ヒヨル かげののはなし 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

校庭の向こうに松野がたっている。シロップのしみてひたひたになった、居心地のわるい季節はずれのかき氷みたいな松野。松野は両手を口にまるくあてて、メガホンみたいにしている。
校庭の向こうに影野がたっている。それひとつだけしまい忘れたみたいな、小学校の片隅の壊れかけた竹ぼうきみたいな影野。影野は両手をだらりとおろして、だまって突っ立っている。
○○。校庭の向こうから松野がさけぶ。両手のメガホンにおもいきり声をひびかせて。○○。○○。○○!○○!!
影野はなにも言わずに、だまってそれを聞いている。○○。松野がさけぶ。わらいながら。影野。○○。
影野は片手をあげる。それでひかりを遮るようにして、松野をじっと見て、すこしわらう。
○○!○○!○○!○○!
影野はなにも言い返さない。たくさんの言葉が降り積もる。たくさんの言葉がたくさんの形で突き刺さりながら降り積もる。
松野。影野はちいさくつぶやく。なにー。松野がさけぶ。影野は首をふる。○○。松野がまたさけぶ。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○。
影野!○○!聞いてる?○○!
松野の言葉に影野はうなづく。聞いてるよ。ごめんね。
松野はわらう。涙をこらえてわらう。さけびながらわらう。いってはいけない。
ひどくかわいた校庭にはまるい虹が出ていてそれがびっくりするくらいきれいだったので、ああおれたちはもうどこへでも行けるね、と松野はわらった。
『わたくしもまっすぐにすすんでいくから』
『ああそんなに』
『かなしく眼をそらしてはいけない』





