女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。
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弁当の時間に、ときたま影野の席に押しかけていやがられるのが松野はすきで、たまにそれが気持ちよくてはめを外してしまう。帽子のゴムが伸びてしまったと両手でそれをびよんびよんしていると、ぶつっとその手の中でおもたい音がした。見るまにくたりとかたちをなくす帽子に、あああーと松野は眉をさげる。うわああ最悪。今日これしか持ってねーのに。ちらりと影野に視線を向けると、はしを口へはこぶ手がかたまる。げーおまえまだ食ってんのー?たらたら食ってるとおれがかわりに食っちゃうよ。松野が言うなり影野は左手で弁当箱をぱっとおおう。いちいち腹立たしいなと机のしたでかるく足を蹴ろうとすると、そこに影野の足はなかった。こいつ読んでやがった。ちっと音をたてて舌打ちをして、ねーねーじん、と松野は帽子を差し出す。なに。直して、おれの帽子ちゃん。なんでおれが。だっておれもうこれしかもってねーんだもん。あーと声を上げながら思いきりのけ反ると、あからさまにうっとうしそうな視線がいくつも松野に突き刺さる。あーばか。じんの野郎気づいてないでやんの。視線こそ松野に向いているが、悪意はすべて影野に向かっている。その中に元カノの姿を見つけたので、松野はわらって手をふってやった。
かたんかたんと音がして、松野は上半身をぐいと戻す。ようやく食べ終えた影野が、丁寧に弁当箱を片付けていた。かして。え?帽子、かして。しぶしぶ松野は帽子を差し出すと、影野はそれをぐるんとひっくり返す。げっちょっと、なにしてんの。直すんだろ。ふちを折りこんで縫いつけた、その中のゴムが切れているらしい。毛糸のすき間から指を突っ込んでゴムを探っている影野の手元から、松野は帽子をひったくった。ほんとやめて。え。さわんないで。じゃあやめる。影野はきちんと包んだ弁当箱をかばんに戻し、かわりに文庫本をとりだして開いた。
つまんねーのーじんーと声を張り上げる松野のとなりに、ちょっと、と元カノが立った。くーすけ、話あんだけど。あ?おれはねーし。ちょっとなにそれ。いきなりふっといてひどくない?別にひどくねーよ。おれおまえとなんか本気じゃなかったし。彼女は顔をあかくそめた。くーすけにとってあたしってなんだったの。そーだね。松野はわらった。ハジメテをありがと、キープちゃん。最低、と怒鳴って彼女は出ていき、最低、と影野は繰り返した。じんが口だす問題じゃねーしだまってろ。そう言って手元から本をはらい落とす。だらんだらんの帽子をくるくると指でまわした。影野はなにも言わずに彼女が出ていった扉をながめていた。
世の中って思い通りにならないことがたくさんあるよね。松野は席を立った。またくるよ。ばいばい。廊下をずんずんとあるくと、階段のかげにしゃがみこんで元カノがないていた。それをまるきり無視して、松野は屋上へ向かう。裏返されたままの帽子の、影野がなんとかしようとした部分がかすかにゆるんでいた。
(やべ、これすてられねー)
(ほんときもいんだけど、おれ)
世の中には思い通りにならないことがたくさんあって、これもまたそのひとつだった。なきたいわけではなかったから、松野はないたりしなかった。影野の指さきが目の奥にこびりついていた。しろいしろい指だった。行き着く先は彼のとなりしかなかったのだった。最初から帰り道なんてなかったのだった。
クドリャフカによろしく
松野と影野。
たなさんとお題取りかえっこ。
かたんかたんと音がして、松野は上半身をぐいと戻す。ようやく食べ終えた影野が、丁寧に弁当箱を片付けていた。かして。え?帽子、かして。しぶしぶ松野は帽子を差し出すと、影野はそれをぐるんとひっくり返す。げっちょっと、なにしてんの。直すんだろ。ふちを折りこんで縫いつけた、その中のゴムが切れているらしい。毛糸のすき間から指を突っ込んでゴムを探っている影野の手元から、松野は帽子をひったくった。ほんとやめて。え。さわんないで。じゃあやめる。影野はきちんと包んだ弁当箱をかばんに戻し、かわりに文庫本をとりだして開いた。
つまんねーのーじんーと声を張り上げる松野のとなりに、ちょっと、と元カノが立った。くーすけ、話あんだけど。あ?おれはねーし。ちょっとなにそれ。いきなりふっといてひどくない?別にひどくねーよ。おれおまえとなんか本気じゃなかったし。彼女は顔をあかくそめた。くーすけにとってあたしってなんだったの。そーだね。松野はわらった。ハジメテをありがと、キープちゃん。最低、と怒鳴って彼女は出ていき、最低、と影野は繰り返した。じんが口だす問題じゃねーしだまってろ。そう言って手元から本をはらい落とす。だらんだらんの帽子をくるくると指でまわした。影野はなにも言わずに彼女が出ていった扉をながめていた。
世の中って思い通りにならないことがたくさんあるよね。松野は席を立った。またくるよ。ばいばい。廊下をずんずんとあるくと、階段のかげにしゃがみこんで元カノがないていた。それをまるきり無視して、松野は屋上へ向かう。裏返されたままの帽子の、影野がなんとかしようとした部分がかすかにゆるんでいた。
(やべ、これすてられねー)
(ほんときもいんだけど、おれ)
世の中には思い通りにならないことがたくさんあって、これもまたそのひとつだった。なきたいわけではなかったから、松野はないたりしなかった。影野の指さきが目の奥にこびりついていた。しろいしろい指だった。行き着く先は彼のとなりしかなかったのだった。最初から帰り道なんてなかったのだった。
クドリャフカによろしく
松野と影野。
たなさんとお題取りかえっこ。
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