ヒヨル マハラジャマック・イーター 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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朝から湿度が高く、寝ぼけたような不快感がいつになっても消えない日だった。壁山が部室をがらりと開けると、中にいたのは宍戸ひとりだけだった。肩甲骨のめだつしろい背中が、ほこりくさい部室のすみにかがんでいる。すぐそばのロッカーが半開きになっていて、学ランの袖がだらりと垂れていた。なにしてんだ?おー壁山、うす。うす、でなにしてんだ?いやさ。素肌をむき出しにした上半身をかがんだままひねって宍戸が振り向く。ごちゃごちゃとなんだかわからない備品が積み上げられ折り重なった、マネージャーですら手がつけられない一角だ。
ねこが。ねこ?たぶん。そこに入った?たぶん。なんかはっきりしないな。おれもはっきり見たわけじゃねーんだよ。立ち上がった宍戸が困ったように頭をかく。壁山は山のように積み上がったその備品だかごみだかをうえからしたまで眺めた。今日は二年生の授業は、あと一時間残っている。自分ならこれをいったんどこかにどかして、また戻すことができるだろう。先輩が来る前に。どーしたもんかなかわいそうだよな、と、中腰でうろうろと隙間を覗いている宍戸にそれを提案する。おれこれどかそうか?え?いや、宍戸かわいそうって言うから。どかしてみるかと重ねて提案すると、じゃおれも手伝うと宍戸はてっぺんのつぶれかけた段ボールに手を伸ばす。あ、あ、そこはおれがやる。バランスを崩して箱を取り落とす前に、宍戸より背の高い壁山が手を伸ばしてそれをどかす。持ちあげた箱を地面に置くと、ほこりがぶわっと立ちのぼった。中にはだいぶ年代物のユニフォームが、かびやらほこりやらでよくわからない物体にばけて眠っていた。げえ、という顔を見合わせて、だけどそのとき、隙間から確かににゃあという鳴き声がしたのだ。
宍戸が腕を伸ばすたびに、うすいひふからあばらが浮いて見える。骨ばったひじや肩がよく動くな、と壁山は感心する。学ランを脱いでシャツを二の腕までぐしゃぐしゃにまくり上げた壁山の腕はがっしりとして、宍戸のそれより何倍もふとい。山はあらかた崩されて、宍戸のうすい胸板をほこりの混じった汗がいく筋もながれた。やべぇだるい。両手をしろい腰に当てて宍戸が首をかるくひねる。練習前に重労働だったな。だな、ねこまだ?出てこないな。壁山もシャツのボタンをみっつほどあける。湿度が高くてあつくるしい。気休めにあけた窓からは、風すらも入らない。積みあがった箱からは、一番うえにあったユニフォームの残骸と似たようなものが山ほど出てきた。どろどろに腐ったスパイクだの、かびや虫食いで箱と癒着した靴下やアンダーだの、きいろやあおやむらさきに変色したぺたんこのサッカーボールだの、錆びだらけでまっかになったダンベルだの。それらいちいちにうぇぇとかげぇとか言いながら(ときには悲鳴もあげたりした。てのひらほどのクモが壁を伝って窓から外に逃げていったときには、ふたりとも腰を抜かすほど驚いた)、しかしふたりの努力の成果でかの魔窟はそのほとんどを白日のもとにさらしていた。これマネージャーにやってもらわなくて正解だな。これはさすがにきついだろ、なんの兵器だよ。宍戸が足で、もうなにが入っているのか見たくもない段ボールをちょっとつつく。にゃあ。ほこりだらけのねこが崩された山の隙間から走り出てきたのはそのときで、宍戸と壁山のあいだをあっという間にすり抜けると、これまたタイミングの悪いことにたまたま入り口を開けた栗松と少林寺の足元を、しろい弾丸のように駆け抜けていった。伸ばしかけた宍戸の手が半端に宙にとどまって、ふたりが驚く声が遅れて届く。
あーと声にならない声を上げて壁山は宍戸を見る。同じような表情をした宍戸も壁山を見たので、ふたりでかくんとうなだれた。まっいーけどな。無事っつか元気だったな。だな。うわぁなんだよこれ。少林寺がばらばらに置かれた段ボールを覗き込んで眉間にしわを寄せる。これお前らがやったの?そーだよと宍戸はロッカーからタオルを取り出し、それでごしごしとからだじゅうにまといついた汗やらほこりやらをぬぐっていく。これ全部ごみに出したほうがいいよ。はぁーと感心ともなんともつかないため息をついたあとに栗松がそう言い、マネージャーに頼もうかと壁山も取り出したタオルで首や顔をこする。片付けるよりもこのまま処分してしまったほうがよさそうだ。なにせ中には得体のしれないものが果てしなくつまっているのだから。
あきれたようにそれらを見回していた少林寺が、宍戸ケガしてるよと言った。え?腕をあげてからだを見下ろす宍戸のわき腹に、あかい傷がすうっとはしっていた。かどでひっかいたのかなと宍戸はそこをてのひらでおおう。はだかでそんなことするからだろ?つーか服着ろよお前、壁山もなんで言わねーんだよ?少林寺に見上げられて、壁山は言葉につまる。あついからいーんだよと宍戸が少林寺の髪の毛をくるくるっと手に巻いてひっぱった。備品の棚に入っていたありったけのごみ袋を抱えて、でもケガならなんとかしたほうがいいんじゃね?と栗松が心配そうに言う。いたくないからいいよ。宍戸はかるい感じでわらい、離せよっと少林寺がもがく。
宍戸のしろい背中にはまっすぐな背骨が浮きあがってみえたし、その痩せた首を汗がながれていった。隙間に入りこんだねこのことをたぶん、本当に心配していた。だから壁山がいなくても、宍戸はひとりであの山を崩しにかかっただろう。しろい上半身をむき出しにしたまま。服を着ろとは、あのときは到底言えたものではなかった。それはあの瞬間に部室を開けてしまった、壁山にしかわからない。そしてまたそれを、壁山は後悔さえしていないのだった。宍戸のうすいひふに刻まれたあかい傷を直視することができなくて、壁山は息苦しくくもった窓の外に視線を逃がす。早々に着替えを終えた栗松が、うひゃーとかきたねーとか言いながら、どんどん箱の中身をごみ袋に突っ込んでいった。よどんだ空気はどこにも逃げることはなく、あけ放した窓からは風すらも入らない。あのねこどこにいったのかなと、落ちたつぶやきは誰にも拾われなかった。







マハラジャマック・イーター
壁山と宍戸。
初壁山。すきです。マハラジャマックは羊肉のハンバーガー。
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