ヒヨル ロマンス 忍者ブログ
女性向け11文章ブログ。無印初期メン多め。 はじめての方は「はじめまして」に目を通してください。
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雨が窓をしずかに叩いている。しずかにしずかにひたひたと叩いている。
四角く切りとられたそこには風も音もないので、普段はすこし苦しい呼吸がそのときは妙にはやくなる。横隔膜を骨と筋肉のうえから押さえつけられたような気持ちで、思考がやたらとくるくる回る。彼はゆっくりと膝をまげて蒸れたコンクリートの隅にかがみこんだ。もてあまし気味のながくほそい両手をまげた膝にまきつけて、でっぱった骨に額を押しつけるとそれで彼の世界は完成する。湿気でかすかにきしむながい髪の毛が、その肩や背中や腕のひふにしっとりとやわらかくまといついて、そうして四角く切りとられた場所からさらにまるく彼を切りはなしていく。
風も音もないその場所は彼のすべてで、彼にはそれしかない。何もかもをこらえるようなその姿勢で受け流し、他の誰が踏みこむことをもよしとしない彼のすべて。だけれどそれらは実に悪意なくうち破られる。ふと四角く切りとられたその場所に踏みこんだ誰かの足が、やわらかく止まるのを彼は感じる。じんちゃん、なにしてるの。日に焼けた指がそろっと、うつむいたままの彼のあたまに、髪にふれた。彼は顔をあげない。彼の世界は、そこにしかない。じんちゃん。名前を呼ぶ声はおだやかでねむたい。悪意のないその声は、だけど彼の世界をやさしくつき崩す。はやくせわしない呼吸がゆるゆると速度をおとし、やがてのどを溢れかえったなにかがぴったりとふさいでしまった。彼は身じろぎもせず、髪の毛がひとふさゆっくりとすくわれる。あたたかいてのひらがそっと彼のあたまを包み、砂でざりざりのコンクリートをスニーカーの底がひくく掻いた。雨が。
雨が窓をしずかに叩いている。しずかにしずかにひたひたと叩いている。心臓が彼の血液をしずかに叩いていて、呼吸が彼の横隔膜をしずかに叩いている。日に焼けたてのひらが彼のそばのコンクリートをしずかに叩き、崩れかけた彼の世界はおおきくゆらいだ。どうかこれ以上なにもしないでと、まるい世界を内側から彼はしずかに叩く。雨が窓をしずかに叩いている。しずかにしずかにひたひたと叩いている






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土門と影野。
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