ヒヨル 仇花は夕焼 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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夏未が買い食いをしたことがないなどと冗談みたいなことを言うので、ふたりで先に学校を出た木野を探している。三人でドーナツでもたべようと思ってあるき出した矢先、夏未が車を出そうかと提案してくれたが、音無はそれを断った。ああいう高級なかしこまった車は苦手なのだ。なんだか手足がかゆくなる。庶民派の音無は、いいもの、というのが苦手で、いいものの上で澄ましかえった夏未も最初は苦手だったが、最近はおもしろいひとだと思うようになって、自分から話しかけたり遊びに誘ったりするようになった。夏未もまんざらではないらしく、木野がいれば、という条件つきなら、だいたいのことにつきあってくれる。夏未は木野のことがとてもすきだ。木野さんと音無さんとカイグイするなんておもしろいわ、と楽しそうにあるいていた夏未が不意に足を止めたのは、汚いどぶ川にかかる橋の側だった。木野が三人の少女に囲まれていて、少女たちはひどく怒っている。うちひとりは木野に詰め寄り、があがあと怒鳴っていた。音無はあわてて夏未を路地の陰に引っぱる。
木野はなにも言わずに彼女の言葉を聞いていた。彼女はひどく激昂した様子でわめき、かと思うと泣き出して、泣き出しついでに木野の髪の毛をわしづかみにして引っぱった。ピンが地面に転がる。わきにいた別の少女が木野のブラウスの二の腕を引き、その反対側にいた少女が木野から鞄をむしり取った。木野は抵抗もせずなされるがままにされ、死ねくそ女、という怒号とともに鞄が川に投げこまれるのを、奇妙にやすらかな穏やかな顔で見ていた。最後に彼女は音たかく木野の顔を打ち(、それは、殴る、といったほうが近かったかもしれない。ひどい勢いの一撃だった)、まるで自分が被害者であるかのように左右の友人にすがりついて、そのまま去っていった。友人たちは冷ややかな目で木野をにらんで、もう「泥棒」しちゃだめだよ、と言い捨て、振り向きもせずに行ってしまう。夏未がぎゅっとつかんでくる腕がいたかった。その横顔が怒りに蒼白になっている。
木野は膝を折ってピンを拾い、平気な顔をして前髪につけた。引かれてよじれたブラウスのぼたんやりぼんをきちんと直し、スカートを払って、川へ降りる階段を封じた錆びた金網を乗りこえる。そのまま木野の背中が階段の下へ消えるのを見送って、音無は夏未の横顔をちらりと見た。なんなの。夏未はかすれた声でつぶやき、しかし音無には心当たりがあったので、なにも答えられなかった。木野の素行のことだとわかった。泣いていたあのひと。確か、テニス部のキャプテンとつきあっていた。テニス部のキャプテンは、木野のことがとてもすきだった。きっと、そういうことがあったんだろう。そしてあのひとは、ううん、テニス部のキャプテンも、捨てられた?そこまで考えたときに腕を引かれ、音無の思考は中断する。夏未は音無を引っぱって大股であるき、金網を勇ましく乗りこえてごみだらけの川辺へ降りた。ヘドロと汚水でできているような汚い川。木野はそこへからだを沈め、投げられた鞄を探していた。
よしなさい。夏未はつよい語調で言い、木野をにらみつけた。あなたがそんなことする必要なんてないわ。声のつよさとは裏腹に、その目があかくうるみはじめている。上がりなさい。早く。木野は立ち上がり、泥が二の腕までこびりついたおそろしく汚い手で、臆することなく落ちかかった前髪をかき分けた。額から泥水がひとすじ、木野のしろい顔を縦に裂くように流れ落ちる。異臭はふたりの元にまで届いた。もうやめて。お願い。木野はからだのほとんどを汚水に沈めて、それでもなお探し物をやめない。ごみの引っかかった鞄、中身がほとんどなくなったペンケース、かわいいポーチや手帳もみな、無惨な姿で拾い上げられた。水を吸ってがぶがぶになった教科書とノートを引き上げ、中をめくって木野はちょっとため息をつく。文字、流れちゃった。そう言ってほほえむ木野の横顔は、ぞっとするほどにうつくしかった。夏未は呆然と立ち尽くしている。今にも泣き出しそうな顔をして、拳をふるわせながら。
やがて木野は水から上がってきて、言葉を飲みこむふたりを見て、なぜかはにかむようにほほえんだ。ごめんなさい。そうしてそんなことを言う。あの子たちはわるくないの。夏未は思ってもみないことを言われたように、おおきな目を見開いた。どうして。木野の華奢な足は泥だらけで、スカートもブラウスも、おそらく二度と着られないくらいに汚れていた。異臭の汚水にまみれ泥に汚れ、それでも、木野はほほえんでいる。夕陽にななめに照らされて、木野は、聖女のようにきよらにうつくしかった。音無は夏未を押しのけるようにして一歩前に出ると、ぐしゃぐしゃの木野の首に腕を回して、そのからだを抱きしめた。春奈ちゃん?木野が驚いたように言う。汚いよ。音無は首を振った。鼻の奥がつうんと痛む。音無のからだを突き動かしたものは、瞬間的にあたまを突き抜けた衝動だった。なぜだかわからないけど、こうしなければならないような気がした。こうしなければ、夏未は。そして、木野は。
(これはなに?)
(わたし、どうしてこんなにかなしいの)
その夜、生まれてはじめて流れ星を見た。思っていたほどすばらしくもうつくしくもなかった。それなのに涙が止まらなかった。あのとき泣かなかったのは、あのひとだけだった。誰の願いが叶っても、あのひとの願いだけは叶わない。誰もがとっくに気づいてしまっていた。それなのにあのひとはわらっている。きっと今も。









仇花は夕焼
マネージャー三人。
リクエストありがとうございました!女子のリクエストいただくとテンション上がります。お察しの通り木野さんがすきです。
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無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

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