ヒヨル きまぐれカポーテの夜明け 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

冬のよく晴れた早朝の、すみれ色の雲が薄氷みたいにあおく澄んだ空を泳いでいる姿がすきだ。塔子は基本的に早寝早起きなたちなので、女子部屋ではいちばんに起きる。のどと粘膜の保護のために監督がくれたネックウォーマーを外し、蒲団からそうっとはい出して伸びをした。つつましやかな寝息が静かにたちのぼる、女子部屋の朝はあまやかで心地がいい。隣の蒲団ではリカがながい髪を乱し、枕に顔を埋めるように眠っている。マネージャー三人も、それぞれあどけなくくつろいだ顔で夢の中を漂っていて、それを確認して満足すると塔子はタオルをつかんで洗面所へ向かう。凛とはりつめた空気は痛いほど冷えていて、素足の指先がかちかちにこわばるが塔子はそういうのもあまり嫌いじゃない。顔を洗う冷水がひじまで滴るのも、寝間着のスウェットの首周りが濡れるのも。塔子は季節とともにからだをおとなう変化がすきだ。ばさばさの髪をちゃんと整えろとリカがうるさいので、最近はちゃんと身支度を整えてから活動している。
手早くジャージに着替え、しろい息を吐きながら外へ出るとそこにはもう少林寺が待っていた。おはよーお待たせー。おはようございます。折り目正しく礼をする少林寺は、この寒いのに平然とした顔をしている。この小柄な後輩とは早起き同士なんとなく顔を合わせているうちに会話をするようになり、まだみんなが寝ている時間に少林寺の指示で体操や瞑想や太極拳をするのが塔子の日課になっていた。少林寺は先輩相手にも容赦なく、塔子の姿勢のわるさやからだの固さをずはずば指摘するが、その分指示は的確で小気味よく、なんとも健康的でからだにもこころにもよく効く(ような気がしている)のだ。それなので塔子は早起きが全く苦にならない。朝からしゃきしゃきと元気な少林寺を見ていると、自分もつられて元気になるようだった。今日も手をつないでストレッチをしたり、深い呼吸でからだを動かしたり拳法の型をなぞったりする。すみれ色の雲がようやく力強く差しはじめた太陽ににじんでいた。冬のよく晴れた早朝は正しく清潔で、気持ちがいい。
その空気をくしゃくしゃとかき分ける引きずるような足音に思わずふたりが振り向くと、ブランケットをぐるぐるに巻きつけた寝ぼけまなこのリカが立っていた。あーリカ!珍しいじゃん、どしたの。リカは寒そうに肩をちぢめ、あんた出ていくときにウチの髪の毛踏んだやろ、と不服げに言った。そーだっけ。そーやで。目ぇ覚めてもーたやんと目をこすりながら、リカはけだるい調子で寄ってくる。おはようございます。おはよーしょうりん今日もかわいいな。ごしごしと少林寺のあたまをなでながら、リカはきょろきょろとふたりの顔を交互に見る。デート?そんなわけないだろ。後ろから少林寺に腕を回してブランケットでぶわっと包んでやりながら、塔子の言葉にリカはけらけらとわらう。まーあんたらの色気ないこと。修行してるぼんさんか思たわ。少林寺はリカの腕とブランケットの間からその顔を見上げ、ぼんさん?と首をかしげる。おぼーさん。なんか抹香くさい連中が京都にいてるやん。あんなん。言いながらリカはブランケットを揺らした。中でくすぐられたのか、きゃらきゃらと少林寺がわらう。一見限りなくかけ離れた相容れないふたりだが、実はリカと少林寺が仲がいいことを塔子はちゃんと知っていた。似ているところがないからこそ、一周まわって気が合う、みたいな。
あーもーしょうりんあったかーぎゅーしたろー、ぎゅー。そう言いながら少林寺を後ろからぐるぐるに抱きすくめるリカに、塔子はぱっと自分を指さした。リカ、あたしもあたしも!えーいややーしょうりんあったかいもん。あーっつうかあんた今日ウチのトニックウォーターつこたやろ!うん。だってリカいっつも髪直せって言うじゃん。あれ高いねんからジャバジャバ使われたらお財布が泣くわ。あれいい匂いだからすきなんだもん。リカは眉間にきゅっとしわを寄せ、もー、と言った。言葉につまったというよりも、はじめから全然怒ってないよ、みたいなその調子に塔子は嬉しくなる。あーさぶ。ウチもっかい寝るわ。しっかりおつとめしいや。そう言ってリカはぱっと少林寺を離し、塔子はえええーと声をあげた。一緒に太極拳やらないの?やらへん。もー寝てる時間なんかないよ。いやまだがんばったら三十分は寝れる。ねーねーリーカー。やかまし。睡眠不足はお肌の天敵やねん。塔子はブランケットをしっかりかき合わせるリカの両腕をつかんで揺さぶった。ふうわりとティーツリーのやわらかな匂いがする。
リカは塔子より背もたかくて、髪もきれいで、いい匂いがして、モデルみたいなすんなりした手足をしている。そして、そういうひとつひとつのことが塔子には嬉しくてたまらない。リーカー。甘えた調子でリカの肩に額をこすりつけると、その背中がぶわっとブランケットに包まれた。もー。リカからはいい匂いがする。リカはやさしい。リカはフィクサーズにいた誰よりもやさしい。わしゃわしゃっと塔子の髪を華奢な指でかき回し、トニックウォーター使うときはちゃんと言うんやでーとリカは言った。はい。いいおへんじ。塔子がはいと返事をすると、リカはいつもいいおへんじ、とほめてくれる。塔子はそれも嬉しい。嬉しくてたまらない。髪をかき回すリカの指が冬みたいにつめたいことだって、今日は自分の髪の毛からリカとおなじ匂いがすることだって。
あかんほんまさぶい。えーリカ行かないでよージャージ貸したげるからさー。いらんわとリカはぱたぱたと手を振る。自分の取ってくるから。ほんと?ほんと。戻ってくる?くるくる。ほななとリカは少林寺のほほをぷにっとつまんで、背中をちぢめてサムイサムイサムイサムイと繰り返しながら行ってしまった。少林寺がつままれた箇所をごしごしこすって、またくるって、と言う。よかったね先輩。うん。塔子は快活にわらい、リカがそうしていたように少林寺を後ろからぎゅーっと抱きすくめた。そのままくるくるとふたりでまわる。少林寺はあたたかで、伸びやかなひなたの匂いがした。あたしねえリカのことだいすきなんだ。少林寺がちょっと照れたように、塔子の手にそのちいさなてのひらを添わせる。ふたりの後ろでじゃりじゃりとかるい足音がした。ティーツリーのいい匂いが、ブランケットみたいにふうわりとふたりを包む。







きまぐれカポーテの夜明け
クリスマス企画。
PR
[323]  [322]  [321]  [320]  [319]  [318]  [317]  [316]  [315]  [314]  [313
カレンダー
09 2024/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
まづ
性別:
非公開
自己紹介:
無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

adolf_hitlar!hotmail.com

フリーエリア
アクセス解析

忍者ブログ [PR]