ヒヨル 熱帯雨林の夜 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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携帯で新規メール画面を開きながらコンビニに入った。音無は適当な感じにまたメールするよーとか言っていたが、まだ買い出しの詳細の連絡は来ない。だいたい音無はいい加減で、買い出し行ってきてとか言いながらメモすらよこさないのだ。うえーと思いながらおれはぽちぽちと携帯のキイを押した。店の中の空気はばさばさに乾いている。おれはコンビニもメールもあんまりすきじゃない。
すぐ後ろから栗松がひゅっと画面を覗きこんできたが、特になにも言わずにオレンジ色のかごを手に取る。あーメール栗松に頼んだらよかったなーと思ったのはそのときで、だけど今さらお願いするのもしゃくなのでそのままぽちぽちメールを打った。「なにかう」『ウィダー人数分と氷!』『あと粉のポカリ』音無はメールを打つのがはやい。そのくらいはやく準備とかもできたらいいのに。栗松、ウィダー人数分と氷と粉のポカリ。えー多くね?ふたりで持てるかな。おれが肩から下げたクーラーボックスを見て、まぁまずはウィダーと栗松は栄養剤が並ぶ棚へ向かった。味は?なんも。じゃてきとーに。栗松が片っぱしから銀色の容器をどかどかかごに入れていく。
ちびだからクーラーボックスの底がコンビニのつるつるの床にこすりそうになって、ちょっとつま先立ちをしてみたらふらーとよろけた。言い忘れたけどこれおもいっす。なにそれ、壁山?ちがう。ふーんと栗松は首をかしげて、あとでおれが持つよと両手に持ったウィダーの裏っかわをじっと見比べていた。なに。やー賞味期限がね。すぐくうんじゃない。タシカニ。栗松はタシカニ、と(いうか、てしけにー、みたいなイントネーションで/ちなみにあんまり似てない)繰り返しながらうなづいて、なんでか手に持っていたふたつともごろごろっとかごに落とした。えっ。えっ?迷ってたんじゃねーの。よく考えたら数が全然足りなかった的な。あそお。栗松はそういうとこ文系っぽいなと思う。とか言いながらおれもキャラバンの人数が正確に何人なのかとかよくわかっていない。足りないよりはね。ね。そんなこんなでウィダーの棚は空っぽになってしまった。店員がびっくりした顔でおれらを見ている。
粉のポカリは三箱あったので、みっつともウィダーの山の上にどさっと積んだ。もうこれ完全に持ち上がらねんだけど。栗松は両手でギリギリかごを下げている。エコバッグにもたぶん入らないんじゃない。まじ音無計画性ないよな。うん、とうなづいて壁面の冷凍庫をがちゃっと開ける。つめたい空気がひやーとからだの前面に吹きつけた。氷なんこいると思う?えー音無なんも言ってねーの。うん。栗松があからさまにげんなりした顔をして、ジャージのぽけっとから携帯を取り出した。ぽろりろりろーろ、ぱらりららー。コンビニに誰かが入ってくる。手がひやい。
ぱたぱたっとかるい足音が近づいてきて、あ、いた、と短く声がかかる。ゆいさんは無口なので、それだけでおれたちを手伝いに来てくれたのがなんとなくわかった。栗松はほんとに驚いたみたいで、思わずばしゃんとかごを取り落として、あ、すいません、とひとりでテンパっている。氷、みっつって。ゆいさんはそう言っておれより先に冷凍庫からロックアイスをみっつ取り出して、きょろきょろとおれらを見回した。おれはクーラーボックスしか持ってなくて、栗松の持ってるかごはもう満杯だ。ぱたぱたと入り口まで引き返して、ゆいさんもオレンジのかごを下げてきた。しろい手がつめたそうに見える。
ふと横を見ると栗松が真剣な顔でビタミン飲料を眺めていた。栗松はビタミン配合とかサプリメントとかトクホの食べ物とか飲み物とか、そういうのがすきだ。なんでか。からだわるいのかなぁと思うけど、そういった兆しを今まで感じたことはない。どれ?後ろからゆいさんに声をかけられて、栗松はおかしいくらいあからさまに肩をびくつかせた。栗松は年上の女のひとがあんまりすきじゃない。もっと年代が上の、きれいなおねえさんはすきみたいだけど。いやいいですなんでもないです、と必死に手を振る栗松を押しのけるみたいにして、ゆいさんは二リットルのペットボトルを引っ張り出した。栗松くんがのまなかったらわたしがのむから。ゆいさんはちょっとひくくて落ち着いた、やさしい声をしている。
部費の財布にはご当地キティちゃんがぶらぶらついていて、そこに最近つなみ先輩がゴーヤのやつを足してくれた。カウンターまでようやくかごを持ち上げて、ゆいさんに財布を渡す。キティちゃんがゆいさんのしろい手からぶらぶらぶら下がって、それを見ていると遠くまで来ちゃったなぁ、みたいな変な気持ちになった。栗松はほんとにすまなそうな顔をしていて、でもそのくらいでマネージャーは怒らないと思うよ、とフォローしてみた。栗松にはわりとへこんでる顔が似合う。っていうかたぶんおれが普段から結構きびしいことを言っちゃうからで。で、栗松は栗松によく似合うへこんだ顔をして、ごめん、って言った。おれに謝られても困る。少林寺くんクーラーボックス貸して。あっはい。ゆいさんはてきぱきお会計を済まして荷造りに取りかかる。
氷はみっつともクーラーボックスに詰めこんで、ウィダーもかろうじてエコバッグに押しこむ(が、やっぱりちょっとこぼれそうになっている)。粉ポカリだけはどうにもならなかったので袋をもらった。これもたぶんアイシングで再利用する。ゆいさんはクーラーボックスをななめに下げて、持てる?と聞いた。エコバッグの、おれが右で栗松が左の取っ手を持つといい感じだったのでそうする。なんかかわいいね。ゆいさんのなにげない言葉にも栗松は過剰反応して、ぶんぶん首を振ったらウィダーがぼろぼろこぼれた。ばかじゃねえの。からだをかがめてこぼれたやつをちょいちょいっと拾ってポカリの袋につっこむ。栗松の左手には二リットルのペットボトル。おれの右手にはウィダーとポカリ。
ゆいさんのしゃんと伸びた背中がおれたちの前をゆっくりあるいていく。仲よしだね。ゆいさんが振り向きもせずに言った。おれはぱっと栗松を見て、そしたら栗松はちょっと照れたみたいにうつむく。どういう意味。なんも言わないおれらに最初から返事なんか期待してなかったみたいな感じで、ゆいさんは今日は栗松くんがスタメンやりなよ、と言った。ひくくて落ち着いたやさしい声で。いい天気すぎて目がいたい。ゆいさんのぽけっとからキティちゃんがぶらぶらしている。ほんとに遠くまで来ちゃったなぁと思ったけどやっぱりおれはなんにも言わなかった。そのかわりなんにも言わずにゆいさんの背中をじっと見ている栗松の横顔を見て、なぐさめてなんかやらなきゃよかった、と思った。







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