ヒヨル 太陽、西へ西へ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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じゃあこっちから来たらどうする、と、聞こえたので足を止めた。ゴール前でむくむくとしゃがんだ背中がふたつ。狩谷と西園が地面を覗いて顔を突き合わせている。狩谷の手にはどこで拾ったやら細い木の枝が握られていて、しきりに地面を引っ掻いていた。それと悟られないように距離を保ち、いかにも何でもないように装いながら耳だけはしっかりと傾ける。うーん、と唸り、西園はわずかからだを動かした。こっちから、こう。こう、のときに手振りが入る。そんじゃあこう、こう来られてさ。狩谷ががりがりと地面を掻く。あーそっかー。西園の肩が落胆する。どうやらゴールの守り方を話し合っているらしい。小柄でリーチも短い西園が、広いゴールを守るにはかなりの練習が必要になると踏んでいた。短期間で化身を使えるほどに目覚ましい成長をした西園だが、それでもボールが来たときに反射的に取る動作は走ることだ。狩谷に指摘されるまで両手を使ってもよいことに気づかないほど、西園は一途でひたむきで、だからこそキーパーに向いている。
円堂監督は多くを語らないが、同じキーパーのよしみだと中学時代の話をしてくれたことが一度だけある。おれらのいっこ下のキーパーも信助みたいなちびだった、という話で、あれもすんげー努力家だったよ、と、さして懐かしむ様子もなく言った監督の顔を、西園はつぶらな目でじっと見ていた。そのひとは化身は使えましたか?ようようひねり出したその質問に少し考え込んだ監督は、ありゃ化身なのか?と結局隣にいた音無先生に振った。たまごろうくんですか?マジン・ザ・ハンドにはほんとに助けられましたよ、と快活に言った先生は、タイタニアスがあの技を使えるならあれも化身だったのかしら?と首をかしげた。まぁおれらの頃は化身って言葉自体がなかったからなとやけに強引に話を切り上げた監督が、先生と懐かしげに誰それの話をするのを西園はじっと眺めていた。化身なんて言葉は今だって都市伝説だ。化身使いのチームメイトができた今も。望んで手に入れられるものでないなら、それはないものと同じだ、と思う。
キーパーの強みは、諦めないことでも、がむしゃらなことでもない。それらは資質と呼ばれる。あるいは、才能なんて便利な言葉で。本当に強いキーパーの条件は、いつでも涼やかに笑っていられることだ。ゴールを割られ、チームメイトの不安な視線を受けて、なお、前を向いて笑えるものの天職だ、と。昔教わったことを今でも信じていて、誰に語ったこともなかったが、一度だけ何気なく円堂監督にそう言ったことがある。いっこ下のキーパーの話、の、お礼のつもりで。監督はしばらく考え込んだあと、独り言のように言った。たまごろうはな、キーパーが孤独ってことをよく知ってたよ。だから強かった。本当に、あいつは強かった。どういうことかと訊ねたら、おれもよくわからないと肩をすくめる。おれも才能の方にいたから。おまえには悪いけど。ああ、と思う。おれの下に立向居っつうのもいたけど、あれの言葉がわかったんなら西園もそっちだろうよ。言われる前に理解したので頷いた。才能なんて便利な言葉で、あっさり分けられた自覚だってあった。
持たないものを持たないと足掻くことを孤独と呼ぶなら、果たしてそのまま埋もれゆく自分はなにになるのだろう。輝く原石のような西園を見たときの、この上ない安堵と喜びは、それとは違うのだろうか、と思う。持たないならば、持たないまま戦うしかないではないか。持たないままで、割られたゴールを背に、安心しろと笑う自分が、どれほど滑稽に見えても。それを乗り越えて、その上で、越えられない壁に潰れることを孤独と呼ぶなら。それでも構わないと思った。悔しさは、些細なことだ。天城だって言った。現実だから戦うのだと。だから、自分は見送る側でいい。自分が越えられなかった壁を、西園が綺羅やかに越えてゆくのを。黙って見送れたら構わない。涙なんてものがあるなら、それは、そのあとのものだ。おまえはたまごろうに似てるな。監督は不意に言葉を和らげた。あいつの近くにいるとな、雨も風も雪も、なんにも近づかないみたいだったよ。その言葉には、笑っていいのかどうかはわからなかったが。
とりあえずやってみようと狩谷が尻をはたいて立ち上がる。そばのボールをつま先で蹴上げ、片手に抱えて走っていった。西園も同じように立ち上がってゴールに向かい、そのときに初めてこちらに気づいてぱっと明るい顔になる。三国さん!にこりと笑って西園に軽く片手を振り、ラインの外に出た。西園はこちらに向けて大きく両手を振り(、つられたのか狩谷も手を振った)、グラウンドに向かって身構える。西園にはわからないかもしれない、と思った。才能なんて便利な言葉で、こんなにも簡単に人は傷つくのだと。同時に、自分にもわからないに違いない、と思う。才能なんて便利な言葉で、こんなにも簡単に人は期待を寄せてしまう。狩谷のボールは速くて正確だ。蹴転がされてばかりの西園だったが、ふとからだを翻し、力強く地面を蹴った。彼が、跳べ、と思ったのと全く同時に。ボールを弾き返した西園が満面の笑顔でこちらを向くので、両手で大きくマルを作る。嬉しそうにガッツポーズをする西園を、眩しい、と思った。西へ翳る太陽は炎のように燃え上がる。もう戦わなくていいのだと、涙を熱く乾かすように。煽り立てるように。








太陽、西へ西へ
三国。
リクエストありがとうございました!三国さんかっこよすぎて弱ります。
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