ヒヨル スピーク・スイート・スイート・ラヴァーズ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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ローカル戦隊ピンクこと桃河愛は悩んでいた。なぜかローカル戦隊ひいきの円堂が喜色満面にくれた友情のミサンガとメイズスパイクが、それぞれ手と足の先で彼女とおなじくやんわりと悩んでいるように見えた。ピンクの隣では瀬川流留がこちらも妙に沈痛な面持ちをして、首をななめにかしげたままひざを抱える指をそわそわと動かしている。ふたりで並んですわる河川敷の石段は、午後のやわらかな光をいっぱいに浴びてうらうらとあたたかい。しばらく稲妻町で自由行動をすると宣言したあと、監督は古株さんとキャラバンのメンテナンスに行ってしまった。グラウンドでは新技お披露目も兼ねた紅白戦が行われている。ダブルサイクロンが吹き荒れ、さばきのてっついが地面をえぐり、中谷が放つリフレクトバスターをここ最近頭角を現してきた来夏のぶんしんブロックが阻む。白熱した試合は一進一退のままなかなか動かない。
ローカル戦隊の正装である仮面の先を風がさわさわと撫でていった。で。ピンクの言葉にルルがうっと言葉を詰まらせる。また失恋したの。言わないでぇぇ!わあっとひざに顔を伏せてルルはあたまを抱えた。わかってるの!自分でもばかだなーってわかってるの!でも仕方ないじゃない仕方ないじゃないいいい!はいはいとその背中をかるく叩いてやって、そんで次は誰なの、と気だるくピンクはたずねる。わらわない?わらわないって。ルルはしばし口ごもったのち、おずおずと中谷くん、と言った。あー、中谷くん。中谷くんメリィちゃんのことすきじゃない。だからあああ!ルルはぶんぶんと首を振り、もういいのあたし新しい恋に生きるからと諦めたように力なくわらった。その顔が変に悟っているみたいで、不憫だなぁとピンクはしみじみする。
年ごろの少年少女ばかりを乗せたキャラバンだが、それでもつき合うとかそういう方向になかなか発展しないのは全員をサッカーというおおきな和が繋いでいるからだ。誰かと特別な関係になっても、その和を乱さずにいられるものは少ない。精神的にも肉体的にも未熟で、だからこそ逸ろうとするこのくらいの年代だから、余計に。キャプテンである円堂は常々恋愛関係はめんどくさいと豪語していて、それがなんとなくチーム全体に伝染した風もある。なによりキャラバンの目的は全国一のサッカーチームを作ることであり、技術的に追いつけなくなれば容赦なく切られてしまうので、いくら思春期とはいえすきだのきらいだのばかり言ってはいられないのだ。もっともその辺は大義名分であって恋愛の萌芽はそこかしこで見られるし、円堂も自らマネージャーといちゃついたりしているわけなのだが。
ルルは恋愛には積極的で、片想いに悩む誰かがいれば男女問わずに押しまくる。中学ではカップルを誕生させる名人だったが、その手の人間にありがちなことに、自分の恋愛はどうにもうまく運べない不器用な少女だった。相手の気持ちに誰よりもはやく気づいてしまう、心根のやさしさがそうさせるのかもしれない。ピンクもピンクでローカル戦隊になぜか加入させられてしまってから、恋愛など遠ざかる一方だ。子どもとオタクには異常にもてるが。それでときどきこうやって、ふたりで顔をつき合わせて近況報告をする。おおむね失恋したルルのはなしをピンクが聞いてやるだけだったが、それでルルは立ち直るので安い仕事ではあった。キャラバン通算何連敗かなぁ。いいい言わないで。わかってるから。げんなりとうなだれるルルを横目で見て、ピンクはきょろきょろと視線を動かす。こういうはなしをしていると、そろそろもうひとりが来るころだ。
にゅ、とふたりの間からほそい腕が伸びてきて、思わずピンクはのけぞった。たべる?柿ピーの袋をつかんだその手の持ち主はピンクが予想してたもうひとりで、細見咲枝里はふたりの間に割り込んでよっこらしょと腰を落ち着ける。さえりちゃああんとその首に抱きつくルルを見ながら、ピンクは遠慮なく柿ピーをひとつかみ袋から取り出した。なに、また?また。またとか!ひどい!だってそうじゃん。さえりはきれいに編み込んだ前髪の生え際をひとさし指でぽりぽり掻きながら、どうせまた自分から勝手に引いて勝手にへこんでんでしょーとあきれたように言う。それよりはやくあたしの恋愛応援してくれない?えっさえりちゃんすきなひといるの?いなーい。でももてたいの。てのひらの上で柿の種とピーナッツを分けながら、ピンクは順番むちゃくちゃじゃんとわらう。
っていうかさえりちゃんがもてないのは、さえりちゃんがオッサンくさいからだと思うよ。ルルも柿ピーをほおばって、しみじみとそう言った。あーまぁ普通おやつに柿ピーは選ばないよねぇ。はーちょっと意味わかんないんだけど。あたしのどのへんがオッサンなの。ルルはこくんと小首をかしげる。さえりちゃん、すきなたべものは。煮物。オッサンじゃん!思わず声をあげるピンクに、だって煮物おいしいでしょ!とさえりはちょっと方向性のずれた主張をする。えーちょっとさえり、ほんとにオッサンなの?そこはパスタとかかわいいこと言おうよ。うるさいなぁ煮物おいしいじゃん。煮物最高だって。さえりはちぇっちぇっとだだっ子みたいに足をぱたぱたさせる。つかあんたらに言われたくないから。大谷ちゃんやナッキーにならわかるけどさぁ。あーだよねーちょーかわいいもんねーとうなづく三人の前を、リカとティナとフェニクスが横切る。すらりと伸びたながい手足、高い腰きれいな髪豊かなまつ毛。いやまぁ、あそこら辺とは言わないけど。あれは正直おんなじ人間じゃないもん。美人すぎるでしょ。はぁ、とため息を三人同時について、ルルはさえりに寄りかかる。ううう。
さえりの痩せた上半身を横から抱きしめて、ルルはあーーなんでうまくいかないのーーと嘆いた。大丈夫だって。ピンクは手を伸ばしてそのあたまを撫でてやる。あ。さえりが身じろぎしてルルの腕をほどき、琴羽が呼んでるよ、と言った。ベンチのそばに立ったことはが、たぶん三人ともを手招きしている。ことはちゃんみたいに背がたかかったらなぁ。そんなことを言うルルをくっつけたままさえりは立ち上がり、はいはいしっぷうダッシュしっぷうダッシュ、とそのままルルを引きずるように行ってしまった。ローカル戦隊ピンクこと桃河愛は悩んでいて、それはつまりこの堂々巡りはこのまま終わらないんじゃないか?ということだった。立ち上がったとたんに腰に抱きついてきたココナをわしわしと撫でて、でも実は、この堂々巡りもそんなにわるくないんじゃないかしら、と思えてきていることこそを悩むべきなんだろうなぁ、とも思った。
(ルルとかさえりがいるんだったら、別にあたしは彼氏いらないんだけど)
なんちゃって!







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