていた。不愉快が散らばっているという点で言うなら大差はない。
疲れた肩に泥汚れのスポーツバッグを提げて、染岡はのろのろと通学路を歩いていた。つい先ほど影野と別れ(、夏だというのに暑苦しい髪型をしている上に本人だけが平然としている)、反射材の剥がれかけたパイロンのいくつか取り残された通学路に染岡はひとりだった。背中を夕陽が容赦なくあぶる。昨日まではばかみたいに雨が降っていたのに、今日はばかみたいによく晴れた。頬骨とうなじが焼けてちりついている。孤独と困憊。アスファルトをにちにちと踏む靴の感触が奇妙に滑稽で苛立つ。長い影が挑発するみたいに伸びていた。夏は苦手だった。わけもなく腹が立つ。からだを押し包むすべての変化が、神経質な染岡にはひどく気に障る。恥ずかしいから誰にも言わなかったし、恐らく今後も口に出すことはないだろうが。やがてこの道は反射熱だけで息苦してたまらなくなる。ニューバランスとアスファルトが、今度こそ融け合ってしまいそうな。虚しい目玉焼きだと思う。夏の染岡はいつもなすすべなく焼かれて焦げていく。
長く伸びた影の先端を、よく見知った色のジャージ姿が横切っていった。染岡はまばたきをする。おい、目金。目金は機敏に振り向いて、眉根を寄せた。染岡くん?顔のまん中で彼のトレードマークが夕陽に光っている。なにやってんだ、家逆だろ。いえいえロードワークです。小走りに近づいてくる目金の手にはデジカメが握られていた。それ使ってか?染岡の言葉にに目金はまにまと笑う。仕方ないですねぇ染岡くんには教えてあげましょう。なにも言わなくても勝手に喋り出すのは目金のいいところだ、と染岡は思っている。手間がはぶけるのはいいことだ。目金は国土交通省主体の土地区画整備事業がどうの無電柱化がどうのと、なぜか誇らしげに息つく間もなく並べ立てている。電柱と地下管路を繋ぐケーブルが、ちょうど地面に潜る場所を探しているらしい。それは面白いのか?形だけでもとおざなりに訊いてやると目金は目を輝かせた。もちろんです!鼻息が荒い。
染岡くんも一緒にどうです?目金はデジカメをちゃっと構える。この辺一帯電柱がなくなっちゃったみたいですし、ちょーっと大変かもしれませんけど。おれはいいよ。うんざりした気持ちで染岡は投げやりに答えた。目金は気分を害した様子もない。染岡くんは部活で疲れてるでしょうしね。嫌味かなにかかと思ったが、そういうわけではないらしい。目金さーん。呼びかけに顔を上げると、ふたつ向こうの三叉路の右端で栗松が手を振っていた。が、染岡を見つけて手を下ろし、ちょっとあたまを下げる。ありましたか!目金の声に栗松は道の奥を指さす。ではぼくは行かねばなりません。染岡くん、また明日。言うなり目金はやけに精悍に笑うと、きびすを返して駆け出した。あかく焼けた目金のほほがつややかな果物のように輝いていた。網膜に妙にこびりつく、いかにも鮮やかな鮮烈な、そのあかさがいやに気に障った。目金の後ろ姿が小さくなる。栗松は所在なげに突っ立っていた。夕陽にあぶられて、疲れたような顔をして。
目金はグラウンドを駆け回る栗松をどんな風に見ているのだろうと思った。目金にはなにもないのかと思った。嫉妬や羨望や憤怒や諦めや、染岡のからだを中から焼いて焦がして苛むものものを。まるきりなにも持っていないなら。染岡はてのひらで光を遮るようにする。もしくは、そんなふりができるなら、本当はそれが一番強いのだろうと。目金の目の前に脳に心に魂に広がる世界を、しかし染岡は羨ましいとも思わない。美しいとも、輝かしいとも。ただその世界の強靭さに、息を飲んでくずおれるばかりだろうと思う。虚しい目玉焼きの自分などは。目金が差し出したデジカメの画像を、染岡は怖くて見られなかった。恥ずかしいから誰にも言わないだけであった。染岡の世界には想像以上に敵が多い。
目金の気配は夏に似ていた。











カーウェイ大佐はひときれのケーキのような
染岡と目金。
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