女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。
はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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姉は毎朝、通学中にiPodで聴く曲をおれに決めさせる。ちいさくてうすべったいむらさきのiPodには数えきれないほどの曲が入っていて、部屋をぱっと開けてじんくん今日どれ聴こうか、とたずねるのが姉の日課になっている。今日も制服に着がえて髪もちゃんと結わいた姉が遠慮なく扉をぱっと開けて、でもそこで立ち止まる。あかい顔をしてぐったりと寝ているおれをみて、じんくんかぜ?とひとりごとのように言う。おれがなにも答えないのでおかあさーんと部屋の中から母親を呼び、父親を送り出した母親がひょいと顔をのぞかせた。水仕事をしていたつめたいてのひらでおでこやほほやくびをぺたぺたとさわり、あー熱があるね、と言った。じんくん具合わるい?どっかいたい?姉が顔をのぞきこんできて、あんたは早く学校いきなさいと母親に促される。欠席連絡しとくから寝てなさい。病院は?いきたくない。そう。なんか食べたい?いらない。とりあえず寝てなさい。ごはん持ってくるから。そう言ってふとんを肩まできちんとかけ直して、母親は出ていったかと思うとすぐに戻ってきた。あおい冷却ジェルのついた湿布の親戚みたいなのを髪をかきわけておでこに貼る。顔が外に出ているのはなんとなくこそばゆい。
味噌汁とごはんを机の上においてポカリを枕元において、母親も出勤していった。関節がだるくてあたまがおもい。髪の毛のおもさが増したみたいであたまがまくらにずぶずぶ沈んでいくような気がする。からだは頑丈なほうだけど、半年に一回くらい具合がわるくなってそのうち年に一回とか二年に一回くらいはこういう風に熱をだす。前に熱を出したのは中学校に入ってしばらくしたころだった。あのときもえらくだるくて、病院に連れていかれてふとい注射をうたれた。記憶というよりそれは夢だったようでふっと目をさます。冷却ジェルがつめたくぶよぶよとひろがって顔がおおわれていくみたいな感覚がきもちわるくて、結局それをはがしてしまう。のどのあたりが熱でへばりついてしまって息がくるしい。からだをちょっと持ちあげて、つめたいポカリをひとくちのむとうっと吐き気がこみあげて、トイレに駆けこんでだいぶもどした。髪の毛を唾液がつたっていってきたない。あーとため息をつくとまたにがいものがのどを逆流してきた。
トイレの扉をぴったりとしめて、ひざを抱えてうずくまる。からだのなかがむかむかするので深呼吸をたくさんしたら芳香剤のオレンジのにおいが鼻についてまたもどす。昨日も食欲がなかったからあまり食べなかったのに、へんな色のねばねばみたいなのがたくさん出た。涙と鼻水がぬぐってもぬぐってもだらだら出るのでなんかもうつらくてまたうずくまった。そのまま少しうとうとする。おおきなてのひらにゆっくり押しつぶされて声も出せずにぺちゃんこにされるというとにかくいやな夢を見た。うずくまったまま汗びっしょりで目をさます。首のあたりがだるい。携帯がちかちかしていたので手にとって通話キーを押す。じーんじんじん。げんき?いまなにしてんの?松野のへらっとした声が耳にとどく。あーうんと半端に返事をすると、電話の向こうの声がかわった。松野の携帯はサッカー部全員を順ぐりに回って、みんなそれぞれいろんなことを言った。今日の授業はつまらなかったとか、昼の弁当をうっかりひっくりかえしそうになったとか、居眠りしていたら先生にやたら怒られたとか、今からお見舞いに行ってもいいかとか。明日にはでていくからこなくていいと言うと、じゃあ絶対来いよと染岡は言った。絶対だぞ。待ってるからな。その言葉を聞いてから電話を切った。のどのあたりがいがいがしてだけどうれしくて、しゃべってよかったなと思った。
