ヒヨル 海は燃えているか 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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沖縄はいつもよく晴れていて暑い。あおい海しろい砂、そしてあざやかなさみどりのグラウンド。そんな風景の中での大海原中との練習試合を、ベンチでクーラーボックスの番をしながら眺めている影野の背中に突然鈍痛がはしった。う、と声を詰まらせて振り向く。たぶん松野だろうと当たりをつけていたのに、そこに立っていた少女の存在に用意していたセリフがのどの奥でこわばった。どけよ、うすらデカ。小鳥遊忍はさんさんと降り注ぐこの太陽の下でも日焼けひとつせず、抜けるほどしろい肌のその膝が影野の猫背ぎみの背中にめり込んでいる。端正な顔のするどく光る猛禽のような目が、たかい位置から影野をにらんだ。あ。影野は急いでクーラーボックスを抱え、彼女のために場所をあける。フンとさも当然のように鼻を鳴らし、小鳥遊はどっかりとそこへ腰を落ちつけた。ながく華奢な脚を組み、つまらなそうな顔でグラウンドを眇で見ているのはきっと眩しいのだろう。小鳥遊の目は色素がうすい。
ん、とそのしろくほそい手が影野の前に伸びてきて、影野はえっと小鳥遊を見る。なに。ドリンク。早くよこせよ。いらいらと揺れるその手の中に、ひたひたに汗をかいたスポーツウォーターを滑り込ませてやって、影野はちょっとわらう。かつて敵だった小鳥遊がどうしてキャラバンに参加することになったのか、その辺の経緯は影野にはわからなかったが、突然背中に膝を突き入れられても影野は小鳥遊のことが嫌いではない。その傍若無人さも、慣れてくるとそうわるくはないと思えた。塔子やリカとはまた違う、男なんてきたねえきたねえみたいな顔で男ばかりの場所でサッカーをしているのも、どことなくあまのじゃくでこのもしい。なにより小鳥遊は非常にうつくしい容姿をしていて、そのしろくほそい脚から驚くほど強烈なシュートが放たれる光景は一種倒錯的な危うさをもって届いてくる。やわらかな髪をしているのにがさがさなハスキーボイスをしているとか、チョコレートよりあんまんがすきだとか、小鳥遊の中にはいろんな不均衡とギャップがひそんでいて、影野はそういうところをいいな、と思っているのだった。
足下のしろい砂をスパイクのかかとで蹴りあげるようにしながら、小鳥遊はつよい日差しに目をほそめている。どこか行ってたの。あぁ?おまえ関係なくね。小鳥遊はつれない。そのソックスとスパイクが砂だらけだったから、たぶん特訓でもしていたのだろう。うん。影野は再度グラウンドに目をやる。ツナミブーストの高波が大海原ゴールを襲うが、ボールは紙一重でそこをそれていってしまった。モジャなにしてんだよ。小鳥遊は試合にはあまり興味がない様子で(大海原中のノリが苦手らしい)、影野と逆隣の宍戸の手元を覗きこんでいる。音無のあほがストップウォッチ水没させたんすよ。プラスドライバー片手に慎重に分解作業をしている宍戸は、こちらもまるきり試合なんか見ていない。傍らに広げた説明書と分解したストップウォッチを見比べながら、丁寧にアルコールでちいさな部品を拭いている。小鳥遊はそれがおもしろいらしく、ぐっと身を乗り出してその手元に顔を寄せた。先輩じゃま。あ?影になるから逆行って。ああ。小鳥遊は素直に宍戸の反対側に回って、また手元を覗きこむ。おまこれ逆だろ。えーどれっすか。ここだよ。これ?違うよちゃんと見ろよ。こちゃこちゃとちいさな部品を挟んで言い争うふたりをのどかに眺めて、影野はふかく呼吸をした。太陽と潮の香りがする。
試合は山場を迎えていた。大海原選手の放ったシュートに、円堂は高々と足をあげて力強く踏ん張る。正義の、鉄拳っ!気合い一閃、放たれた拳のかたちのオーラは相手のシュートをやすやすとはじき返し、相手の驚愕の声と潮風と、ついでにその軌道上にいた栗松を巻き込んで炸裂した。あ。ああ!あああ!?ぎゃあああああーと栗松の悲鳴は彗星のように尾を引き、やがてだばーんという着水音と水しぶきがそれに変わった。おいおい。影野は誰に言うでもなくぼそりとつぶく。瞳子監督と古株さんの乗った救命艇が、とろとろと現場に向かっていくのが見えた。くッ栗松ー!壁山と塔子が慌ててグラウンドを囲むフェンスに駆け寄るが、当の円堂はあれおかしいなと首をかしげるやら、おいおいおまえ今日もノリノリだなと大海原選手に持ち上げられるやらで、まったく危機感を抱いていないようだ。まぁ、みんな頑丈だからな。影野の視界の先では栗松が救命艇にようやく引き上げられ、なにやら心臓マッサージのようなものを施されている。頑丈、だよな?おいおまえら正義の鉄拳のときはちょっと離れろよ。円堂の無責任な忠告に、ディフェンダー陣がさあっとあおざめる。
ターイムと手をTのかたちにした円堂がこちらを見たので、影野はからだをぎくりとこわばらせる。しかし円堂はあれっしのぶ戻ってたのかーと声をあげ、おまえちょっとディフェンダーやってくれよーと手を振った。小鳥遊はそんな円堂の声など耳に入っていない様子で、宍戸の作業に見入ったり口を挟んだりしている。おーい。しーのぶー。しーのーぶー。るっせーなてめーでっかい声出してんじゃねえよ!円堂に負けず劣らずの大声で怒鳴る小鳥遊に、円堂は動揺も見せずにおーい試合でてくれーと呼びかける。取り込み中だよ見てわかんねえのか脳筋!なんだよーじゃあしょうがねえな!いいのか、と影野は肩透かしをくらった気持ちになる。んじゃ影野な。影野はちらりと宍戸を見るが、宍戸は先ほどの怒鳴り合いすら聞こえていない様子で熱中している。壁山が沈痛な表情で首を振り、諦めてくださいみたいな感じで手招きをした。
影野は覚悟を決めてベンチから立ち上がる。栗松を背負った古株さんとすれ違ったのでちょっとがんばろうと思った。背後に広がる砂浜からはマネージャーと女子プレイヤーが遊ぶかん高い声が聞こえていて、目の前のグラウンドには決死隊みたいな表情の雷門イレブンがいる。ここが地獄の一丁目。じゃり、とスパイクを踏み出した、背中から宍戸と小鳥遊の言い争う声がした。







海は燃えているか
クリスマス企画。
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