ヒヨル きみアポトーシス 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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手をつないであるいているふたりを見ていた。学ランの少年と、ブラウスにプリーツスカートを揺らしている少女。つないだ手を隠すくらいに肩と肩を寄せて、ときどき顔を近づけてはなにかしらの言葉を交わす。寄り添うふたりのずうっと後ろからなにげないふうにその光景を見ながら、土門はひとりであるいている。ときどき街中で見かける、ぎたぎたと絡まりあうようにあるいている脳たりん丸出しの汚ならしい金髪カップルなんかより、そのふたりはずっと清潔で真っ当で、きれいだった。だからこそそのふたりを遠くから見ることによって、のどの奥にひたひたと満ちてくる苦いものがまぎれもない嫉妬であることに土門は安心し、それを恥じる。学ランの少年の髪の毛は背中を隠すほどながく、少女は小柄で華奢だった。割られていない割りばしみたいな、ひっそりと清貧なふたつの背中。むかしゴチックの教会で見た大理石の像を思い出した。満ち足りたものものはおのずと似てくるようだ。
夏になるにつれて露出したひふはあかくちりつき、きっかりユニフォームのかたちに焼けた部員たちは、揃いも揃ってまっしろな背中につややかな褐色の腕や脚を備えるようになる。ユニフォームのすそを広げて風を通していた影野は、土門の視線に気づいてはにかむようにわらった。多分に漏れず焼けた手でしろい腹をそっと撫で、なんか筋肉ついてきた、とひとりごとのように影野は言う。あんだけ動いてりゃ嫌でもごつくなるよな。嫌じゃないよ。土門の軽口に影野は妙にまじめな口調で応えた。筋肉つくと嬉しい。へえ。つよくなったような気がする。饒舌だなと思った。影野の焼けた首に汗が伝って髪の毛がはりついている。なんで。え?じんちゃんつよくなりたいの、なんで。影野は首をかしげ、じっと考えこむようにして、結局はわからないと言った。嘘だなと思う。影野にはちゃんと理由がある。木野はホースでベンチの周りに打ち水をしていた。季節にそぐわない、抜けるほどしろい指をして。
木野は無欲なくせにとても貪欲で、かたちあるものばかりに手を伸ばし、かたちに残らないものはなにひとつ欲しがらない少女だった。音楽は聴かないし、テレビも観ない。ひとをほんとうに愛することもできないし、そのくせにその行為の奥にあるほんの一瞬だけはるかなん万光年も向こうの星みたく輝くものを追い求めては、相手を取り替え次々と寝る。そんなことで得られるもののむなしさを木野はもう充分に知っているはずで、それなのに木野はその輝くものに手を伸ばすことをやめられないみたいだった。木野はいつもなにかをこらえるみたいな凛と澄んでこわばった顔をしている。前を見てくちびるを結んで、それでなければ、なにも、いらない、と。影野とは寝たのだろうか。土門は考える。影野との行為の奥には、木野がずっとずっと探して探してだけど見つからなくて見つからなくても諦められないほどうつくしいものは、輝くものは、あるのだろうか。
あるのなら見せてほしいと思った。たとえ土門のあたまや胸や腕や記憶の中で、やがて失われる興味にともない錆びつくにまかせたとしても。木野が彼女のしろい手で切り開いて見つけ出したものなら、土門はなんだって見てみたかった。影野が彼の能動によって起こしたもののどんなにか醜い成れの果てなら、土門はそれだってよかった。そんなものだってよかった。見せて。土門はくちびるを開く。見せて。影野はぽかんと土門を見て、ユニフォームのすそをつかんだ手を見下ろした。あるのなら見せてほしかった。そんな強さで、奪っていってくれるなら。土門は影野の腹を蹴りつける。おもたい手応えとのどの奥で詰まった影野の呻き声。髪の毛を引いて影野はよろけ、どさりとグラウンドに倒れる。そのとたん背骨を押しこまれるように土門も前のめりに倒れる。松野がドロップキックで襲いかかってきた。土門の胸ぐらをつかんでぎゃあぎゃあわめく松野の声を聞き流しながら、土門は影野を探した。影野の向こうの木野を探した。
影野は壁山にかばわれて立ち上がり、木野は遠くを見ていた。影野は傷ついたような顔をして土門を見て、そして木野を振り返る。木野はそのときようやくこちらを見て、せつないようにほほえんだ。後悔が土門を打ったのはこの瞬間だった。音もなく舞い降りたものによって、輝くものがあのふたりの間でこなごなに砕け散るのを見た。土門はおののき、つめたくこわばる指先を震わせる。もう戻らない。もうなにも戻ってこない。木野は土門を見ていた。土門を見てほほえんだ。あき。土門はかすれた声で呼ぶ。彼のいとおしいひとを呼ぶ。木野は影野にあゆみ寄り、いたわるように焼けた腕に触れた。(あのときふたりは分かれ道で名残惜しいようにそっと手を離して、しばらくじっとお互いのことを眺め、それからどちらからともなく手を振って別れた。土門はあたまを煮やす感情に駆られて足を速め、華奢な背中だけを追いかけ追いつき、後ろから木野の腕をつかんで、)
なにもわるくはなかった。だからなにも、さびしくなんてなかった。なにひとつ間違ってなんていなくて、むしろそうでいなければならなかった。土門はなにも思わなくていい。どんな言葉も、必要ない。だけどいとおしかった。それさえも、間違ってはいなかったのだ。だけど(彼女が)いとおしかった。なのに(彼でないと)どうしようもなかった。かなしかった。どうしようもないほど。あのときの影野のひふはぞっとするほどしろかった。それだけで絶頂するほどに。そんなことは土門を傷つけることしかしなくて、思うさま傷つけられた土門はのたうつことさえできなかったけれど。土門は部屋のまん中に寝ころんで、いろんなことを考えた。三百回もそんなことをしているうちに、だんだんと外はあかるくなって、カーテンのすき間から漏れる光が、まるで水槽のように部屋と指先を孤独にあおく染めていくのを、眠くなるまでじっと眺めていた。









きみアポトーシス
土門と影野と木野。
元ネタはツイッターでの某さんの発言。かけ離れた。
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