そのときがちゃっと扉が開いて、おれは後ろにぱたっと倒れた。じんくんねてなくていいの?姉がおどろいたように立っている。いま何時?もう五時だよ。姉はおれのわきの下に手を差し込んでずるずるひっぱった。そのまま部屋まで連行される。じんくん汗びっしょり。着がえれば?ベッドにごそりともぐりこむと、そんなことを言いながらその足元に姉が座った。今日おとーさんもおかーさんも遅いよ。なにたべる?そこまで言って机のうえにおかれた手つかずの食事を見て、ピザとってもいい?と言う。今日なに聴いたの?返事をせずにそうたずねた。んー椿屋四重奏のアルバム。じんくんが選ぶの洋楽ばっかだから新鮮だったよ。携帯をぱかんとひらいてピザ屋に電話をかけ、電話をきってらーららーと椿屋四重奏を姉は歌いだした。ポカリをひとくちのんだけど今度は吐かなかった。明日にはたぶん学校に行ける。着がえてこよっとまたあとでねと姉は部屋を出ていったので、はやく夜になればいいと思った。おれも立ちあがってパジャマを脱いだ。今日の夕食はミックスピザ。
ようこそトラペジウム
影野と姉。
味噌汁とごはんを机の上においてポカリを枕元において、母親も出勤していった。関節がだるくてあたまがおもい。髪の毛のおもさが増したみたいであたまがまくらにずぶずぶ沈んでいくような気がする。からだは頑丈なほうだけど、半年に一回くらい具合がわるくなってそのうち年に一回とか二年に一回くらいはこういう風に熱をだす。前に熱を出したのは中学校に入ってしばらくしたころだった。あのときもえらくだるくて、病院に連れていかれてふとい注射をうたれた。記憶というよりそれは夢だったようでふっと目をさます。冷却ジェルがつめたくぶよぶよとひろがって顔がおおわれていくみたいな感覚がきもちわるくて、結局それをはがしてしまう。のどのあたりが熱でへばりついてしまって息がくるしい。からだをちょっと持ちあげて、つめたいポカリをひとくちのむとうっと吐き気がこみあげて、トイレに駆けこんでだいぶもどした。髪の毛を唾液がつたっていってきたない。あーとため息をつくとまたにがいものがのどを逆流してきた。
トイレの扉をぴったりとしめて、ひざを抱えてうずくまる。からだのなかがむかむかするので深呼吸をたくさんしたら芳香剤のオレンジのにおいが鼻についてまたもどす。昨日も食欲がなかったからあまり食べなかったのに、へんな色のねばねばみたいなのがたくさん出た。涙と鼻水がぬぐってもぬぐってもだらだら出るのでなんかもうつらくてまたうずくまった。そのまま少しうとうとする。おおきなてのひらにゆっくり押しつぶされて声も出せずにぺちゃんこにされるというとにかくいやな夢を見た。うずくまったまま汗びっしょりで目をさます。首のあたりがだるい。携帯がちかちかしていたので手にとって通話キーを押す。じーんじんじん。げんき?いまなにしてんの?松野のへらっとした声が耳にとどく。あーうんと半端に返事をすると、電話の向こうの声がかわった。松野の携帯はサッカー部全員を順ぐりに回って、みんなそれぞれいろんなことを言った。今日の授業はつまらなかったとか、昼の弁当をうっかりひっくりかえしそうになったとか、居眠りしていたら先生にやたら怒られたとか、今からお見舞いに行ってもいいかとか。明日にはでていくからこなくていいと言うと、じゃあ絶対来いよと染岡は言った。絶対だぞ。待ってるからな。その言葉を聞いてから電話を切った。のどのあたりがいがいがしてだけどうれしくて、しゃべってよかったなと思った。
そのときがちゃっと扉が開いて、おれは後ろにぱたっと倒れた。じんくんねてなくていいの?姉がおどろいたように立っている。いま何時?もう五時だよ。姉はおれのわきの下に手を差し込んでずるずるひっぱった。そのまま部屋まで連行される。じんくん汗びっしょり。着がえれば?ベッドにごそりともぐりこむと、そんなことを言いながらその足元に姉が座った。今日おとーさんもおかーさんも遅いよ。なにたべる?そこまで言って机のうえにおかれた手つかずの食事を見て、ピザとってもいい?と言う。今日なに聴いたの?返事をせずにそうたずねた。んー椿屋四重奏のアルバム。じんくんが選ぶの洋楽ばっかだから新鮮だったよ。携帯をぱかんとひらいてピザ屋に電話をかけ、電話をきってらーららーと椿屋四重奏を姉は歌いだした。ポカリをひとくちのんだけど今度は吐かなかった。明日にはたぶん学校に行ける。着がえてこよっとまたあとでねと姉は部屋を出ていったので、はやく夜になればいいと思った。おれも立ちあがってパジャマを脱いだ。今日の夕食はミックスピザ。
ようこそトラペジウム
影野と姉。
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