ヒヨル ねじれて空 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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先輩ってサッカーやっててたのしっすか?スパイクのつま先の方にこまかい砂がざらざらにたまって、それを面倒くさそうにぱらぱらと地面にひっくり返す目金に、雨上がりの地面を転がったせいで泥がこびりついたボールを持った宍戸が問う。宍戸の華奢な指が、縫い目をおおうしろくかわいた泥をこすって落としていき、それをちらりと見て目金はスパイクをはきなおす。別に楽しくはないですね。正直にそう言ってやると、ははっとかるく宍戸はわらった。やっぱり。腹も立たないのは現状に慣れすぎているからか、それともこの後輩の口調のせいだろうかと目金は指先でくるくると髪の毛を巻きとる。ベンチになってから宍戸はなんだか穏やかだ。すんません雑巾かしてもらえます?ベンチの後ろを通る木野に、そんなことを言ったりもする。くろくよごれた雑巾を持つ宍戸のしろい手が、指では落としきれなかったボールの汚れをていねいに拭っていく。その横顔が穏やかすぎて、まっすぐ見ることができない。
話しかけられて、目金は正直とまどった。嫌いなタイプではないが、うまが合うとは思えない。そばかすの散った頬はいつもわらっているが、底抜けにあかるい男なのだとは、到底思えないのだった。あなたは違うんですか。俺っすか。俺はまぁ、たのしっすよ。目金のほうをちらとも見ずにつらつらとまくし立てたその言葉尻に、なんてね、と冗談めいた言葉をわざわざつけてみせる。つーかできてなんぼっすからね。ベンチっつーことは、そーゆーことっす。楽しいとか楽しくないとかってその次、っすよね。ね、と言われても目金に返す言葉はない。自分はサッカーなんてできなくてもいい、と思っているからだ。なにも言えないままの目金をおいて、宍戸はベンチをきしませて立ちあがる。片手でぶらぶらと雑巾をふりながら、もう片手でベンチにすわる影野の背中をさわーとなでていった。びくりと肩をふるわせて影野がふりむき、駆けていく宍戸の背中をみとめてすこしわらう。影野が普段見せない笑みは、やさしくてなぜかなきたくなる。目金の視線を感じて、影野はふっと笑みをけした。我慢してるな。ひとりごとのようにぽつりと影野は言い、目金はやはりなにも言えない。サッカーやってて楽しいか。おなじことを影野は目金に問う。だから。言いかけた言葉はのどの奥に不快にへばりついた。戻ってきた他のメンバーが、宍戸のすわっていた場所にどやどやとすわっていく。無性にむなしくなって、目金は空をあおいだ。あおすぎてそれは、高すぎて、むしろいたくてどうしようもなかった。あのながい髪の毛のむこうで、影野がなにを見たのか目金は絶対に知りたくないと思った。宍戸がベンチを立ったままもどらない。あのしろい指がきれいに磨いたボールが、誰かのスパイクの下でかすかにゆがむ。目金に言うべき言葉はない。宍戸にとってそれがどのくらい大切で、失ったことでどのくらい傷ついたかを、目金は想像することさえできない。影野が音もなくベンチを立った。どうかうまが合わないあの後輩を泣かせてやってくれ、と目金は願った。それをなくしてしまったひとに、かける言葉なんて彼が持ち合わせているとは思えないけれど、それでも。
それでも君たちはしらないだろうから。雑談の合間に蹴られたボールが転がって水たまりにひたった。宍戸があれをどんなに大切に大切に磨いたかを、君たちはしらない。どんなに穏やかな横顔で、やさしい顔でグラウンドを見ていたかを、君たちはしらない。影野の背中を撫でていった指に、宍戸がどんな思いをこめていたのかを、これは誰もしることはできないけれど、少なくともあのときの彼を見ていない君たちは、しらないだろうから。サッカーがたのしくて仕方ないひとの気持ちなんて目金はわかりたいとも思わない。だって誰も言わないのだ。今ここにいないふたりのことを、だって、誰も、言わない。






ねじれて空
目金と宍戸と影野。やっぱり宍戸がすきです。
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