ヒヨル シェイクハンズ・ウィズ・オーロラジェンヌ 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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だらしないのよ、と彼女は言った。その高飛車な口調に、のそのそとだらしない足どりで雪をかき分けながら歩いてきた半田は苦笑する。北海道は白恋中の氷上グラウンドで今は二軍チームの調整を行っているところで、今や不動のスタメンエースストライカーである増谷乃流が、おでんをくうからと席をはずしている円堂の代わりにそれを見ている。つややかなながい黒髪をふたすじの三つ編みにした、大人びてうつくしい顔立ちの増谷乃流。わけあってキャラバンに合流するのが遅れた半田は、今のキャラバンメンバーのことをよく知らず、それでもさすが円堂が手ずからスカウトしただけあって、気立てもよく力ある粒ぞろいの人員ばかりだ。なぜか女子ばかりだが。ないるはその中でも特に攻撃的なサッカーを好む少女で、ねばり強く相手のゴールを攻めるその姿勢が円堂の目に留まったのだろう。並みいる強豪フォワードを押しのけて、スタメンの10番は彼女のものだ。
ないるは積もった雪の中に両足を開いて、寒さをものともせずに仁王立ちしていた。その傍らには寒そうに肩を縮めた宍戸が、自分のからだを抱くように立っている。そしてなぜかそのふたりの首はながいマフラーで繋がっていて、それぞれの端をまだだらだらと余らせていた。半田ははぁと中途半端にため息みたいな口調で呟き、ないるの隣に立つ。だらしないのよ、と言ったのは宍戸のことで、あまり寒さに耐性のない宍戸はマフラーをぐるぐるに巻きつけてなお、がたがたとからだを震わせている。これは?半田はふたりが一緒に巻いているあかいマフラーを指さした。編んだの。ないるが。なによわるい、とないるはきっと目をつり上げる。いやーかわいいじゃん、女らしくて。両手をジャージのぽけっとにつっこみながら言うと、ないるはうぐっとあからさまに言葉に詰まる。べべ別にそんなこと言われて嬉しいとか、思ってないんだからね!勘違いしないでよね!褐色のほほが濃く染まっている。
べくしょい、と宍戸がくしゃみをした。先輩さびーっす。だらしないわねぇ。宍戸は寒さに極端によわい。ずずっと洟をすすり、ついたため息がしろくその顔をかすませる。あー鼻毛凍る。マフラーに鼻水つけないでよね。それはどうかなーと宍戸はわざとらしく言って、足下の雪を踏み固めるように足踏みをした。寒そうだ。にしてもなげえなこれ。半田はマフラーの端をびよんびよんと伸ばしながら感心したように言う。三メートルぐらいあんじゃね。なんか編みすぎたのよね。なんでだよ。ノリよ。あそう。編み目はちょっと荒くてところどころがたついているが、いい毛糸で丁寧に編まれたあかいマフラーはふあふあとした手触りが気持ちいい。仲いいの?半田はからだを曲げて、ひとつのマフラーに巻きつかれたふたりを覗き込むようにした。宍戸とないるは顔を見合わせ首をかしげ、そしてなぜかぴたりと寄り添って腕を組む。「おい」仲いいんじゃねえか。うぜえな。ざしゃ、と蹴上げた雪がきらきらひかった。
あーーーーもう限界。上着取ってきます。宍戸はあごを震わせながらそう言い、あかいマフラーからあたまを抜いてないるに手渡す。ついでに円堂くん呼んできてくれない。らじゃ。宍戸は指をわなわなさせながら敬礼をして、そのまま白恋中の校舎へあるいていく。ないるは手に持ったマフラーを自分へもりもりと巻きつけた。当たり前だがあっという間にあたまの先まで覆われる。赤頭よ。あかあたま。おまえばかだろ。マフラーのばけものがふるふると首を振った。おれにつけさしてよ。いいよ。赤頭の中から黒髪のないるがするすると表れる。宍戸の立っていた場所に立って、半田はあかいマフラーを今度は自分がもりもりと巻きつける。おおあったけー。そう、とないるの横顔がもうグラウンドを見ている。見ててって言われたんだけどなにすればいいの。うん、と半田は息を吸った。声だしてけー。おう、とグラウンドからばらばらと返事がする。
ないるが横顔でしろくほそい息をする。こういうの苦手。サッカーはうめーくせに。技術と資質は違うんじゃない、とやけに理系くさいことを言うないるの腕を半田はひじでつつく。自信ねーの。あるわ。にやにやわらいながら言う半田に、ないるはこちらもにっとわらって見せた。わたしは誰にも負けないの。墨絵のよにくろぐろとにょきにょきと空を押し上げる冬木立にからまるように、どこからか香ばしいとうきびの匂いがする。中綿の軽くてあたたかいベンチコートを着た宍戸が、金属バットに焼きもろこしを山と積んで戻ってきた。監督さんから差し入れっす。ありがとーおいしそう。あとキャプテン来ないって。えーやっぱり?ないるはすらりと手を伸ばしてそのてっぺんのものをさらう。ふたりがそれぞれ焦げ目のついた実にかぶりつくのを見届けてから、宍戸はグラウンドに降りていった。おつかれっすー。休憩どおぞー。その華奢な肩には巨大な水筒が、ぽけっとには重ねた紙コップが見える。まめな子ねえとないるはばりばりと焼きもろこしを噛みながら言った。その口調がほんとに宍戸のことをすきみたいで、不覚にも半田は動揺する。
考えてみれば、だけど、おかしなはなしだ。東京からなん百キロも離れた北海道で、指がちりつくほどあつい焼きもろこしを、すこし前まで名前も知らなかった女の子と、ひとつのマフラーにくるまってたべている。ぶはっと半田はぐずぐずに噛んだとうもろこしを吹き出した。ひっとないるがあからさまにからだを引き、汚いわねぇと眉間にしわを寄せる。急になに。いやーなんかおかしいなーって思ったらツボった。なにが。なんつか、状況が?ないるは腑に落ちない顔をして、ふうんと曖昧に返事をした。しゃきしゃきとわざとおおきな音を立てながら半田は焼きもろこしをかじる。さっきの。え?おれともやってよ。なに?ないるは首をかしげ、その拍子にマフラーがくっとひっぱられるやわらかな圧力が半田の首を揺らした。なんのこと。ちぇっちぇっと半田は内心舌打ちをする。ほんとにわかってねえでやんの。おれのぽけっと空いてんよ。あそう。ないるはよくわからないという風に半田を見て、宍戸くんお茶ちょーだーいと声を張り上げた。ちょっとだけさわってみたかったないるの指先で、きれいにたべ尽くされたとうもろこしの芯がしろい。






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