イカロスは死んだって生まれ変われない
49記念。
○○の中にはお好きな言葉を入れてください。
PR
姉がつくる弁当はハンカチの結び目がやけにきつくて、ほどくのにいつも苦労する。布のすきまに指をむりやりねじ込むとき、その中にある弁当がふうふうと妙に生気をおびて息づいているような気がして、影野はいつも途方にくれる。これ以上にうまいやり方が浮かばない。松野にもらった屋上の鍵は、松野がいないときだけ使うようにしている。松野も半田も土門もいない、学校に来たくなくなるほど晴れた日なんかに。屋上の扉がためらいがちに開いたのはそのときで、ほそく開けられたすき間で少林寺が目をまるくしている。あ。と、声だか音だかがふたりの口から同時にこぼれ、少林寺はおどろいた顔で、屋上に一歩踏み出す。手にはちいさな弁当の包みをさげて、けたたましい音をたてて閉まる扉の前に立ち尽くした。先輩なにしてるんですか。おずおずと近寄って、少林寺は問いかける。弁当。一緒にくう、と影野が言うと、少林寺はうなづいて、そっと背中あわせにすわった。天気はいいが風が強い。雲がふたりの頭上をものすごいはやさで流されていく。
少林寺は最近、目金と仲がいい。部活が終わったあと、ときどきふたりでじっとながい間話し込んでいたりする。すこし前に少林寺が部活を無断欠席したことがあったが、それ以来少林寺はなんとなく変わった。相変わらず口が達者で、ときとして辛辣な物言いをするのこそ変わらないが、身にまとう雰囲気があきらかに変わった。突然大人びたような、ちぐはぐですわりのわるいその雰囲気。少林寺はときどき、遠くを見たまま動かなくなることがある。かと思うと、なにかからあからさまに目をそらすことがある。ものも言わないのに、なにかを猛烈に訴えているような瞬間がある。死んだようにひっそりと、息をひそめる瞬間がある。影野は弁当の結び目に指をくい込ませる。手こずったが、なんとかそれをほどいた。少林寺は肉食とそれをするひとをあまりこのまない。姉は最近肉じゃがにはまっている。今日の弁当はおれのねえさんが作ってくれたんだ。影野がそう言うと、少林寺が手元をのぞきこんで、きれいですね、とわらった。おれのねえちゃんも、たまに作ってくれます。見上げる顔はいつもと同じで、だけど。そうかとわらいかえしながら、影野はやはり途方にくれる。少林寺はなんだかいまにもなきそうな気がする。こんなにすずしくわらっている今でさえ。
影野はプラスチックのはしを手にとった。ひとくちくう?少林寺は、くう、と即答した。ちいさな手にそぐわないながい竹のはしを、弁当のうえでさまよわせる。おれ今日は、エビチリと野菜炒めとにらたまです。うまそうだね。今日は母さんのだから、たぶんうまいです。お姉さん、へたなの。へたじゃないけど。少林寺は照れくさそうに言う。ほめるのって恥ずかしいです。おれねえちゃんすきだから。影野はふっとわらった。やさしいな。その言葉に少林寺の手が、とまる。それはたぶん、ちがいます。竹のはしは肉じゃがにおりた。うすいぶた肉を、先端でつまむ。それを迷わず口に入れたので、影野はおどろいた。肉は。おいしいです。少林寺は平然とわらった。すごくおいしい。まただ、と影野は思った。少林寺のまとう空気が、ぐずぐずとなき崩れていく。カンブリアイクスプロジオンのような、原始的な爆発。途方もないエネルギーを持った行き場のないものを、必死で抱きしめているような、そんな顔をして少林寺はわらう。
また背中あわせに、だけどそれを触れあわせることはせずに少林寺はそっとすわった。ごそりと膝をかかえる気配がする。肉食とそれをするひとをあまりこのまない少林寺。背中のむこうで、弁当をたべている気配はない。少林寺の弁当箱の中でふうふうと息づいているに違いない、母親の作ってくれたエビチリと野菜炒めとにらたま。たとえばそれが、少林寺のすきな姉が作ったものなら食べたかもしれない。影野ははしを持ったまま動けなかった。手の中の弁当箱と、そこからこぼれるカンブリアイクスプロジオン。爆発の中にうごめく無数の感情にからめとられて、影野はますます途方にくれる。少林寺が訴えているのはいつもおなじことだった。そんなことは誰が言わなくても、もうとっくに、わかっていた。
ひたりと背中になにかが触れた。いかれればよかったのに。少林寺の声がひくく響く。風にかわかされて、ひびわれたようなその声の奥に、影野はなんどもなんども、絶望にうずくまる少林寺を見る。あの結び目がほどけなければよかった。息づいたまま捨ててしまうべきだったのだ。どちらもそんなことを望んでいなかったのに。びょおびょおと風がうなって、ふたりの髪を寄り合わせるようにさらっていく。ひとつになるなんてはじめからできなかったのだ。大人びたように目をこらし、目をそらして息をひそめても。爆発でかき消して、何回そこを塗り直しても。少林寺が肉を食べるところをはじめて見た。さびしさで心臓がねじ切れるような、それはどうしようもないいたみに似ていた。途方もないエネルギーをちいさなてのひらで飼い慣らし、そこから永遠に溢れるものを、だけど影野は食べきれない。影野の背中を抱きしめて、少林寺はしずかにわらう。ぐずぐずとさびしくなき崩れながら、手を伸ばすことも、もうしない。
「先輩と一緒にいかれればよかったのにね」






ここでただいまを云い続けよう
影野と少林寺。完結。
ここでただいまを云い続けよう。おまえがお帰りなさいをくり返す間。
雷門中学の音楽教師は実にやる気のないひとで、合唱や器楽のレパートリーが尽きてやることがないときは、50分間まるまるクラシックを垂れ流して終わる。声楽畑の人間でしかもフランスオペラがことにすきな様子であるので、カルメンだのタンホイザーだのファウストだの、おもしろくもおかしくもない音楽を延々と生徒に聴かせる。その上ばかばかしいことに感想を強いる。無理やりだ。クラシックなんて誰も聴かないし、感想には『よかった』がならぶ。影野は音楽の授業がきらいで、それはこういう理由からだった。
今日も早々にすることが尽きて、教師はAV機器の入った観音開きの棚の鍵をあける。えーと不満そうにあがる声を教師はまるきり無視し、CDをプレイヤーにぽんと置いた。今日はモーツァルトを聴いてもらいます。みんなも聴いたことがあると思う。感想は適当でいいから、まぁ聴いてみて。プリントをざくざくと適当に配り、教師は奥へ引っ込んでしまう。ほったらかしのプレイヤーからはどおんという拍手が大音量でひびいた。投げやりなわりにライブ音源にこだわる。こんなにうるさくては眠れやしないと影野はほおづえをついた。
松野は以前、音楽の授業なんて一ヶ月ぐらい出てねーなと言っていた。半田は半月は確実に出ていないという。目金は音楽はわりとすきだと言っていた。クラシックがそもそもすきだというのに加え、困ったことに目金はそこそこ器用なので、リコーダーでもピアノでもパーカッションでも、やろうと思えばだいたいできてしまうのがまた反感をあおるのだ。自分はきらいだ。なぜなら意味がないから。そう言うと、あーまぁ意味はねーよなーと染岡は弁当をたべながら考え込んだ。でもよーああいうのがあってもいいと思うけどな、おれは。染岡は音楽の時間はだいたい寝ている。
影野もうつらうつらと眠りかけたとき、耳に聴きおぼえのあるメロディが飛び込んできた。かなり最近、どこかで聴いた。机のわきに追いやっていたプリントを手にとってながめる。セレナーデ第13番、と書いてあった。たん、た、たん、た、たたたたた。たん、た、たん、た、たたたたた。染岡はミュージックプレイヤーつきの携帯を持っていて、それに山ほど邦楽を入れて持ち歩いている。最近クレバがおれん中であちーんだよ、と、イヤホンを取って聴かせてくれた。ああ。ほおづえをついたまま、影野はすこしわらう。うん。知ってる。昨日、音楽の授業の話をした、まさにそのときだった。
ヴォルフガングアマデウスモーツァルトのセレナーデ第13番、は、日本語とそれに見合うようなメロディに奇妙にゆがめられ、ミュージックプレイヤーの中でひずんでいた。だけれどその曲はとてもよかったのだ。
(染岡がいい曲って言ったから)
プリントにシャーペンの先を落として、結局いつもと変わらないつまらない感想しか書くことはできなかった。顔をふとあげるとみんな机に向かっていた。ばかみたいに素直だった。プリントにはやはり『よかった』と、そのくらいしか書くべきことはないのに。






アマデウスは病んでひずむ
影野。
久々にがっつり影野コイルターン記念。
弁当の時間に、ときたま影野の席に押しかけていやがられるのが松野はすきで、たまにそれが気持ちよくてはめを外してしまう。帽子のゴムが伸びてしまったと両手でそれをびよんびよんしていると、ぶつっとその手の中でおもたい音がした。見るまにくたりとかたちをなくす帽子に、あああーと松野は眉をさげる。うわああ最悪。今日これしか持ってねーのに。ちらりと影野に視線を向けると、はしを口へはこぶ手がかたまる。げーおまえまだ食ってんのー?たらたら食ってるとおれがかわりに食っちゃうよ。松野が言うなり影野は左手で弁当箱をぱっとおおう。いちいち腹立たしいなと机のしたでかるく足を蹴ろうとすると、そこに影野の足はなかった。こいつ読んでやがった。ちっと音をたてて舌打ちをして、ねーねーじん、と松野は帽子を差し出す。なに。直して、おれの帽子ちゃん。なんでおれが。だっておれもうこれしかもってねーんだもん。あーと声を上げながら思いきりのけ反ると、あからさまにうっとうしそうな視線がいくつも松野に突き刺さる。あーばか。じんの野郎気づいてないでやんの。視線こそ松野に向いているが、悪意はすべて影野に向かっている。その中に元カノの姿を見つけたので、松野はわらって手をふってやった。
かたんかたんと音がして、松野は上半身をぐいと戻す。ようやく食べ終えた影野が、丁寧に弁当箱を片付けていた。かして。え?帽子、かして。しぶしぶ松野は帽子を差し出すと、影野はそれをぐるんとひっくり返す。げっちょっと、なにしてんの。直すんだろ。ふちを折りこんで縫いつけた、その中のゴムが切れているらしい。毛糸のすき間から指を突っ込んでゴムを探っている影野の手元から、松野は帽子をひったくった。ほんとやめて。え。さわんないで。じゃあやめる。影野はきちんと包んだ弁当箱をかばんに戻し、かわりに文庫本をとりだして開いた。
つまんねーのーじんーと声を張り上げる松野のとなりに、ちょっと、と元カノが立った。くーすけ、話あんだけど。あ?おれはねーし。ちょっとなにそれ。いきなりふっといてひどくない?別にひどくねーよ。おれおまえとなんか本気じゃなかったし。彼女は顔をあかくそめた。くーすけにとってあたしってなんだったの。そーだね。松野はわらった。ハジメテをありがと、キープちゃん。最低、と怒鳴って彼女は出ていき、最低、と影野は繰り返した。じんが口だす問題じゃねーしだまってろ。そう言って手元から本をはらい落とす。だらんだらんの帽子をくるくると指でまわした。影野はなにも言わずに彼女が出ていった扉をながめていた。
世の中って思い通りにならないことがたくさんあるよね。松野は席を立った。またくるよ。ばいばい。廊下をずんずんとあるくと、階段のかげにしゃがみこんで元カノがないていた。それをまるきり無視して、松野は屋上へ向かう。裏返されたままの帽子の、影野がなんとかしようとした部分がかすかにゆるんでいた。
(やべ、これすてられねー)
(ほんときもいんだけど、おれ)
世の中には思い通りにならないことがたくさんあって、これもまたそのひとつだった。なきたいわけではなかったから、松野はないたりしなかった。影野の指さきが目の奥にこびりついていた。しろいしろい指だった。行き着く先は彼のとなりしかなかったのだった。最初から帰り道なんてなかったのだった。







クドリャフカによろしく
松野と影野。
たなさんとお題取りかえっこ。
点というもののことについて、あの教師は熱心に語ったことがある。例えばグラフ上に一個の任意の点を置くとする。目の前にひろげたグラフ用紙に、いつも胸のポケットに差し込まれているペンで点を打ちながら彼は言った。数学上この点には大きさがない。質量も面積も方向も、位置以外の情報をもたないものが点であると、ユークリッド幾何学では定義されている。ゼロ座標をはさんだ対角線上にもうひとつ点を打ち、彼はすうとその二点をつないだ。点は位置以外の情報をもたないが、点が集まれば、このように線になる。線が集まれば面になり、面が集まればそこに高さが生じる。ゼロ次元から二次元、三次元へと展開されていく。なんの力ももたない、面積さえもたない点からだよ。教師は自嘲気味に、せき込むようにわらった。しかしこれが別の媒体では。スクリーンセーバがうねうねと動いているディスプレイを教師は人差し指の爪でついた。点はドット、すなわちなんらかの方法で電子上に固定された、ひとつの量子として定義される。一ドットは画像の最小単位だ。ユークリッド幾何学の定義とは違って、ここでは点は質量をもつんだよと、教師は椅子に深々ともたれた。ドットという概念、電子上に固定された量子としての点とその集まりがなければ、君たちの携帯なんかおもしろくもおかしくもないただの道具だよ。不思議だよなぁ。不思議だろう。なぁ。そこで教師は彼に同意を求め、彼はなにも言えずに目を伏せた。くつくつと教師はわらい、君にはまだわからないだろうなぁ、わからないよなぁと言った。二点を線でつないだだけのグラフ用紙を、丹念に丹念に教師は破った。こまかいかけらをぐしゃぐしゃに丸めて、きたないものでも見るような目でそれを捨てた。私も君も点にすぎない。人がなにかをしようなんて、馬鹿げていると思わないかね。だけどなにかを成そうと必死になることが、私にはとても大事なことなんだよ。いつか。いつでもいい。君にならわかってもらえると思っている。
騒ぎが起きたのは、その数日後だった。冬海は結局教壇を追われ、あとにはくちさがない噂だけが澱のようにのこった。いやな教師だったろうけど、冬海はたぶんひとりだったのだ。誰かのためのようなふりをして、だけど。あの日の祭りのような騒ぎの中で、影野はそれがこわくてたまらなかった。なにかを見つけたに違いないあのひとのけもののような目が、たったひとり立ちつくす影野の上をかすめて行った。なにを見つけたのだろう。居場所でも見つけたのだろうか。教えてくれればよかったのに。ずたずたに捨てられたグラフの、二点をつなぐさびしい線を、冬海は手ずから引いたのだった。どんな思いで。今さらなにを言うわけでもないけれど、叶うなら理解はしてみたかった。ひとつだけ打たれた点にあのひとが見いだしたものを見たかった。いつかわかるよなんて、そんな言葉であのひとさえも濁した答えを。






動物の謝肉祭
冬海と影野。
[1]  [2]  [3]  [4]  [5]  [6]  [7]  [8
カレンダー
09 2024/10 11
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
プロフィール
HN:
まづ
性別:
非公開
自己紹介:
無印雷門4番と一年生がすき。マイナー愛。

adolf_hitlar!hotmail.com

フリーエリア
アクセス解析

忍者ブログ [PR]